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「許してやって下さい。今はあの子も妊婦中で自由に動けませんから。ですので、あなた方がこの国で外交に動いて下さっている事で助かっているのです。本来なら夫をあと数人持たねばならなかったでしょう」
あ…それ私との約束のせいで出来なくなってしまったヤツだ!
リリベルの表情で当主は何か気付いたのか…
「ご安心を。女王が王配一筋な事は国民や多くの女性から、とても好感と支持を得ているのです。それに王族が増え過ぎておりましたし、今回のように我が弟のような輩が出てくる弊害もあるのです」
王族の権威を振りかざすだけの者が増えるって事ね。
「あなたにはご夫君が多くいらっしゃるようですが?」
「私の本来の夫はこの者だけですわ」
当主が紹介したのは年配者のほうだ。
では背の高い男性の方は…?
「この子は私の息子ですわよ。オホホホッ」
紛らわしいっ!
「あとの者は…夫ではありますが、私の夫という名の下、色々、支援をしている者になりますの。女性の当主とはそういった者が、恐らく多いと思いますわ」
「女性が結婚後に自由を得ているのと同じですか?」
「そうですわね。ですが女性は男性とは少し違います。子供を最低一人は産まねばなりません」
「子供を産めないとどうなるのでしょうか?」
「夫にもよるでしょうが…酷い場合は離縁され、更には実家からも見捨てられる事がございます」
何て酷い!
「女性当主には、そういう憐れな女性達を多く保護している者もおりますわ。私もメイドや侍女には複雑な事情の女性を何人も抱えておりますの」
「この国は女性一人では生きにくい、もしくは自立しにくい環境なのでしょうか?」
「そういう事ではないのですが、この国は他国と違って人口が少ないのでございます。なので女性は子供を持つ事で一人の人間として認められる風習があるのです」
何だかその場の雰囲気が重くなってしまった。
「殿下方、この後、明日からの外交は全てお断りになって下さい」
重い雰囲気から一転、いきなりのその申し出に私達はびっくりして当主を見る。
「私がやめさせたと知れば文句を言う者は少ないでしょう。それにお二人は、せっかくこちらにいらしたのに何も観光が出来ていないとか?」
その通りだと頷くと…
「明日から我が屋敷に滞在をお移し下さい。王宮は前宰相一族の一件で人員が入れ替わったばかりで落ち着かない上、女王は妊娠している。王配もそれを補うのに忙しい。王弟はまだ若く、半人前です。それに比べ私の屋敷は使用人も長く勤める信用できる者ばかりで安心してご滞在頂けます。あちらもきっと、それを推奨するはずです」
意外な提案に少し混乱するが、一つ問題がある。
「私達は北の神獣スネイプニルを連れています。とても扱いにくい神獣です。東では好奇心を起こした新人騎士が大変な目に遭いました。南でも勝手に抜け出したりして小事ではありましたが問題を起こしています」
「お二人が乗って来た白馬ですわね。その神獣には、どのような対応を望まれますでしょうか?」
「専用の厩舎と広い馬場、できれば木陰があり日中も出れる馬場が好ましい。そして我々以外には懐くどころか世話もさせませんので、遠くから姿を見るのは構いませんが、決してこの国の者が近寄る事がないようお約束頂かねばなりません。興味を持って近付く者には老若男女、善人であろうと子供でさえ容赦しません」
「分かりましたわ。宮殿ほどの広さは難しいでしょうが、厩舎と馬場は確保できます。そして神獣は厩舎を抜け出す可能性もあるのですわね?甘党で果物が好きだという話は本当ですの?」
「‥‥‥果物は好物ですが主食は普通の馬と同じです」
「果物はオヤツなのですわね。でしたら控えめに致しましょ」
理解が早くて助かる。
我々は一度、宮殿に戻って王配様に女性当主の提案を相談すると、私達が今後の招待を断る代わりに、主な貴族や商人を招いた大きなパーティを開いて最後にしようと仰った。いくら有力な女性当主がバックにいても王族を抜けた彼女では貴族の不満が噴出するだろうとの事だった。
確かにもうこの先、面会を望む貴族にはまとめて会ってしまった方が手っ取り早い。
パーティは急だが宮殿で5日後に開かれる事になった。
そして私達は翌日から女性当主の屋敷に移動する事になった。




