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私達から漏れ出る不機嫌MAXを察して周囲が機嫌を取り出した。
皆、私達を見つけると激励してお菓子をくれる。私がお菓子ごときで機嫌を戻すとでも?子供か!?
今、一番の癒しがサオリ達の世話だなんて…泣けてくる。
そして産まれて間もないのにおっぱいをグイグイ飲むプテラちゃん。
横で王女殿下が「私、ミルク製造機だ…」と毎回、仰っているのが滑稽さを誘って癒されるなんて救いがない。
だけど盆ダンスを放り出せない自分の性分にも腹が立つ。
火山の言語の先生が「私の知り合いが南で本場のカレー屋をやっているから食べに行かないか?」と気を遣って誘って下さったが「この後、火山の国に訪問するのに?はだ色横丁行くし!」って思えて気が乗らない。
私達の様子を見て心配して下さった第二王子妃様が、第二王子殿下に相談したのだろう。
彼が恐る恐る夕飯の席で私達に聞いてくる。
「もう盆ダンスを辞めたいか?大会で踊りたくなくなったか?」と。
毎日、夕飯を家族団欒で召し上がっている他の王族の皆様も、ガバッと顔を上げて私達に注目する。
私がザック殿下を見ると「君の好きなようにすると良い」と仰って下さったので、私も頷いて皆に告げた。
「王太子殿下、第二王子殿下、ザウルス様を殴りたい!」と。
その場は一瞬シーンとなったが「何で私までぇ?!」ってザウルス様が一番最初に正気に戻って仰った。
「ついで」
「ついでなのぉ?!」
「嫌ならおっぱい出せ!」
「…殴られます!」
「ザウルス頑張れー!」
王女殿下も楽しそうだ。
「アイザックも私達を殴りたいか?」
「私はいい。リリが殴ればスッキリするから」
「アイザックは優しいなぁ。リリちゃん、殴るのは今この場でか?」
「食後なら吐くでしょ?」
「なるほど。食前がいいか」
王太子殿下も第二王子殿下も所詮、女の拳だろう?と余裕で口の端を上げている。
フン。ドラゴン様のお手並みを拝見しようではないか!
私の拳が壊れるか?奴らの腹がギャフンと言うか!
リリベルは、まず最初に不意打ちでザウルス様の腹に一発お見舞いする。
間髪入れずに第二王子だ!油断している時が最も効果的だ。
ザウルス様は「グフゥッ」と前のめりに膝を付く。
第二王子殿下も「グハッ」と同じように膝を付いた。
「一言、言っておくの忘れてた。リリに殴られると星が見えるよ」
「ホッホントだっ!」
ザウルス様が腹をおさえ声を絞り出して仰った。
「キラキラしてる眩しいな…」
「第二王子もか?!」
王太子の顔から笑みが消える。
「なるほど。俺たちは君を侮っていたようだ。全力で相手するぞ!リリちゃんっ」
ここは食の場だ。彼の全力に応えるなら、王城の料理人が真心込めて作ってくれた大事な夕飯の膳が吹っ飛ぶだろう。
「表へ出ろ!」
二人で食堂に臨む中庭に出る。
互いに中庭用のおばちゃんサンダルだが構わない。
「さあ来い!」
王太子は腹を殴れのポーズだが、南の最強ドラゴン相手にそんなアホな攻撃するはずない。
私は手に光の魔法を込める。
私は一発だけなら光の刃を撃てるようになった。
随分、練習を重ねたから、いつか誰かに試したいと思ってたんだよな。
彼ほどそれを受けるに相応しい人はいないだろう。
ありがとね。
「は?」
王太子殿下は目を見張る。
拳じゃないと気付いたか?
さあ行くぞっドラゴン!
私は力いっぱい光の刃を放つ。
「うわぁっ!!」
慌てて防御の魔法を張ったが王太子殿下は魔法の威力にフッ飛ばされ、背後の建物の壁にぶち当たった。
死んではいないだろう頑丈らしいし。
「スッキリしました。ご飯食べましょう!」
リリベルはご機嫌にサンダルを脱いで食堂に戻る。
「リリ、食べる前にもう一度手を洗ってこいよ」
「はーい」
王太子の耳に二人の仲の良い、やり取りが聞こえてきて意識が遠のいた。
「リッリリちゃんヤベー」ザウルス様が呟いて「食欲…無くなった…」第二王子殿下が仰った。
王太子殿下も数分で復活されたが、3人はその日、食欲が無くなって夕飯を食べる事ができなかった。




