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リリベルとアイザックが南の国で一生懸命、盆ダンスや火山の国の言葉を学んでいる頃、マックス殿下は‥‥
「あれ?マラサダどこ行ぐだ?青ルートはあの山さ越えねばなんね。あ?あの山はお前ぇでも厳ぇか?」
マラサダは山の方を見て違う道にするようで、別の方向に進んで行く。
「サオリでも無理がか?」
だからこっちゃか。
マラサダは走るスピードこそサオリに敵わないが、パワーも胆力もサオリと同等だ。まあ多少、気性が荒く戦闘的なのは一番若い牡馬だからだ。
サオリには知能も劣るが、圧倒的に経験値が比べ物にならない。
サオリはほぼ父と婆っちゃの馬だ。
スネイプニルの騎士は行き先さえ合っていれば、彼らが望む道を優先するという暗黙の決まりがある。
特に自然の中では彼らの勘の方が優れているからだ。
と言う事は、あのユキチの“脱走マニュアル”は実現不可能の空想本か?
そったら戻って廃棄だな。
ああ仕方ねぇ。こっちゃから帰ぇるなら時間はロスだが、あれ?こごはどこだ?森を抜けたら畑に出た。
「わっ!爺っちゃか?何で爺っちゃがこんな所さ居るだか?!」
「あれ?金髪か…北から来たのか?」
マキシミリオンは、いきなり現れた自分を見ても驚かない爺さんに逆に自分が驚く。
「一緒に来るか?」
自分の祖父にそっくりな不思議な爺さんに何故か言われるままに着いて行ってしまった。
「爺様、そろそろ屋敷に戻りましょうって、その方は?」
「北の王子がスネイプニルで逃げて来たみたいだぞ」
「まあ!まさか本当にそんな事があるのね?!」
「‥‥‥」
マックス殿下は青ルートを途中で断念したが、ルートを抜けた先はなんと子爵領だった。
◆◇◆◇
盆ダンスの“片思いの女踊り”も恋人同士の踊りに少し似ていた。
違っているのは相手男性との「キャッキャウフフ」が無いことくらいだ。
片思いの最初は相手をまず好きになる事から始まる。
“トキメキはっちゃけ踊り”と先生は仰った。
次は彼に認識されたい!好かれたい!の行動だが、彼に近付く、尽くす、まとわり付くの“ちょっとウザくね?踊り”が後に続く。
そしてライバル登場で、疑い、嫉妬し、地団駄をを踏む“悔し浅まし踊り”が一連の流れだ。
そこで終わってもいいが“告白の踊り”に突入する場合もある。
それは“ドキドキバクバク寝不足踊り”から始まり、“もうヤルしかありません踊り”があって、“ついに告っちゃいましたぜ踊り”で終わりだ。
その後、フラれた時、両思いになった時の踊りに別れるのだが、両思いになった時と、すでに両思いの恋人同士の踊りは別物だ。
男性パートは告白のタイミングから登場して、両思いなら一緒に踊る、振ったなら男性は静かにフェイドアウトしていくそうだ。
いや〜もうこれは女優になるしかない!
「年頃の乙女なら誰しも体験してるでしょう?」
と先生は仰るが、貴族令嬢はちょっと厳しいぞ。
だが南の国、もしくは平民女性は普通に体験してるんだろう。
踊りの途中で「これは本当に、そんなこと思うのか?」と疑ってはならない。自分の常識はかなぐり捨てて先生に教わる通りに振り付けを覚えていく。
先生は私の恋愛の経験値の低さを知っている。
だから先生の「そこはドキドキッ!そこは照れてぇそのまま、はいっ!好きになりましたぁ!」の掛け声で踊っていく。
とりあえず、まだ感情は置いてけぼりで良いと言われて“振りと意味”を体に覚えこませていく。
「そうね。リズム感と振りを覚えていくスピードは素晴らしいわ。このまま告白して両思いまで頑張りましょう!」
「はい先生!」
とんでもないスポ根もののノリだ。
「好きになったところから始めるわよっ!」
「はいっ」
「さあ彼にアピールするわよ!あなたの為に尽くすわよぉ、あなたの為なら何でもできるわよ〜私が必要でしょ〜!男はママが好きなのよ!そこっ!今、疑問を持ったわね?ダメよやり直しね」
「‥‥‥」
なかなか厳しい。
そうだ!今は頭を空っぽにしてやり遂げなくては!
リリベルは必死に“ちょっとウザくね?踊り”を踊る。
このシーンはかなりの難所だ。
あなたの為なら何でもできる〜私が必要でしょ〜男はママが好き…と。
読む方も疑問を持ってはいけません。頭を空っぽにしてぇ、はいっ読み直しっ!




