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サオリとセノビックはザック殿下の出す水を追いかけて楽しそうに遊んでいる。
「セノビックの名前は北ではマスオなんです。うちの兄が勝手にマスオにセノビックって名付けちゃって」
「あの銀色の馬、マスオなのか。そうか、そうなのか」
「でも2頭は番じゃないですよ。サオリはちょっと分かんないんです。多分、スネイプニルの血が濃いのか北でも別格扱いされているんですけど」
「よくそんな馬、君に貸してるな?!」
「皆に言われるんですけど、北の人達は「いいんじゃない?」って。その感覚も不思議で」
「ハハハッそうか。ならきっと良いんだよ。それに龍康はサオリによって自由を得たんだ。だから本当に気に病まないでくれ、リリベル妃。サオリが遺言を残せたのも予知能力のお陰だしな」
王太子殿下はそう仰るが、なんか気持ちは複雑だ。
だけど自分の娘が“龍憑き”だって予知したのに産もうと思ったサオリが凄い。何を思ってそう決断したんだろう。
そしてそれに協力した龍康は…。
ダメだ考え出すと気持ちが暗くなりそう。
せっかく皆、お祝いムードなのに。
私も今は手放しで王女殿下とザウルス様のお子様の誕生を祝おう。
次の日、私はザックさんに会いに行った。
ザックさんは私達と同じタイミングでこちらで式を挙げ、今月末には西に出発して西の国でも結婚式を挙げるそうだ。
残念ながら私は、お二人の西での結婚式にも出れないので先にお祝いを伝えにザックさんのご自宅に伺った。
ザックさんのこちらのお住まいは王城から馬車で1時間ほどの場所だそうで、商会の馬車で案内されて訪れると閑静な住宅街のような場所だった。
ザックさんの家は屋敷というよりは、こじんまりとした2階建の一軒家という感じで、南の国では一般的なお家なのだそうだ。だけど家の前には小さな庭もあって馬車を2台は止めるスペースもあり、この辺りでは大き目な家のような気がする。
私達が到着するとザックさんと、リサさんが出迎えて下さった。
「こんな所に王子ご夫妻をお迎えするなんて」
「いえいえ。私達が南の一般的なお家を見たいと言ってしまったので、むしろ無理を言って済みません」
「大したおもてなしは出来ませんが、妻の手料理を食べて行って下さい」
「お妃様、ご無沙汰しております。私、凝った料理は作れないのですが、ザックさんはむしろ私達の郷土料理の方がお二人は喜ぶだろうって」
「リサさんのご出身の郷土料理を頂けるんですか?楽しみです」
ザックさんのお家はやはり土足ではなく、玄関に靴を収納する棚があり、靴を脱いで内履きに履き替えて案内された。
廊下は板張りで、案内された応接室も板張りなので内履きのまま入って良いそうだ。だけど畳の部屋に通される時は内履きは手前で脱ぐのだと王城でも教わっている。
応接室は西と似たような内装だったが、入った瞬間目に入る物があった。
「ザックさん、あの絵!」
「はい。お嬢様方の結婚式の姿絵です」
そう最近、どこに行っても飾られていた私達の結婚式の絵。
だけどザックさん家の絵は違う。
「アンリが私達の結婚祝いに、私達にはアンリが描いたお二人の結婚式の絵姿を送ってくれたんですよ」
「君達の結婚祝いに俺達の絵姿か?普通はそちらの絵姿なんじゃないのか?」
「そんな、とんでもない!自分達の絵姿なんて恥ずかしくて」
そんな恥ずかしいのが、あちこちで飾られてんだよ!私達…。
「でも引き出物で頂いた絵の方は、商会の応接室に飾らせてもらってるんです」
ほら、やっぱりあった…。
「お二人がベンチに座って仲良く肩を寄せ合っている絵で、見てるとほっこりするんですよ」
絵の詳細要らんです…。
「それよりアップルワインケーキ、びっくりです!まさか米酒をワインに代えて、そっくりに仕上げてくるなんて!しかもナッツとドライフルーツとの組み合わせ。洋酒ならではのマリアージュに驚きました」
「はい。米酒ケーキがあまりにも美味しかったので、アルコール度数が似たアップルワインでもできるのではないかと思いまして、私の母が試行錯誤を重ねて作り出した物なんです」
「夫人が?!そう言えば私が子爵領に来た頃から夫人は菓子やパン作りにハマっておられましたねぇ」
そう母はザックさんが来てくれたお陰で暇ができて菓子作りを始めたのだ。
「カルヴァドスで作った物は日持ちもします」
「なるほど。アルコール度数が高い蒸留酒だからですね?ザックさん、やはり米酒も蒸留酒に取り掛からなきゃ!」
何だか私達はリサさんに火を付けてしまったのかもしれない。
それから数年後、南の国から米だけでなく芋などを原料とした“焼酎”なる物が出回る事になる。




