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リリベルは今夜もお酒を少し控え目にする。
お祝いムードで宴会になりつつある夕飯の席をそっと抜け出し、王女殿下の所に様子を見に行く。
王女殿下のお部屋には乳母や侍女の他に王妃様もいらしていて、王女殿下の横でぐっすり眠る赤ちゃんに目を細めてらっしゃった。
「王女殿下、体調はいかがですか?」
「ふふっもうバッチリ。ねぇそれよりコレ見て」
「リリちゃん人形?いつの間に…」
「出産祝いにねザック君からもらったの!」
「!」
そんな物持ってたんだ…。
「北から預かってきてくれたんだって。北の王族の人って優しいねぇ。リクガメ夫妻も元気にしてたかな?」
「北の王女殿下がカメさんを気に入られて、自らお世話をされてましたよ。温室も建設中でした」
「それは良かった。ねぇ、もうビーバーちゃんじゃないね。リリちゃんだ」
呼び名の基準はお人形さんなの?!
「ねえリリちゃん、ほらっ」
王女殿下が指差す方を見ると、また…私達の絵だ。
二人で腕を組んで仲良く階段を降りている絵だが、一体どこの階段だろ?きっと場所も架空だな。
絵を描いた人、ご苦労様だ。
「うちに送られて来た絵は、妃ちゃんと取り合いになっちゃってさ。そしたらララちゃんが自分のを譲ってくれたの」
もう何て言ったらいいのか分からない。今、主要な貴人の屋敷に飾られている姿絵、ダントツNo.1だろう。
短期間限定の流行りであることを切に祈るばかりだ。
「ザウルス様、ずっと泣いておられましたねぇ。赤ちゃんの誕生がとても嬉しかったんですね」
「うん。それもあると思うけど。男の子だから安心したんだと思う」
「え?それは後継ぎができた的な?」
「ううん。女の子だと次の“龍憑き”の可能性があるからだよ」
急に王妃様のお顔の表情が険しくなった気がする。
「次の“龍憑き”は王女殿下から産まれるのですか?」
「ううん。分からない。末端の王族から出ることもあるから」
「王女!」
王妃様が言葉を遮る。
「お母様、いいの。リリちゃんには知っておいてもらいたいから」
「王女殿下、王家の秘密とかでしたら私は…」
「違うよ。国民の大半は知らないと思うけど、知っている人は知っている。新たな“龍憑き”が産まれたら、私には直ぐ分かるんだよ。なぜなら私は力を失うから」
「普通の人になっちゃうって事ですか?」
「そうかなぁ。ん〜眠くなってきちゃった。リリちゃんお休み…」
そう仰って王女殿下は眠ってしまわれた。
相変わらずマイペースな方だ。
私もお部屋を退出しようと思って王妃様にご挨拶をする。
「リリベル妃、今の話は…」
「王妃様、内密にという事ですよね?」
「いいえ、そうではないのです。そうではないのですが、龍憑きは…新たな“龍憑き”が産まれると能力も失われるという事なのですが、同時に王女の寿命も終わるという事なのです」
「!」それは…とてもショックな話だ。
“龍憑き”は南の国には重要な存在だ。だけど前任者の命を継いで産まれてくるなんて…。
リリベルは王女殿下の部屋を出ても、しばらくは宴会場に戻る気にはなれなかった。あの祝いの席では一体…どのような気持ちで祝われているのだろうか?
王女殿下は王族の誰かが妊娠する度に、死の恐怖と向き合うのだろうか…。
リリベルはその日は疲れているのに目が冴えて眠れなかった。
翌朝、リリベルは寝不足の顔でサオリ達の元に行く。
ザック殿下は絶賛二日酔い中だ。
だけど昨日は着いて直ぐ、殿下に馬達を任せてしまったから今日は仕方がない。
それに馬は一頭減ってるし世話ももう慣れた。
「サオリ、セノビックおはよう。お部屋を掃除するから馬場に遊びに行ってくれない?」
2頭は心得たように馬場に出て行く。
「北の神獣は本当に賢いんだねぇ。リリちゃん」
…ビーバーちゃんじゃなくなってる。
逆に違和感を感じるな〜とリリベルが顔を上げると、ザウルス様が立っていた。
「おはようございます。ザウルス様」
「おはよう。昨日は着いたばかりだったのにありがとうね。お陰で安産で助かったよ」
「ザウルス様は二日酔いじゃないんですか?」
「息子が産まれたばかりなのに酔っ払ってられないよ。でも名前をずっと考えていたから、ちょっと寝不足だよ。君も眠れなかったような顔をしているね」
と言いながら厩舎の掃除を手伝って下さる。
「お名前、決まったんですか?」
「候補はね。後で皆にも意見を聞こうかと思って」
「ドラ衛門に一票!」
「ハハハッそれはララちゃんとこの次男に取っておくよ。君んとこでも良いけど?」
「ザック殿下に提案しときます」
「おぉっ!マジで?あとは水を換えるだけでいいかい?」
「はいありがとうございます。とても助かりました」
「サオリー!ブラッシングは?」
リリベルがサオリに呼び掛けると、サオリは「後で!」と言わんばかりに、セノビックと遠くに行ってしまった。
多分、午後に水遊びした後なんだろうな〜と思ってブラシを一旦片付ける。
「あっちのグレーのは前回の馬と違うね。真っ白じゃないけど、凄く良いな。朝日で銀色に光ってる」
「セノビックは牡馬だし若いからパワーもありますしね」
「でもサオリには敵わないの?」
「サオリはスネイプニルの中でも別格みたいです」
「そんな神獣を北は君に貸すんだね」
「はい。だから大事にしないといけません」
「龍憑きの中でも田中サオリは別格だったそうだよ」
「男性遍歴がですか?」
「アハハ。それもね。だけど彼女は20代で亡くなったんだ」
「次の“龍憑き”が産まれたから?」
「やっぱり聞いたのか…」
お陰様で昨晩は眠れませんでしたからね。




