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「火山の国との外交、交易の件、了解した」
王太子から伝令鳥が戻って来た。
「これから王都を出発して火山の国の港を目指します。しかし、まだ帰路方法は未定です」
と再度、休む間もなく伝令鳥を飛ばす。魔道具とはいえお疲れ様だ。
翌日の午前中は出発の準備をして、昼食後に午睡をしっかり取って日暮れの出発に備える。
スネイプニル達にもそれを伝えておく。
「なあサム、君は王配殿下に雇われている呪術師なんじゃないか?」
「王配様の命令で私達を守ってくれていたの?」
「これはこれは…驚きましたなぁ。いつからお気付きに?」
「まあそれは…でもスネイプニル達の事も守ってくれていたのでしょう?」
サオリ達のココナッツには何か呪いの言葉と模様が毎回、描かれていた。気になって図書室で調べたら全く同じではなかったけど、それは護符なんだと気付いた。
スネイプニルは神獣だから呪いとか効くのかどうかは分からないけれど“守ろう”というその配慮はとても嬉しく思った。
「王配殿下は南の国であなた方に迷惑を掛けたから、この国での滞在中には呪術で脅かされる事がないようにと、細心の注意を払っておられました」
…ペンと指輪の事は黙っておこう!とザック殿下と目で語り合う。
「ありがとうございました。色々ありましたけど滞在はとても快適でした。特にハンモックは寝心地が良いですね。移動の際は荷物にもならず便利だと思いました」
「我々の国は年中暑いですからね。ハンモックは湿気も籠らないから良いのですよ」
「なるほど。たくさんお世話になりました。サムもお元気で」
本当の名前もサムではないのだろうけど。
出発時には女王陛下と王配様だけでなく、歴史家の先生やメリッサさん、マギーさんや次男さんまでお見送りに来て下さった。
「また遊びに来て下さい」
黄金の瞳をキラキラさせて王子殿下が西の言葉で仰って下さった。とっても可愛い彼は、王配様に似てかなりのイケメンになるだろうな。
王都から港までは何ヶ所も砂漠を横断する為、馬車での移動が不可能で普通の馬で最低でも10日はかかる距離だそうだ。マギーさんは3週間はかけて移動するのだと仰った。更にラクダによるキャラバンは1ヶ月近くかかるらしい。
王都を抜けて次の街までは道もあって1日だが、その後は道は無くずっと砂漠だ。砂漠を越えると次の街があるが、その街までは最短で約3日だ。
冬場には砂嵐もあるらしい。夏場には滅多に発生しないが夏場の砂漠横断は、とにかく日中の気温上昇が問題でキャラバンもなるべく避けるハードな旅らしい。
そして次の街までも砂漠の横断だ。
冬場はオアシスが所々あるらしいが夏場は干上がっている可能性が高く、行ってみるまで分からないと説明された。
次の街までは砂漠を約4日、そして次は岩だらけの礫砂漠を抜けるとキャラバンで成り立つ村があり、そこからは再び道があって港の街に着けるそうだ。
確かに聞くだけで大変そうな旅だ。
冬場でもキャラバンが1ヶ月近くかかると言うのは納得だ。
砂漠には全く日陰が無いそうなので、王都の次の街の宿でテントを準備してくれるそうだ。私達用の小さい物とスネイプニル用の大きい物。ちょっと荷物にはなるが命には変えられない。
「砂漠には危険な生物はいないのか?」と質問すると、ヘビやサソリなどの毒のある小動物に注意しろと言われた。
砂漠のど真ん中にはほとんど動物はいないそうだがオアシスには何かがいる可能性もあるから、見付けても手放しで喜ぶなとアドバイスされた。
夏場は盗賊もお休み中らしいがオアシスでは気を付けないといけないらしい。オアシスって案外危険なのね。
多分、今回の旅の中でこの砂漠横断が一番ハードだ。
山脈を駆け上がるスネイプニル達でも心配だ。
「サオリ、もし無理だと思ったら直ぐに戻ろう!無理しないで行こうね。近所の砂漠より何倍も大きいし、日中は暑くて夜は氷点下なんだって。そして進む方角を誤ると遭難するらしいの。そう何も目印が無いからね。この方位磁石って言う機具で方向を確認しながら進むのよ。星の位置で確認もできるんだって」
リリベルはサオリに地図を見せながら説明する。
「各街に配置してある兵士の駐屯地からハヤブサも巡回させるから、心配しなくて大丈夫だ」
王配様がそう言って安心させてくれる。
先に向かった王弟殿下も順調らしいから平気だと。
私達も魔石をたくさん装備しているし、過信はダメだけどきっと大丈夫。
日が暮れてきて、いよいよ出発する。
女王陛下が街中の各所に兵士を配備して王都を抜けるまで一部の道を通行止めにしてくれている。お陰で隣の街まではきっと夜中に着きそうだけど、砂漠に入る前にその街には必ず寄るように言われている。テントなども、そこで渡される手筈になっているし建て方の説明も受けなきゃいけない。
再度、お礼を言って別れを告げる。
そうして沢山の人々に見送られ私達は馬上の人になった。




