73
「ああ…あの女ねぇ…」
女王陛下は気軽に私達を執務室に招いて下さった。
妊娠してから生活のリズムが変わり、体調に合わせながら執務も食事もしているそうで、なかなか私達と顔を合わせられなくて済まないと先に言われていた。
「私も毒味を置いているけど、あなた方も毒味を連れて行くといいわ」
いきなり物騒な事を仰る。
「やはり危険な女性なのですか?」
「…それはどうかしら。とても慎重な女ではあるわよね。今日、いきなり何かされる事は無いと思うけど、あなた方を気に入れば何か仕掛けてくる可能性はあるかもしれないわねぇ」
今日は様子見って事なの?!
「気に入られないのが一番だけど…」
「無理だろ」
「無理でしょう」
王配様も王弟殿下も、どうしてそんなに直ぐに断定するの?
絶対、気に入られるって事?!
「食事会にも茶会にも毒味を一人付けるわよ。あとこの国の言葉は挨拶くらいにしときなさい。そうすれば通訳も一人しかいないから席を分けられる事もないわ」
「それだったら衣装も普通でいいかもな。着飾れば尚、欲しがられるよ」
TPOが難しい国なのね。
出発の準備をしている時に「王子様方の毒味役を担当します」と30代くらいの女性がやって来た。
彼女は宮殿で働く普通のメイドだが今日の毒味当番なのだそうだ。毒味薬は宮殿に従事している下働きの中から、子供を産み終わった女性や年配の男性に交代で数ヶ月に一度くらいの頻度で回ってくる当番制らしいが、拒否もできるそうだ。
だが当番を担当するとお給料にプラスの手当があり、万が一、毒味が原因で体調不良になっても宮殿の医師が診療してくれるから安心だと仰った。
それって…絶対安心じゃないってば。
「ザック殿下、私、もし彼女が目の前で血を吐いて倒れたり、様子がおかしくなったら後々までメンタル引きずると思います」
「リリ、それはそうだが…」
「そうですよ妃殿下、お気を強くお持ち下さい。あなた様は王族ですし、この国の王族もあなた方を守る事は招待した側として責任がありますから」
メリッサさんがそう仰る。
西の国では品質管理や品質維持の魔法で全ての人の食事を守っていた。
それは学院の食事にまで及ぶから、私達って本当に守られていたんだな〜とリリベルは心からそう思った。
宰相閣下のお屋敷同様、立派な豪邸の前で馬車が止まる。
やはり屋敷の主人や一族が出迎えに出てくれた。
今日は二人して大人しめの服装だが、それでもザック殿下の赤い髪に、皆さん反応しまくっている。リリベルを見ても同様だ。
そして案の定「男性席と女性席と席が分かれております」と言ってきた。この男女別の食事もこの国では普通で、むしろ男女一緒になったのが最近なのだと言う。
私達は言葉が分からないフリをして戸惑って見せると、メリッサさんが当主に「お二人は火山の国の言葉が分かりません。それにいつも宴席では毒味役を伴っております。お二人が不安がられないようご一緒の席で配慮をお願い致します」と伝えると、急遽、当主の指示で男女一緒の席になった。
当主は「気が利かなくて申し訳ない」と言っていたので、ワザと席を分けた訳ではなさそうだった。
それからはメリッサさんを挟んで会話をし、昼食会は何事もなく終了した。
帰りの馬車の中で「今回の貴族の方も常識的な方達で良かったですね〜」という話になった。
「だが、あちらの会話に何度も直接反応しそうになったよ。自分は言葉が分からない設定のはずなのに」
それはザック殿下同様、リリベルも同じだった。
「でもこっちが分からないと思って、案外、好き勝手言ってましたよね?」
「メリッサさんの通訳じゃないツッコミも面白かったよ」
「私も最初は言葉や文化で苦労致しましたから」
当主達はやはりメリッサさんに、男女をそれぞれ私達に紹介したいから、取り持って欲しいと何度か頼まれていた。
もちろんそれは無礼行為だとお断りしたが、それ以降も入れ替わり立ち替わりやって来た。
我々は全部すっトボケていたし、メリッサさんも我々が理解しているのを知っているから、関係ない話を東西の言葉で通訳している風に話していた。
これは案外面白い。
そして毒味は当主が先に毒も薬も呪いもやっていないと神獣フェニックスに宣誓し、もし破ったら自分の財も爵位も国に返上すると宣言したので、毒味役の女性は端に控えるだけになった。
だが私達に殺到する人々がうるさくなってきたら、毒味役を呼び寄せて不意打ちで毒味をさせると良いとメリッサさんが途中で教えてくれた。
これは当主の宣誓に対して失礼には当たらず、むしろ「うるさいぞ!」と周囲を牽制できる行為なのだとか。
は〜なるほど。学びが多いメモメモ。
午後のお茶会でも別の人が毒味に来てくれるらしい。
私達は一旦、お昼寝休憩に入ってまたお茶会に備える事になった。




