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「いつ亡くなるか分からないから、龍康はサオリを自由にさせてたんですか?」
「それは何か違うな。サオリはマスオと結婚するまで自由人だったんだよ。つまり彼女が産んだのが娘で次の“龍憑き”だったんだ」
「はぁ〜?!」
「まぁ。その事実はあまり知られてないか。お互いの行動の方がクローズアップされてしまった人達だからな」
「じゃあ!龍康はサオリを放ったらかして旅に出ていた訳じゃないの?」
「マスオに放っておかれたのは、どちらかと言うと二人の間にできた娘の方だな。だが産まれた娘は直ぐに当時の国王の養女になった。マスオは入婿だったから田中家で強い権限が無かったんだ」
「彼は傷心で旅に出たの?もしくは妻に対して負い目を感じてたとか?」
「それもあるかもしれないけど、サオリの遺言らしいよ。彼女が最後に彼に残した言葉らしい」
「一体、何て?」
「自由に旅をして。たくさん色んな所を見て。私もあなたと一緒に見てるからって」
「泣ける…」
「だろ?」
「サオリの事、誤解してた」
「ああマスオの言葉も足りなかったし誤解を招いた。彼の中ではサオリは常に生きていて自由に過ごしていたんだよ。だから彼の言葉には、いつだってサオリが“まだ生きているかのようだった”と当時の事情を知る人はそう語っていたそうだ」
「彼の心はサオリと一緒に旅をしてたのかな?」
「それは分からん。なんせ彼の口癖は『サオリはいつだって自由だからなぁ』だったそうだから」
「なんかヒドイ」
「そうかい?ちなみにサオリの娘の“龍憑き”は長生きした。最後の方は「まだ働かせるかい?」が口癖だったって」
「本当に?」
「そう。だからリリちゃんが“龍憑き”を気に病む事は無いよ。多分、王女殿下が言いたかったのは『自分が死ぬとしたら死因は、次の“龍憑き”が産まれること以外は無いから大丈夫だ』って事を言いたかったんじゃないかなって」
「本当?」
「死にそうにないでしょ?あの人」
「そうだけどさ…」
「それに“龍憑き”が居ない時代もあったんだ。数えるぐらいしかない不遇の時代と言われているよ。本当に不思議な存在なんだよ」
全く私の悲しみを返しやがれだ!
だけど、やっぱり南の王族の中では女の子が産まれると「もしかして!」って思うんだろう。特に親しい身内にその存在がいるなら、考えないなんて無理な話だ。
せめて『龍憑きは長生きするもんだ』という認識があれば、もっと王族の妊娠が素直に喜べるものになるのだろうに。
運命って残酷だ。
アイザックが目を覚ますと妻はすでに隣にいなかった。
「あぁもう日が高いな。昨晩はまた飲み過ぎたんだ…」
アイザックは起き上がって部屋に備え付けの洗面所で顔を洗う。
妻はスネイプニル達の世話を終えて朝食を食べに行っているのだろうか?自分はまだ食欲は無いから昼からでいいかと思いっきり伸びをする。
妻が戻って来るまで素振りでもしてるかと庭に出て、二日酔いを払うように木刀を振っていると昨晩の事が思い出された。
義兄にあたる外交官である子爵が「第三王子殿下、結婚おめでとうございます」と酒を注いできた。
「義理とは言え家族になるのだから、俺の事はザックと」
と伝えると恐縮しながら「ではザック殿下」と呼んできた。
だが子爵は「私の事は義兄とは呼びにくいでしょう。私も王太子殿下と同じ立場は恐れ多いので、これまで通り子爵か外交官とお呼び下さい」と言ってきた。
なので「確かにそうだよな〜。実はさ西でも兄である王太子殿下の侍従殿も義兄なんだよ。彼も複雑そうに「これまで通りに」って言ってきたんだ」って言うと、彼は笑って「それはそれは双方、お気持ちをお察しします。だけど私もそれに甘んじる立場にいる訳にはいきませんね。第三王子殿下ご夫妻に恥をかかせない為にも励みますよ」と語った。
子爵とはその後、姉妹の実家の風呂事情で盛り上がった。彼女達が、なぜか夫と共に風呂に入ろうとする事情なのだが。ただ彼の妻は直ぐに懐妊したから、あまり一緒に入浴できてはいないらしい。
しかし聖女殿にもラント兄上相手にぜひやって欲しいよな!という意見は大いに一致した。
そして王女殿下の出産と俺達の結婚祝いで夕飯の席は盛り上がり、俺はまた酒を飲まされた。
気付くと俺一人だし…一緒に飲まされるべき妻はどこに行った?
まあスネイプニルの世話もあるから犠牲は俺だけでいいか。
俺の肝臓大丈夫か?
この春から酷使し過ぎている。
今日が過ぎたらしばらく飲むのは控えよう。
俺は堅くそう誓った。
R18の方に風呂事情を載せております。読める方は是非そちらに!
でも大した理由ではないんです。
弱小貴族&大家族のお風呂事情あるあるです。




