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「先生、今日もありがとうございました」
「いいえ、あなた方も熱心ですわね。他国の王族でらっしゃるのに、そこまで我が国の事を真剣に学びたいだなんて」
私達はマギーさんのお屋敷に移っても、火山の国のお勉強を続けている。先生は歴史家だが歴史以外にも文化や礼儀、法律や経済にも詳しいので他の講師を呼ばなくても、会話だけでとても勉強になる。
私達以外にも高位貴族の子女達の家庭教師をされているというのも納得だ。
先生のご実家も、嫁ぎ先も神殿にまつわる司祭の家だ。
王都の神殿は東西南北に4ヶ所あって、規模には差はなく、神殿を取りまとめる大神殿のような中央神殿も無いのだそうだ。
そしてフェニックスを祀っている以外は南の国の神社同様、冠婚葬祭を主に司っている。
この国の司祭の仕事はほとんどが家業で、一族による相続が多いのだそうだ。司祭の家に生まれたら神殿関係の仕事に就く事が当たり前なのだと言う。
西と違い、司祭と言っても火属性の司祭がほとんどで、祭事にはフェニックスにちなんで火を使う事が多いから、火属性で良いのだそうだ。
神殿も司祭も呪いに対してはノータッチらしい。
だったら呪いや怪しい薬物だらけのこの国で、どうやって自己防衛すればいいのか?
それを先生に尋ねると「普通の人は、そんなに呪術を仕掛けられる事は、まずありませんからねぇ」と悩まし気に仰った。しかも「民間レベルの呪術は、さほど効力を発揮する物は少ないのです。スパイスやハーブの調合も人と違った味付けや香りを楽しむ程度で、人を害する物は少ないのです」と。
私がこれまでに仕掛けられた呪物の内容を伝えると…
「そんなの国家レベルの呪いですわ」
と仰るのだが、忘れてませんか?私達が王族だという事を…。
だから国家レベルなんだって!
そう言うと「恐らくそこまでの能力を持った呪術師は王族や大貴族が抱え込んで存在を隠しているものだ」とそう仰った。
女王陛下も王配様も私達に何か色々隠してる?
マギーさんもそういう呪術師みたいな人達を抱えているのだろうか?
ただ薬物に関しては「毒味役を雇うしか対策は無いでしょう」と先生は仰った。
「ザック殿下、やっぱり女王陛下を狙った薬物や呪術って前宰相くらいの人じゃないと出来ないって事ですよねぇ?」
「そうだな。普通の人ができる呪術は、気休めレベルだって言っていたものな」
「ずっと私達の国に向けられていた呪術とか、南の国で仕掛けられた呪物とか、あのレベルが通常なんだと思ってました」
「そうだけど、アレが通常だと、かなり国がヤバい事にならないか?」
「ん〜…でも違うって事は意外と犯人は見付け易いのかもしれません」
「高度な呪術をできる人に絞り込めばと言うことかな?でも存在も隠されているなら難しいんじゃないか?」
「…そうですねぇ」
リリベルは考え事をしながらザック殿下に生返事を返す。
お昼時にリリベルはマギーさんと次男さんに「この家でも呪術師を抱えているのですか?」とダイレクトに聞いてみた。
するとマギーさんは急に難しい顔をして黙り込んでしまった。
「…もしかして、この質問を高位貴族にするのはタブーでしたでしょうか?」
「そうですね。かなり失礼にあたりますよ「お前の家は呪術の助けで成功したのだろう?卑怯者め」という意味に取ります」
「わっ!それは申し訳ありませんでした。私はそんな意味で言った訳ではなく、純粋に聞いてみたかっただけなんです」
「では今後はお控え下さい!」
次男さんのこの剣幕…本当に無礼だと思って怒っている?
もしくは図星なのでは?
「およしなさい。お前のせいでお二人にバレてしまいましたよ」
やっぱりだ!
「母上!」
「私の反応がいつもと違ったせいでしょう?普段なら適当に笑って軽く流しますので。でもお二人には話すべきか一瞬悩んだものですから」
「では…抱えてらっしゃると?」
「恐らく…違うわザック殿下。マギーさん、前宰相閣下の弟君は術者ですね?そして、あなたのダンナ様の一人は夫ではなく…あなたの弟もしくは甥なのでは?」
王都の街中を案内して下さったダンナ様のお一人は、呪物に詳しく熱心にお土産用のアクセサリーを一緒に選んで下さった。
「…リリベル妃…あなたは本当に妖精でらっしゃるのではありませんか?」
そう言ってマギーさんは大きく溜息をお吐きになった。




