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「ちょっとリリベル凄いわねぇ」
「そうなのララちゃん。リリちゃん、ずっと先生と狂ったように踊ってるの」
リリベルはあれから本気モードの先生にプロになるのか?!と思える程の指導を受けている。
「アイザック殿下に心配だって言った方がいいのかしら?」
「ううん。ザック君は大丈夫だって。それに明日はとうとう二人で踊りを合わせるんだって」
「へえ。恋して告白して成就するまでを踊るの?よく5日間で出来たわねぇ?」
「そうなの。本当は恋人同士の踊りを本番で踊ってもらえれば、それで良かったのだけど」
「確かに。でもあと20日あるから残りはそれを二人で練習するんじゃない?」
「そうね。きっと本番でも二人とも他のダンサーと遜色なく踊れると思うわ」
「明日の二人の踊り楽しみね?絶対見に来るわ」
「うん。みんなで応援しよー」
「二人が緊張しちゃわないかしら?」
「大丈夫、大丈夫!そんなヤワじゃないわよ二人とも」
「そうそう。面白いじゃん」
「‥‥‥」
第二王子妃は心配というより少し気の毒になった。
西の王族を自分達の祭りに巻き込んだのだ。せめて自分は助けになれるように夫に言っておこうと思ったのだった。
だがそれも無駄になると後で思い知るのだけど。
翌日、ザック殿下とダンスを合わせる時が来た。
「リリちゃん!あちらの仕上がりもバッチリだと主人が言っていたわ。あなたは向こうがどう出て来ようと、あなた自身を踊り切るのよ!」
「はい先生!」
南の城中の人々が自分を“リリちゃん”と呼んでいたが、最早、そんな事どうでもよかった。
この洗脳されている脳みそでいる間に、さっさと踊りを済ませたかった。今日が終われば、本番までのんびり恋人踊りを練習すればいい。
サオリと遠乗りにも行ってやらないといけないし、火山の国の言葉もまだ単語だけだ。発音のコツも分かってきたから文法までたどり着きたい。簡単な会話くらいできなければ王族として相手に失礼にあたるのではないか?!
やる事はたくさんだ。
とりあえず今日という日を片付けるぞ!とリリベルは練習場でザック殿下を待ち受ける。
◆◇◆◇
「ユーキチウスにユーキチノフ」
ベルモントとマックス殿下は子爵家の肖像画の部屋に来ていた。
「ああこの人達か。随分、昔の当主たちだが二人は似てるだろ?名前も似てるし確か兄弟だった」
「二人とも北の王子だや」
「そうなのか。皆、似たような色だから、はっきり言って誰が王子なのか分からん」
「ユーキチウスは最初がら西に向がった。ユーキチノフは東さ行ぐづもりだったのに恐らく西さ着いでまった」
「君がここに来てしまったみたいにか?」
「んだ。だはんで東さ行った王子はいねがったんだ」
「そうか。それは良かったよ」
「なしてだ?」
「北の王子を迎えると呪いにかかるからだよ」
「呪い?!」
「知らなかったか?」
「あ…いや逃げた者は恨まれるだ。だが、あだ達は関係ぇねから申し訳ねと思う」
「困ってないからいいさ」
「北の王子!直ぐに来てくれ」
爺様が珍しく急いだ様子で呼びに来た。
「爺様どうした?」
「青薔薇が騒いでいる」
「こごに青薔薇さあったが?」
三人で青薔薇の元に駆け付けると、青薔薇はもうほとんど咲き終わっていたが、わずかに残った遅咲きの花が何かを伝えているようだ。
「爺っちゃが…」
「どうした?マックス殿下」
「爺っちゃが亡くなったって」
「君の爺様って、陛下の父君か?」
「私の叔父だな?」
「わの爺っちゃはエメラルドグリーンの瞳で年中タンクトップで、農作業する姿もあだにそっくりだった」
「…それって遺伝だったのか?」
「分がんね。すたばて、おいだば北に帰るじゃ。あ!マラサダ…」
「マラサだ?」
「君が乗ってきたスネイプニルか?森じゃないのか?」
「‥‥‥」
「野菜で呼んでみるか?」
「バナナ!バナナあるか?」
「スイカじゃだめか?」
「馬達が好きなのはバナナだけじゃないだろう?大丈夫だ。色々、用意してやろう」
爺様が野菜や果物を保管している納屋に向かう。
「マラサダ〜オヤツだ!オヤツだぞ〜」
マックス殿下が森に向かって叫ぶ。
「それで、そいつが来るのか?」
マックス殿下が呼んでから少しすると「あっマラサダ〜!来だ〜!リリちゃんありがとな」
「何でリリか分からんが良かったよ。早く連れ帰ってくれ」
「世話んなった子爵、爺様。皆にも宜しくしゃべってくれ!じゃあ!」
マックス殿下はマラサダに飛び乗って駆け出すが…
「馬の鞍は?」
「あ、戻って来た…さすがに裸馬で山脈越えは厳しいだろうな」
二人で再度、北の王子を見送る。
「爺様、爺様は一緒に行かなくて良かったか?」
「私は青薔薇の側で冥福を祈るよ」
「そうか。きっと随分長生きだろうから大往生だろ」
それから1年後、北の国王は退位して王太子に王位を譲位したと東西の国に情報がもたらされた。




