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「王太子妃様、お時間を取って頂きありがとうございます」
「まあリリちゃん。そんな!ぜひお義姉様と呼んでちょうだい」
ここでも“リリちゃん”になってる…。
それよりも、さすがにお義姉様と呼ぶのはまだ恐れ多いと感じてしまう。しかし、ここは素直に応じておくべきだろう。
勇気を出して「お義姉様」と呼んでみる。
「ふふ。いいわねぇ。それで悩みとはどうしたの?」
「実は昨日から盆ダンスの女踊りを習い始めたのですが、意味を知れば知るほど…踊りに気持ちを込めるのが難しいと感じまして…」
「あらっ踊りに共感ができないって事?」
「踊りも意味もバカにするつもりはないのです。ですが、あまりにも自分の発想とかけ離れておりまして…だからこそ南の方にはこの事を相談できなくて…」
「私を頼ってもらって嬉しいわ。でも踊りのどの辺りが共感できないのかしら?」
「え〜と…」
全体的になんだけど、何て言ったら…
「“好きよ好きよ。でも嫌い”のくだりかしら?」
「えぇ?」
「それとも“あなたは全部、私のモノよ。逃がさないわ”のあたり?」
「ちょっちょっと待って下さい。お義姉様は…ちなみに共感できない部分は…?」
「無いわ!だってその通りだって思ったもの」
「“あなたを狙うハイエナ共を蹴散らして!”の部分もですかっ?」
「そうよ!だってとても許せないでしょう。彼は私のモノなのに!だから彼が“他の女をチラ見をしたら百叩き、よそ見をしたら首を絞める”のよ!」
と、お義姉様はキラリと目を光らせ、上品な雰囲気を豹変させると、手の振り付けと共にそう仰った。
私は、どうやら聞く人を間違えたのかもしれない。
でも同郷者でも、十分共感できる踊りだったのね。
南の女性は、一歩下がって大人しそうに見えて激しいんだ。
そして王太子妃様も。
王太子殿下はきっと大丈夫だろうな。
彼もドラゴン様で執着の塊だもんね。
良かったお似合い夫婦で…。
リリベルはトボトボ歩いてサオリ達の所に向かう。
厩舎にはザック殿下がすでにいらしていて馬達に水遊びをさせていた。
「殿下、遅くなりました」
「ああ、別にいいよ。でもそろそろ乗ってやらないとスネイプニル達が退屈してきそうだな」
「そうですね。明日、語学の授業の後、遠乗りにでも行きましょうか?」
「そうだな〜でも明日は雨が降りそうなんだよなぁ」
「えっそうなんですか?」
「うん。大きな雨雲が近付いて来る気配がするんだ。多分、義兄上達に聞けば、もっと詳しく分かると思うんだけど」
「また台風とかではないですよね?」
「そこまでじゃないよ」
スネイプニル達の事も、もちろん大事なのだけど、だけど今は…
「ザック殿下、あの…盆ダンスなんですが…男踊りは順調ですか?」
「ん?まあ普通に覚えているけど、そっちは何か問題があるのか?」
「いえっちょっと聞いてみただけです。殿下、今のうちに厩舎内の掃除をして来ますね」
「ああ頼むよ」
夕方に西の王太子殿下から伝令鳥が「盆ダンス頑張れよ。火山の国の言葉をしっかり学べ」と返って来た。
そして、その日の晩からザック殿下が仰った通り雨が降り出し、朝からは激しい土砂降りだった。その為、盆踊りも語学の授業も今日は先生が来るのが大変だという事で自習になった。
スネイプニル達の様子を見に行くと、サオリ達は土砂降りの雨の中、なぜか大喜びで馬場を駆けずり回っていた。
「もしかして大雨は初体験なのかな?」
「そうかもですね。凄い!2頭とも、めっちゃはしゃいでる」
「しかも泥んこだ…」
「雨で流されても、また泥んこ…繰り返してる…」
「良いんじゃないか?なんかストレス発散できてそうだし」
「本当ですね」
しばらく馬達のはしゃっぎっぷりを二人で見入ってしまった。
「ザック殿下、今から王女殿下の所に様子を見に行ってきてもいいですか?」
「ああ。俺は盆ダンスの練習じゃなくて体を動かすよ。今朝は雨で鍛錬できてないからな」
「ではお昼時に」
そう言って私達は別れた。
男踊りの方は問題無いのだろうか?
女踊りのように変な意味はないのだろうか?
もしくは意味があっても殿下には共感できる内容だったとか…リリベルは、なぜかザック殿下にそれを聞き出せないまま王女殿下に会いに行った。
王女殿下もザウルス様の事はお好きなんだろうが、あの内容に納得されて踊られていたのだろうか?
王女殿下の嫉妬?なんか想像できない。
第二王子妃様も?
それとも開き直って意味は深く考えず、ここは好きだ!でも嫌い!とズケズケ踊って、他の女をチラ見すんなよ!よそ見すんなよ!っと怒りながらテキパキ踊るべきなのだろうか?
リリベル的には答えが欲しい。
王太子妃様だけじゃなく数人の女性のご意見が!




