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翌日の朝からは図書室でこの国の歴史と文化を教わる事になった。
本来なら、火山の国に来たなら直ぐにカレーの食べ歩きや、街歩きをするはずだったのに、朝から高位貴族や大商人達のお茶会や晩餐などの招待が相次いで大忙しのスケジュールになりそうだった。
朝食時、王配様に愚痴をこぼすと「仕方ないさ。赤い髪のアイザック殿下を自分の屋敷に招いただけで自慢できるからな〜」と言われて、リリベルはその発言だけで飲んでいたココナッツミルクの美味しさも吹っ飛んでしまった。
「それでノコノコ訪問したら、第二妃とか即妃とか勧めてくる訳ですか?」
分かっているのに行かなきゃなんないの?
「この国は男女共に重婚が認められていますからね」
「この国のその文化は理解していますが、私達にまで適用されても困るんですけど」
「フム。まあ、それに関しては考えがなくも無い」
「何でしょうか?!」
「まずは今日、図書室で歴史家からフェニックスと妖精の神話について聞いてからだな。話はそれからだ」
あの火加減で表すやつ?
だが妖精の正しい火加減と、妖精とはこの国では一体どういう存在なのか把握しておく必要があるのは間違いない。
朝食が終わると、通訳の女性がすでに待っていて下さった。
図書室に向かう道中で彼女に聞いてみる。
「あなたは、もしかして東の国の出版社の社長の娘さんなのではないですか?」
「まあ!仰る通りでございます。父をご存知でしたか?」
通訳の女性はかなり驚いていた。
「私は父君の出されたガイドブックの情報に、とても助けられました」
「あのグルメガイドブックがですか?」
「はい。あの本の情報のお陰で火山の国の皆様と仲良くなるキッカケを得られましたし、こうやってこの国に招待頂く事もできました」
「まさか、あの本の情報が国交の役に立ちましたの?!」
まあ少々使い方は違うが情報が大助かりだったのは違いない。
通訳の女性のお名前はメリッサさんと仰った。
この会話のお陰か、その後は彼女も私達に打ち解けて下さった。
そして図書室には王弟殿下もご一緒されており、彼は逆に私達を通して異国の文化や習慣を知りたいのだと仰った。
今後、西の第二王女殿下を国に迎えるつもりがあるなら、重婚の習慣は我が国にとって懸念材料にしかならないだろう。
特に私達の国は純愛を尊ぶ女神様の国だ。もちろん重婚にだって純愛もあるだろうし、全ての人が多夫多妻を望むような考えでもないだろう。
王配様だって女王陛下一筋だし。
北の国のように皆、仲良く暮らすなら良い気もするけど。
確か東の図書館で少しかじった内容によれば、火山の国では多妻も多夫も権力や富の象徴だった気がする。
古い慣習を見直す事はきっと容易ではないはずだが、王族から意識を変えていく事は影響力を考えると重要な事だよねと思う。
図書室でお会いした歴史家は意外にも女性だった。
フェニックスを祀る司祭の家系の女性で、父君の仕事の関係で歴史に興味を持たれたのだという。そしてご自身も司祭のダンナ様に嫁がれてらっしゃるが、3番目の妻という立場で子供を一人産んだ後は自由にさせてもらっているらしい。
つまり夫とは、彼女が好きな事をする為のパトロン的存在なのだという。
この国ではそうやって結婚後に自由を手にする女性も多いのだそうだ。
だから2番目、3番目の妻は1番目に比べると、それほど重要ではなく、妻としての役割も家門の仕事も少ないので、割り切っていれば意外と悪い訳でもないと仰った。
うん。やはり実情は色々、聞いてみないと分からないものだ。
私はザック殿下を誰かと共有なんてしたくないけど、もしこの国の貴族に生まれて育っていれば、2番手、3番手などに甘んじて自由を望んだのかもしれないな〜と考えていると「俺は自由を得たとしても君の2番目以降の夫とか絶対嫌だからな」とザック殿下が仰る。
おっと!まさかザック殿下が多夫に回る方を想像したの?
王子なのに。
だけど歴史家の先生も王弟殿下もなぜか頷いておられる。
「フェニックス誕生の神話では、火山のマグマからフェニックスが誕生した時、一緒に飛び散った火の粉が妖精となったと言われています。フェニックスは共に生まれた火の粉の妖精をとても慕っていましたが、火の粉は僅かな時間でパッと消えてしまう。火の粉の妖精は美しいけれど短命だったのです。後に火花や火柱からも妖精は生まれましたが、フェニックスが愛したのは儚い火の粉の妖精だけだったとあるのです」
「アイザック殿下が可憐なあなたに惹かれるのは当然だと言えます」
ちょっと待って!
赤い髪が火山の国にルーツがあるザック殿下ならまだしも、私まで火山の国の神話に当てはめるのは違うんじゃないの?!




