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「こんにちは。私は西の国のリリベルです。こちらは通訳のメリッサさんです。彼女の事はご存知ですよね。私はまだこの国の言葉を上手く話せないので時々、通訳を挟ませてもらいます」
侍女は私をチラッと見たが表情を変えず牢の隅に座り込んでいる。
「私の事、恨んでますか?怒ってますか?」
声を掛けても表情すら動かさない。うん手強そう。
でも捕まった時、暴れたり犯行を否定せず大人しく牢に入ったらしいから、色々覚悟をしていたんだろう。
「本気で女王陛下やお腹のお子さんに危害を及ぼすつもりは無かったんですよね?だから女王が口にする前に自分で飴を服用した。寝室の呪物もよく調べて貰ったら完璧な呪物ではなかったそうです。鑑定をしたのは、あなたの弟さんですよ」
侍女は少し反応したが、また顔を隠すようにうずくまる。
「何が目的だったのか考えてみたんです。前宰相の命令だったのかとか?」
「それは違います!前宰相閣下は、伯父はそんな事されません」
そこで初めて彼女が反応した。
今まではこの質問にもダンマリだったらしいけど、私には誤解されたくない事実があるのだ。という事は私に望むのは一つだけだろう。
「あなたは騒ぎを起こして目立つ事で、私に気付いて欲しかったんでしょう?父親の石化を解いて欲しいから。そしてあの日に騒ぎがあったのは、私達が滞在先を移す事になったからあなたは焦った。私に頼めなくなってしまうと。違いますか?」
侍女は再び黙り込んでうつむいた。
「あなたの父君の石化を解きます。それがあなたの目的というか望みでしょう?」
侍女は顔を上げて切実な目で私を見る。
「本来なら私に直接、頼みたかったのでしょうね。でも女王は今はずっと同じ宮で生活しているし、私達は火山の国の言葉が分からない事になっていた。しかも王族である私に直接話し掛けるタイミングもなかった。更に父君の石化は神罰だと聞いていたから断られると思ってましたか?」
「王配殿下も石化を戻す気はないと!今は伯父が時々、父の石像を気に掛けているから誰も手を出さないけど、その内、誰かに粉々にされるんじゃないかって」
「その為に自分を犠牲にするなんて自分の命はどうでもいいのですか?」
「それで父が戻るなら構いません。私の命はどうなってもいいので父を戻して下さい」
「父君は人に戻っても罰を受けますよ。石のままが良かったと言われたらどうします?」
「そんな事!でも辛いんです。父が、大好きな父がこんな姿で晒し者にされていて、皆に笑われている。だったらちゃんと罪を償って欲しい」
あんな輩でも娘には慕われていたのね。
「あなたの気持ちは分かりました。でも実は私、犯人はずっと前宰相だと思ってたんです。だから前宰相に手紙を送ってしまったんですよ」
「何て?!」
「あなたが犯行を自供するなら弟さんの石化を解きますって」
「違います!伯父は何も関係ありません」
「そう。もう手紙を送った後に、私も気付いたんですよ。もう少し早くこの国の呪術の実態や刑法について、知っておくべきでした。もしくはマギーさんと話しておくべきだったか」
前宰相の指示で、あなたが動いていたなら有効な手紙だったはずなんですよ。
「あの女は父も伯父の事も嫌っていました。第二夫人の子だからと!自分は第一夫人の娘だからと偉そうに」
「あなた方のお家の確執は知りませんが、あなた方の罪が軽くなったのは伯父君のお陰だけじゃない。彼女のお陰でもありますよ?それにあなたの兄弟のお一人は彼女の支援を受けて、新しく生活を始めています」
「‥‥‥」
「それと私の手紙に対して前宰相から返事が来たんです」
「おっ伯父は何と?」
「自供でも自首でも何でもするから石化を解いて欲しいと書いてありました」
「!」
「女王陛下も王配殿下も、これ以上、呪いや呪物、薬物に悩まされる事が無くなるなら犯人はどちらでも良いと仰っておりました。両方でも。ですが前宰相はあなたを守りたいのかもですねぇ」
「私が犯人です。私がやりました。伯父は関係ありません。どうか!どうか父と罪を償います。だから石化を解いて下さい」
侍女はリリベルに土下座し、頭を地面に擦り付ける。
「どうせ王族への呪いも薬物混入の罰も処刑です。これまで王家の為に動いていたとしても呪術を返されたり、バレたりしても口封じされるはずだったんです」
「他にあなた方と同レベルの呪術を行える人達をご存知ですか?王族だけではなく、他の術者を囲っている高位貴族がいるようなのですが」
「分かりません。いるとは思いますが術者同士、交流がある訳ではありませんし。ですが我々ではない高度な呪物も危険な薬物も見た事はあります」
「そうですか。あなた方は呪いを返す事は出来ますか?かけた本人に返す呪詛返しです」
「呪いは対象者を限定したものだけ返す事ができます。対象者を絞るには対象にしたい人の髪の毛などの体の一部が必要です。長年愛用している持ち物でも大丈夫です。呪いを返す場合はその対象者を別の人に替えるだけです」
「もしや、ほとんどの呪いは対象者を限定してないのですか?」
「そうです。対象者の一部や持ち物を手に入れるのは面倒ですから。だから対象者の過ごす場所や馬車などに仕掛ける事が多いのです」
「それでは違う人に呪いがかかってしまうではないですか!」
そう言えば南に仕掛けられた呪物の絵は、部屋にいる人の夢に出てくるものだった…。
「だからたくさん仕掛けるのです。それに一度だけではなく、その呪物を破壊や浄化しない限り効果が続く物が多いのです」
数打てば当たる的な?
「そうだ!これ聞いておきたかったんです。2年程前の年末に西の国に目掛けて無数に放っていた呪いは何だったんですか?」
「あ〜…ハゲる呪い」
「待って!ハゲって、赤毛も抜けるわよ!」
「また生えるじゃないですか」
効果が恒久的なものではなかったんだ!安心した、防御壁が弾いてたけど。
『酷すぎる、無差別過ぎる、嫌がらせ』
あ、また五・七・五だ!
そう言えば!R18の方、更新しました。700字くらいのとても短いお話ですが良かったらご覧下さい。




