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マラサダとは、この国の庶民が好むオヤツで、東西のドーナツに似ているが、マラサダはもっとフワフワでもっちりとした食感なのだそうだ。
油で揚げてあるが軽くて何個でも食べれるとメリッサさんは仰った。
主に砂糖やシナモンをまぶしてあって、それだけでも美味しいのだが中にクリームを入れた物もあるそうで、皆、お昼寝の後のオヤツに食べるのだろうと説明して下さった。
「何でこのオヤツの名前が北の国に伝わったんだろ?」
ザック殿下が呟いていたけど、リリベルはそんな事より街歩きの時に絶対食べよう!と心のメモに加えておいた。
マラサダの店は他にもたくさんあるらしい。
繁華街を抜け馬車が豪勢な邸宅の前に止まると、屋敷の主人やその家族がワラワラと出迎えに出て来てくれた。この国の人達は茶色い髪が多いと聞いていたが、出てきた人達もほぼ全員が茶髪だった。
先にメリッサさんが馬車から降りて、次にザック殿下が降りると出迎えの人々にどよめきが広がった。
馬車の中にまでそれが聞こえて、リリベルは「そこまでなんだ!」と思ったが、ザック殿下の手を取って馬車を降りると、皆さん今度は絶句して固まっていた。
やはり火の粉の妖精は効果抜群だ。
ザック殿下はリリベルの腰に腕を回して歩く。
こちらのエスコートスタイルだそうだ。特に夫婦や恋仲のカップルがこのスタイルを取るそうで、兄妹や友人のエスコートは他の国々と同じだ。
王配様もよく女王陛下の腰に腕を回してらっしゃったが、あれは愛情表現なのだと思っていたけどエスコートでもあったんだな。
食事のスタイルは着座だが、ここでは椅子ではなく床に毛足の長い絨毯が敷かれ大きなクッションにもたれて座る形式だった。
食事はお膳で配膳される。これも東の図書館の本で読んだ。
この国ではこの食事スタイルが一般的なんだと書いてあった。
宮殿で王配様達と頂く朝食や夕飯もこの着座式が多いし、火山の国のテントでもこれだった。
街中のレストランは最近では椅子やテーブルがほとんどだそうだが、格式あるレストランなどは、まだこちらのスタイルだそうだ。
だがこの着座式のお陰でザック殿下と密着して座る事ができる。
“二人の間には誰も入り込めません”スタイルだ。
さあ強者共よ来い!
まずは屋敷の入口でも挨拶された宰相閣下ご本人がやって来た。
主人自ら食前酒を注ぎに来たのだ。
宰相は40代くらいの中年男性だ。
「西の第三王子殿下をお迎えできて感激です」
と言いながらお酒を注いでいる。
そしてチラッとリリベルを見る。
私にも頂戴?とリリベルはニッコリ微笑んで杯を出す。
宰相は照れながら「火の粉の妖精にまでお酒を注げるとは」と言って注いでくれたけど、妃殿下だからね?妖精違うぞ!
その後の食事も和やかに進む。
宰相も親族の男性達も“火の粉の妖精”大絶賛だ。
自分の初恋まで語り出すオヤジもいたが、誰も自分の娘を紹介してこなかった。女性陣の方を見ると「紹介しろよ!」的な雰囲気を醸し出していたが、この一族は男性優位なのだろう。
私達が依頼したり男性が紹介を仕向けなければ女性の方からは出てこれないらしい。
そして第一夫人も息子しかいないせいか第二夫人以降の娘達はどうでもいいようで知らん顔だ。だから余計に女性達は出る事ができず、その日は平和に昼食会が終わった。
宮殿に戻るとお昼寝タイムになったので私達もお昼寝して、夕方、スネイプニル達の様子を見に行く。
サオリ達は色艶も良くとても元気だったけど、高カロリーの“食べて飲んで生活”がちょっと気になった。
夕飯の時に王配様に相談すると、王都から一番近い砂漠を教えてくれた。
王都から馬で30分、ラクダでも40分程の距離に、さほど大きくない砂漠があるらしい。夜の砂漠は気温も20度くらいに下がるそうで、人もほとんどいないからスネイプニルと走っても大丈夫だろうと仰った。
そして「今日の宰相閣下主催の昼食会は平和に終わりました」と伝えると「火の粉の妖精の影響力は絶大だろう?」と笑って仰った。
だがしかし、女主人の家ではそうはいかないらしい。
それに宰相閣下も一族も、宰相に選ばれただけあって常識があり、外国のマナーにも通じている。だから私達に無礼を働かないよう配慮していたのだろうと仰った。
そうか宰相一族は手加減してくれていたのね。
明日のお誘いも昼食会で午睡後にお茶会だ。
どちらも貴族だがお茶会主催の当主は女性だ。
何か対策がいるかもな〜とザック殿下と話し合った。




