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“Bangsat”は火山の国の言葉で「バカ野郎、クソ野郎」という罵りの言葉だ。
まさか使う機会があるとは…この状況の妻なら仕方がないかとアイザックは思った。空腹の妻は特に凶暴だ。
王配殿下は笑いを堪え、女王陛下は「他国の王族に暴言を吐かせるような無礼を働くな」とその場にいた者達に控えるよう嗜めた。
そして通訳の為に側に控えてくれていた東の国の女性が「東西の国も南の国でも一夫一妻が基本とされ、新婚旅行で来た客に新たな伴侶を勧めるのは、王族相手でなくとも無礼な行為にあたります」と説明して下さった。
リリベルはついでに「食事中はデザートが終わるまで席を立ちません」という最低限のマナーも付け加えておいた。
この国の文化やルールには従うが、今日は我々の歓迎会だよね?と睨みを効かしておくと、その後は静かになった。
「そなたは火の粉じゃなく火花…いや火柱の妖精だったのか?!」
と14歳の王弟殿下に言われたが、違いが分からん!
「そうだった。そなたは儚く見えて実は火柱であったな」
と女王陛下も仰るが、何で人を火加減で表すんだ?!
これは早く火山の国の文化を知らないと、この先の滞在が少し不安になるなと思った。
翌日は朝食後、王配様と王弟殿下、王子殿下が宮殿内を案内して下さった。
気温は高めだが空気が乾いているせいか屋内や日陰はわりと涼しい。そして朝晩も過ごしやすい。
宮殿内の大きな広間、主に貴族達とのパーティなどが開かれる場所に、やっぱりデッカいのがありましたよ!
だけどこれ大きくない?こんなに大きいのを送ってないはずだけど。
「王配様、私達の絵姿、大きくないですか?」
「ああ。本物の絵は我々の私室にあるよ。あれは本物を元にこちらの画家にそっくりに描かせたんだよ」
「‥‥‥よろしいのですか?我々の絵姿をこのような場所に」
「言わなければ君らとは分からないだろ?」
「赤い髪は神獣の象徴ですしね」
「だが瞳は青だ。それに顔は出してないが隣の女性は金髪だし、火山の国とは関係なくないか?」
火山の国に送られた私達の絵姿は、後ろ姿のリリベルの隣に寄り添うザック殿下の絵姿だ。
火山の国から頂いた金糸のレースや薄布が全面にアピールされていて、東の国の王妃様のご実家に送られた絵姿と少し構図は似ているが、こちらの絵はリリベルの顔は出ていない。
だけどベールと共に流れるような金髪が描かれている。
恐らく火山の国に配慮した構図なのかと思われるけど。
「それは…そうとも言えないのです」
「君らは我が国の歴史や文化も知りたいのだろう?滞在中、宮殿の図書室を使うと良い。我が国の歴史家も呼ぶよ。そこの通訳も付けるから安心するといい」
東の国出身の女性が軽く礼をした。
宮殿内の建物の見学をした後、庭園に出ると、また驚く事があった。
「あれっ!王配様、あの石像!」
「ああ。アイツらだよ」
「アイツらって…良いのですか?彼らは王家の親族の方々では?」
庭園の所々に飾られるように配置してあったのは、ザック殿下を南の国で拉致して北の女神様に石化された誘拐犯達だった。
でもこの国の宰相閣下の弟や王族関係者だったはずだが。
「見せしめだよ。アイツらはやってはいけない犯罪を犯したんだ。石化を解かない罰だよ」
「それに宰相は責任を取って宰相の座を降りました。弟があんな姿を晒しているのも恥と感じたようです」
「そんな事、大丈夫なんですか?」
「ん〜でも実際、我々には石化は解けないんだ」
「フェニックスを祀る司祭達にも見せたんだが…君なら出来るのか?リリベル妃」
「分かりません。やった事がないので」
「ならいいよ。彼らの親族には泣かれたがな〜だが神が下した罰を直ぐに解くのもな。どうせ人に戻っても厳しい罰が待っているし、きっとこの方が幸せかもしれない」
石像はどれも驚きの表情や、駆け付けた時の慌てたポーズだ。
夜中に庭園で見たらさぞ不気味だろう。それでもいいのか?
「ここに飾られているだけマシだろう?高位貴族だった彼らへのせめてもの配慮だ。公衆の場なら、あっという間にボロボロに砕かれているだろうな。彼らはあまり好かれていなかったからな」
それは納得だけど石化の罰は、そもそも我々や南の国への犯罪に対してではなく、神様の密会の邪魔になったからなんだけど…理由を黙ってていいのかな?
ザック殿下を見ると「妥当じゃないか?」って被害者の彼がそう言うならいいのかと思った。




