――第 108 幕 排泄と落下――
極限まで収縮した黄土色の土壁が、四人の肉体を押し固めている。 寸法が足りない。 肋骨が内臓の柔らかい部分に深く食い込み、ギシッと鈍い摩擦音を立てる。 チンピラの汗で固まった脂ぎった金髪が、「私」の半開きの口に入り込んでいる。 乾燥しきった舌の上に、古い皮脂の味と、饐えたアンモニア臭がベットリと張り付く。 息を吸い込むたび、肺の奥底に細かい砂利が沈殿していく。 「私」は左手の指先で、パジャマの第一ボタンを何度も弾く。
カチッ、カチッ。
プラスチックの微小な音が顎の骨を伝う。
前方の壁に、縦一文字の亀裂が走る。 巨大な肉の括約筋が、微細な痙攣を伴いながらゆっくりと外側へ向けて反り返った。 水分を含んだ肉と肉が擦れ合う、重い摩擦音が鼓膜を叩く。 開いた裂け目から、黄色く濁った粘液が糸を引いてポタポタとこぼれ落ちる。 冷たく乾いた光が突き刺さる。 視界の端が白くチカチカと明滅し、眼球の裏側で青白い火花が弾ける。 饐えたアンモニア臭が膨張する。 ボタンを弾く。
カチッ。
この肉の壁がなぜ突然開いたのか、その排出のメカニズムと落下の軌道を論理的に計算すべきなのだろう。 だが、息を吸い込むたびに鼻の奥へへばりつく饐えたアンモニアの悪臭と古い皮脂の味が、脳細胞間のシナプスの接続を強制的に切断していく。
この不潔な臭気が邪魔だ。
気管が細かく痙攣し、まともな思考の結線が組み上がらず、ドロドロに溶け落ちていく。 それはまるで、かつて泥の底に沈めた見知らぬ死体の……いや、違う。 なんだろう、あれは。
どうでもいい。
この不快な視界の明滅の奥にある連想に、意味などあるはずがないのだ。
足元の床が消失した。
「……ッ」
喉の奥から空気が搾り出される。 私たちは塊の状態から空中で解け、真っ逆さまに放り出される。 それはまるで、秋の終わりに散る枯葉のように……。 気圧が急降下する。 鼓膜が内側からパンパンに張り詰め、頭蓋骨の中で高周波のノイズが乱反射する。 猛烈な風圧が、パジャマの生地を激しく叩きつける。 眼下に、ひび割れた灰色のコンクリートのような大地が広がっている。
そこを埋め尽くすように、グレーのスーツ姿の男たちが、互いに一定の距離を保ちながら歩き続けている。 彼らの肩から上に、頭は存在しない。 スパッと切断された首の断面から、黒い粉塵が絶え間なく噴き上げられている。
私は、空中で離れ離れになる彼らに手を伸ばし、共に衝撃に備えるべきなのだろう。 いや、本当は違う。 私はただ、彼らが重力に無防備に放り出され、パニックに陥って無様に手足をバタつかせながら落ちていく様を、薄目で見下ろしていたかっただけだ。 他人が本能的な恐怖に支配され、自分以上に惨めに壊れてくれればくれるほど、あの不潔な病室で暴かれた私自身の罪悪感の輪郭が相対的に曖昧に塗り潰されていく。 彼らが悲鳴を上げて墜落すればするほど、自分だけはまだ「正常で、運命を受け入れている側の人間」なのだという錯覚にすがりつくことができる。 そんな極めて卑小で醜い自己正当化の欲求が、空中で彼らの手を掴もうとするエネルギーを根こそぎ奪い去っていくのだ。
乾燥したウールのスーツが擦れ合う「カサカサ」というノイズが、下から這い上がってくる。 背後で、チンピラが上下の歯を不規則なリズムで激しくぶつかり合わせる。
ガチガチガチ。
警官は自らの親指の爪を犬歯で激しく噛みちぎる。
カリッ、カリッ。
爪が皮膚を削る。 冷たい風が皮膚の水分を奪う。 「私」の胃壁が雑巾を絞るように激しく収縮し、舌の裏側に酸っぱい味が広がる。 「私」は大きくずらした顎を戻し、過剰な唾液をゴクリと無理やり飲み下した。
右手のポケットの底。 完全に炭化して肉と癒着した佐渡赤玉石が、チリチリと微熱を放っている。
この冷徹な物理的痛覚に没頭していれば、自分が加害者ではなく、無力な被害者であるかのように振る舞えるという、浅ましい自己欺瞞。
焦げた肉の香ばしい悪臭が、アンモニア臭と衝突する。 左手の親指の爪で、人差し指の腹を強く引っ掻く。 ジワリと血が滲み、微かな鉄錆の味が口内に広がる。
カリッ、カリッ。
爪が皮膚を削る。 パジャマのボタンを弾く。
カチッ、カチッ。
冷たく乾いた風とアンモニアの悪臭がこもる空間に、ただ風切り音と、プラスチックの反復音だけが充満し続けていた。




