あんた誰だよ!?
漳州から福州まで、陸路を五日歩いた。
福州から船に乗り換え、海路を北上して太倉に入り、運河へと移る。ここからが、この旅の真に長く過酷な道のりだった。
北方の秋は訪れが早い。山東を過ぎると、川面にはすでに薄っすらと霧が立ち込めていた。両岸の枯れ果てた黄色い葦が水面に影を落とし、船の立てる波紋とともに揺れている。空模様さえも肌寒く感じられた。
林海棠は船室に座り、これまで通ってきた地形を心の中でなぞっていた。
どこに山があり、どこに川があるか。どこが水運の要衝で、どこが官道の喉首か。祖父から教わった知識と一つ一つ照らし合わせ、合致するものを記憶し、異なるものもまた記憶に留めた。
護衛の厳同書は二時間(一刻)おきに様子を見に来たが、多くを語ることはなかった。ただ人が船から川に落ちていないかを確認し、見終わるとすぐに去っていく。
この『把総』という武官は非常に手際が良く、道中の必要な伝達事項以外、海棠と雑談することはほとんどなかった。ただ時折、船室に菓子を差し入れてきては、「楊総督からの言いつけで、道中決して粗略に扱うなと命じられておりますので」と言うのだ。
(仕事がクソ真面目すぎるんだよ。それにこの菓子、喉に詰まりそうだし!)
海棠は心の中でツッコミを入れた。
十月初二、船は山東の臨清に到着した。
臨清は運河の枢要な宿場町であり、南へ北へと行き交う水運船や官船がここで交差する。船着場には無数のマストが林立し、遠くから見ると葉の落ちた冬の森のようだった。
「林公子(若君)」
厳同書が船室の扉を叩いた。
「前方の臨清関で通行手形の改めがあるため、半日ほど停泊します。今のうちに上陸して食事を済ませましょう。船の食事はあまりにも味気ないですから」
連日の塩漬け野菜と硬い餅の生活に心底うんざりしていた海棠は、それを聞くや否や寝台から跳ね起きた。
船着場から西へ半通りほど歩いたところに、「聚徳楼」という看板を掲げた酒楼があった。入り口には何台もの官製の駕籠が停まっており、明らかに高官や貴人が立ち寄る場所である。
厳同書はいくつか料理を注文した。牛の醤油煮、肉団子スープ、白菜の黒酢炒め、そしてジャージャー麺。北方の料理は味が濃く油もたっぷりで、閩南(福建南部)のあっさりした味付けとはまるで別物だ。
この食事は、海棠を泣きそうにさせるほど美味しかった。九歳の身体はまさに成長期である。何日も塩漬けの野菜ばかり食べさせられて吐き気がしていた彼にとって、久々の肉の脂は最高のご馳走だった。
二階の個室は窓に面しており、外の船着場を行き交う人々が見下ろせた。海棠は麺をすすりながら、習慣的に窓の外の動きを観察していた。
食事の最中、突然隣の個室から豪快な笑い声が聞こえてきた。笑い声の直後、ひときわ大きな声が続く。
「おいおい、この煙草の葉は駄目だ。ヨモギが混ざってやがる。悪徳商人め! 悪徳商人め!」
重厚で張りのある声色には、北方人特有の粗野な雰囲気が漂っていた。続いて、板壁の隙間から強い煙草の匂いが漂ってくる。
厳同書は眉をひそめ、一つ咳払いをした。
「どこのどいつだ、こんな酒楼の中で絶え間なく煙草を吸い続けるほどの阿呆は」
海棠は何も言わなかったが、食事の手はピタリと止まっていた。
煙管?
清朝中期に、酒楼で周囲の目を気にせず煙草を吸い、しかも煙草の品質に極めてうるさいという振る舞い。彼はある一人の人物の記録でしか、そんな話を読んだことがなかった。
(まさか、そんな偶然があるだろうか?)
「厳把総、申し訳ありませんが、臨清関の方へ急ぐよう催促してきていただけませんか? 手形の確認がいつ終わるか見てきてほしいのです」
海棠は箸を置き、口元を拭った。
「私はここで待っていますから」
厳同書は少し躊躇い、周囲を見回した。この酒楼は危険な場所ではないが、九歳の子供を一人残すのはどうしても不安だった。
「部下を二人、一階で見張らせておきます」
厳同書はそう言い残し、席を立って出て行った。
彼が去った後、海棠は茶碗を手に取り、椅子の背にもたれかかって、隣の個室の気配に耳を澄ませた。
隣には複数人の声が聞こえた。
「春帆兄、このたび南下しての督学(視察)、何か収穫はございましたか? 聞くところによれば、今年の山東の試験、学問の風紀は以前に比べてずいぶん落ちているとか」
これは少し甲高い声で、媚びるような響きがあった。
「風紀がどうこうなどと、弟よ、私の心配など無用だ」
煙草を吸いながらの声がハハハと笑った。
「それよりも面白い話があってな。耳にしているか? 福建の海澄から、九歳の『小三元(県・府・院の試験を全て首席で合格した者)』が出たという話を」
海棠は危うくお茶を気管に詰まらせそうになった。
「聞いておりますよ」甲高い声が答えた。「どこもその噂で持ちきりです。なんでも『盛世の元音』だの『文曲星の天下り』だのと。私の見立てでは、どうせ長老あたりが代筆して名声を得ようとしただけでしょうがね」
「それはどうかな。あの王傑が直筆で『器を以て用を致し、この子本を知る』と評したのだぞ。あの石頭の性格はお前も知っているだろう。彼にそんな評語を書かせたのだから、ただの凡人ではあるまい」
「なるほど、確かに。さすが春帆兄! 私の思いもよらないところまでお気づきになるとは!」
海棠は心の中で呟いた。
(紀昀、字は暁嵐、号は春帆。乾隆十九年に進士となり、翰林院の庶吉士を授かり、後に編修に任じられた。乾隆二十七年の今、彼はすでに翰林院の侍読になっているはずだ。働き盛りであり、ここで彼に遭遇するのも道理が通る。今年、彼は臨清周辺で民間の奇聞を収集している時期のはずだ)
海棠は少し躊躇した。
出会ってしまったものは仕方がない。この時期の紀暁嵐はまだそれほどの大物ではなく、翰林院の才能ある中堅官僚に過ぎない。しかし、彼には今の海棠が喉から手が出るほど欲しているものがあった。
それは『人脈』である。
翰林院は清朝官界における人材の貯水池だ。後の閣僚や尚書の半数はそこから輩出される。紀昀は翰林院での人望が厚く、誰とでも話ができる。もし今、彼と繋がりを持てれば……。
海棠は考えた末、ある決断を下した。
彼は携帯している籠から紙の巻物を取り出し、机の上に広げ、筆に墨を含ませて字を書き始めた。
『臨清州は、漕渠(運河)を引き、原隰(平野や低湿地)を帯び、南は徐州・沛県に通じ、北は天津に達す。南の食糧を北へ運ぶ喉首なり』
書き終えると、その下に自分なりの注釈を一行書き加えた。
『臨清関が毎年徴収する船の関税(船料銀)は四万三千両余りであり、運河八関の筆頭である。しかし関所の役人の過酷な搾取により、商人や旅人の怨嗟の声が道に満ちている。この状況が長く続けば、商いの道は必ず衰退するだろう』
彼は紙を乾かし、机の最も目立つ場所に置いた。そして茶碗を持ち上げ、再びお茶を飲み始めた。
隣の会話はまだ続いている。半炷香(約十五分)ほど経った頃、隣の扉が開く音がした。
足音が廊下を伝って近づき、海棠の個室の前で止まった。
「店主がこの部屋には小さな坊っちゃんが一人で食事をしていると言うから、信じられなかったんだが。おや、本当に子供じゃないか」
紀昀はそう言って扉の枠にもたれかかった。真鍮の吸い口の煙管をくわえ、藍色の直裰(着物)を着ている。どう見てもまともな朝廷の役人には見えず、あちこちを渡り歩く講釈師のように見えた。三十八歳の紀昀は、後世の肖像画に描かれる白髭の老人よりもずっと生気に満ちていた。
紀昀は遠慮することなくまっすぐ入ってくると、向かいの席に座った。
「お前が、林海棠か?」
海棠は少し驚いた様子を見せ、茶碗を置いて立ち上がり、礼をした。
「後学の林海棠と申します。先生にお目にかかれて光栄です。しかし、先生はどうして私の名をご存知なのでしょうか?」
「お前を護衛している把総が一階で見張っているだろう。腰牌には閩浙(福建・浙江)督標の札がかかっていた。今の世の中で、総督役所に兵を出させて護衛させるような九歳のガキなんて、天下広しといえどお前一人くらいなもんだ」
紀昀は豪快に手を振って椅子に深く腰掛けた。彼の視線は、机の上に置かれた折り畳まれた紙に落ちた。
「そりゃ何だ?」紀昀は手を伸ばして取ろうとした。
「先生、どうぞご覧ください」海棠は止めなかった。
紀昀は紙を広げ、一瞥して口角をわずかに動かした。
「『読史方輿紀要』か。こいつは随分と敏感な代物だな」
後半を読むと、彼の目が鋭くなった。「臨清関が毎年徴収する関税が四万三千両余り……この数字、どこで見た?」
「閩浙総督の役所が毎季、各省の邸報(官報)を府県に転送しているのです。私の祖父は漳州府の幕友(補佐官)と旧知の仲でして、たまにそういったものを見せてもらえるのです」
(もちろんデタラメだ)と海棠は心の中で思った。(どうせどこで読んだかなんて調べられやしないさ)
紀昀も明らかにその説明に無理があると感じていたが、深くは追及しなかった。
「関所の役人の過酷な搾取により、商いの道は必ず衰退する、か」
紀昀は後半の文章を一度読み上げると、紙を置き、再び煙管をくわえて深く煙を吸い込んだ。「自分が何を言っているのか、分かっているのか?」
「私はただ、事実に基づき意見を述べたまでです」
「事実に基づき意見を述べただと?」紀昀は鼻で笑った。「臨清関を誰が管理しているか知っているか? 戸部(財務省)直轄の役人だ。毎年の税銀には定額がある。多く取りすぎれば苛政と呼ばれ、少なければ赤字になる。お前のような九歳の子供がここで商いの道を大いに語るなど、噂が広まれば、お節介な連中は『あいつは朝廷の税政を皮肉っている』と言うだろうぜ」
海棠は紀昀の目をまっすぐに見つめ返した。
「私が知っているのは、朝廷が求めているのはその四万三千両という定額であり、この運河の水面の繁栄であるということです」
海棠は相手の気迫に怯むことなく、手を伸ばして茶碗の縁の水を少し指につけ、机の上に横線を一本引いた。
「しかし今の臨清関は、まさに先生が仰る通り、関所は戸部の財布です。ですが、もしその財布の口をきつく締めすぎれば、中の砂金が流れ出ないばかりか、逆に財布自体が破れてしまいます」
「税には定額があれど、貪欲には限りがありません」海棠の声は変わらず堂々としていた。「商人が関所を通る際、表の税が一つなら、裏の賄賂や悪習による徴収は三つにもなります。商人に利益がなくなれば、陸路に変更するか、いっそ商売を辞めてしまうでしょう。一度商いの道が途絶えれば、その四万三千両の定額はどこから来るのでしょうか? その時になれば、もはや『商いの道が衰える』などという問題ではなく、戸部がこの臨清関の役人を問罪することになるでしょう」
紀昀の煙管を持った手が空中で止まった。
この言葉が、戸部の給事中(監査官)や御史(監察官)の口から出たのであれば、珍しくもない。
だが、これが九歳の子供の口から出たのだ。
「この道理は、お前の祖父が教えたのか?」紀昀は目を細めて海棠を見た。
「道理は人の心に自然とあるものです。それに本にも書いてあります」海棠はその紙を指差した。「『食貨志』に明白に書かれています。分かっていないふりをするのは、分からない者だけです」
「はははは!」
紀昀は突然大声で笑い出し、机の上の茶碗まで揺れた。
「『分かっていないふりをする』か、いい言葉だ! この大清の官界では、賢い者が愚かなふりをし、糊塗な者が賢いふりをしている。まさにその通りじゃないか!」
彼は笑い終わると、煙管の雁首を机の脚にコンコンと打ち付けて中の灰を落とし、立ち上がった。
「この紙は俺がもらうぞ」紀昀は手を伸ばし、机の上の紙を折りたたんで懐にねじ込んだ。
海棠は一瞬呆気にとられた。「先生、それは?」
「なんだ? 惜しいか?」紀昀は横目で彼を見た。「お前がわざとこれを机の上に置き、わざと窓を開けて墨の匂いを漂わせたのは、俺という魚を釣るためだろうが?」
海棠は見透かされたことへの焦りを見せるどころか、堂々と立ち上がり、拱手して礼をした。その顔には九歳の子供特有の純真な(※嘘である)笑顔が浮かんでいた。
「太公望が魚を釣るように、釣られるのは自ら針を飲み込む者です。先生が針に食いついたということは、私が用意した餌が少しは味わい深いものだったということでしょう」
「へっ、この小僧!」
紀暁嵐は呆れて笑った。彼は海棠を指差し、次に自分を指差し、最後に仕方なさそうに首を振った。
「よし、お前の勝ちだ。林海棠、だったな? 覚えておく!」
彼は腰から古びた木札を取り出し、海棠に向かって無造作に放った。それは彼の私室である「閲微草堂」の出入りを許可する対牌(通行証)だった。金銭的な価値はないが、北京の文人界隈においては、十分な顔パスとなる代物だ。
「都に入り、落ち着いたら、単に口喧嘩の相手が欲しいなら虎坊橋の俺のところへ来い」
紀昀は再び煙管に葉を詰めながら、振り返らずに言った。
「だが、嫌なことは先に言っておくぜ。文章が上手いのは大した才能じゃない。あの北京という巨大な泥沼の中で生き残り、お前のその守りに入らない鋭気を保ち続けられるかどうかが、本当の才能だ。なんせ、ある人が言ったように、『永定河の亀の数だって、知府クラスの役人よりはずっと少ない』んだからな!」
出口に差し掛かったところで、紀昀は足を止め、煙の輪を吐き出しながら、意味深長な言葉を付け加えた。
「皇帝陛下が何かを聞かれたら、聞かれたことだけを答えろ。聞かれていないことまで答えるな」
「皇帝陛下がお前を褒めたら、恩に感謝しろ。調子に乗って木に登るな」
「よく覚えておけ。苗が早く育つのは才能じゃない。生き残ることこそが才能だ」
そう言い残し、彼は階段を下りていった。足音は一段一段遠ざかり、葉巻の残り香とともに、やがて一階の喧騒の中へと消えていった。
「本当に面白い人だ」海棠は低く呟いた。
ちょうど外から戻ってきた厳同書は、海棠が手に何かを持ってぼんやりしているのを見て尋ねた。
「林公子、それは?」
「なんでもありません」海棠は木札を懐の奥深くにしまった。「道案内をしてくれる人に会っただけです」
「臨清関の手続きが終わりました。さあ、船に戻りましょう」
……
聚徳楼の外、日は西に傾いていた。
紀昀は酒楼を出ると、冷たい風に吹かれて首をすくめた。手にはまだ、あのしわくちゃの紙を握りしめている。
「あの子は、化け物だな」
「化け物ですか?」同行していた通州学政が近づき、怪訝そうな顔をした。
「あいつが書いたものを見たら、そんな風には思えなくなるさ。気になるか? 見せてやらないけどな」
「春帆兄、ご冗談を。頂けないなら、無理にはいただきませんよ」通州学政は愛想笑いを浮かべた。
臨清関が毎年徴収する船料銀は四万三千両余り。
この数字を、彼は戸部の邸抄(内部報)で見たことがあった。しかし、邸抄に書かれていたのは「四万二千八百両」であり、あの子供が書いた数字とは数百両の差がある。
まさにその差の数百両こそが、今年新たに追加された「損耗銀」なのだ。
しかし、今年の邸抄はまだ各所には配られていない。
これが何を意味するか?
つまり、林海棠の言った「たまに見せてもらえる」などという言葉は完全にデタラメであり、彼の情報源は、彼が言ったよりも遥かに迅速だということだ。漳州から来たばかりの九歳の子供が、どうしてこんな内部事情を知っているのか?
彼は翰林院に長年身を置き、数多くの天才を見てきた。一度見たものを忘れない者、七歩歩く間に詩を作る者、十二歳で『十三経注疏』を逆から暗唱できる者。
しかし、九歳という年齢で、戸部の役人すら正確に答えられないかもしれない関税の数字を、ピタリと言い当てる天才など、見たことがなかった。
紀昀は足を止め、船着場の端に立ち、運河を行き交う船を見つめた。
彼はふと、あることを思い出した。
先ほど自分が「苗が早く育つのは才能じゃない、生き残ることこそが才能だ」と言った時の、あの子供の目。
それは教えを受ける目ではなかった。まるで、林海棠がその言葉をとうの昔から知っており、深く同意しているかのような、一種の共感の色だった。
紀昀は火の消えた煙管をくわえたまま、風の中でしばらく立ち尽くした。
「春帆兄? 何をぼんやりされているのです?」
紀昀がいつまでも無言でいるのを見て、通州学政がたまらず尋ねた。
紀昀は我に返り、煙管に再び火をつけ、一口吸って白い煙を吐き出すと、北方の灰色の空を見上げた。
「いや、なんでもない。ただ、これからの四九城(北京)は、ずいぶんと面白くなりそうだと考えていただけさ」




