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東の神様が下さった結婚指輪は、神様の遊び心だけじゃなく実は良からぬ薬物に反応する指輪だった。これまで薬物を盛られた事が無かったから指輪の効果に気付けなかったのだ。
ペンは呪術を防ぎ、指輪は薬物に反応する。
私達は実はとても凄い贈り物を神様に頂戴していたのだ。
神様はもしかして、ザック殿下が南の国で薬物を盛られた事を気にかけて下さっていたのだろうか?
あの日、女王陛下の飴に触れた時に初めて指輪の効果を知ったのだけど、神様、ちゃんと教えてくれてたら良かったのにな〜。
まあ、ペン同様、神官様に見てもらえば直ぐに分かったんだろうけど、今回そんな暇もなく旅に出たからね。
神様とお会いした時に、お礼をちゃんと言いそびれた事が今さら悔やまれる。
あの日、指輪の機能が分かってからは、私達は飲食物を全て左手でもらうか、左手に持ち替えて確認するようになった。飴の時以降、指輪が反応する事はなかったが、まさかパーティで渡された飲物に光るとはね…。
ザック殿下と目が合う。
ザック殿下は飲物を、近くに控えていたサムに渡し、メリッサさんに「明日の移動の為に今日はお酒を控えている」と伝えてもらっていた。
殿下、優しいな。でもリリベルは名前も聞いておくよ。
あなたは術者を雇っている人かもしれないもんね。
だが薬物飲料は彼だけではなかった。
お酒は同じようにして断った。だがその内「酒は飲まない」が静かに広まったのかジュース類に変わってきた。
「甘い飲み物は好みません」
で断ると、フルーツ水がやって来たが、これもまた何か入ってるし…。
皆、一体何を飲ませたいの?!
リリベルの心の“お名前メモ”も洪水を起こしそうだ!
ここにいる貴族や商人には、まともな奴はいないのか?!
私達がこれだけ断っているのにバレてないと思ってるの?
リリベルはとうとう笑顔で言ってみた。
「あなたが飲んでみて?」リリベル妃がそう仰っております。
メリッサさんが通訳すると、相手の男性は「私からの飲物を疑うのか?」と言ってきたので、ザック殿下がサムではなく同じく壁側に立っていた毒味役を呼び寄せると、男は慌てて去って行ったが名前はちゃんと控えたからね!
何人も薬物飲料を勧めらたので王配様と宰相閣下の元に一旦下がらせてもらう。
女王陛下は少し滞在されて、すでにお下がりになっている。
「二人共、やはり人気者だな。だが上手くかわしているようだな」
と王配様が南の国の言葉で仰った。
「王配殿下、先程から薬物入りの飲物を何度も勧められています。一体、何を混入させているのでしょうか?」
「何だと?!」
「誰がそんな物を?!」宰相も驚いている。
「怪しい飲み物を勧めた貴族も商人も全員、名前を覚えましたので、後でお知らせします」
「分かった。済まないな二人共。大変な思いをさせてばかりだ。明日はもうここを去るのにな」
「いいえ。でも我々もそろそろ、この場を下がろうと思います。もう十分付き合いましたよね?」
「ああ。後は私達が相手をしておこう。本当に仕方がない。君らに薬を盛ろうとするなんて」
私達が開場を去ろうとすると、まだ挨拶できていない者達から抗議の声が上がった。ただの挨拶だけならまだしも、娘の紹介と薬物飲料の提供はもう勘弁だ。
「娘の紹介と飲食物の提供は控えて欲しい。彼らは新婚旅行で来ているのだ。無礼な行為は控えよ」
と宰相が言って下さった。
しかし紹介は無くなったが、今度は娘が単体で来始めた。
どういうこっちゃ?
女性には火の粉の妖精は嫌われるから火加減アップか?
私達が会場を去りそうになったから、慌て出したのか飲食物はダメって言ったのに飲み物を勧めてくる女性もまだいる。
赤い髪ってそこまで人気なの?!皆さん落ち着いて!
私達が下手に出ているからか、とうとう私をザック殿下から引き離そうとする女性集団まで現れた。
火の粉の妖精スタイルの私がか弱く見えたのか、腕を強引に引っ張ってザック殿下の側から離されそうになる。
しかも仲間の女性は周囲から見えないように盾になっている。
これ、もうご立腹案件だよね?
リリベルは腕を掴む女性の腕を、逆に掴み直して魔法を込めて女性を石化してやった。
「我々にこれ以上の無礼を働くなら全員、石にしてやります!」
火山の国の言葉でしっかり伝えると、女性達は蜘蛛の子を散らすように慌てて散って行った。
「妖精を怒らせた者は神罰が下るぞ!薬物を盛った奴らも全員覚えたから覚悟しろ!」
ザック殿下も火山の国の言葉でそう言うと、王配殿下が会場のホールの入口を塞ぎ、更に兵士を中に突入させた。
そしてリリベルとザック殿下に薬物を盛った貴族や商人、娘達が次々と捕まっていく。このパーティの半数以上が逮捕されたのだった。




