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侯爵邸で仮眠を取って起きると、伝令鳥が「順調そうで何よりだ。そちらにも絹の礼に、引き出物を送っている」と返ってきた。
その情報、一足遅かったな。
その夜、私達はいつものように夕飯に招待いただいた。
特に変わった料理は無かったがエビ料理が多いなと思っていたら「我が領の名産の蚕料理ですの」と言われて口の中のモノを一気に飲み込んだ。
ザック殿下も驚きはしたみたいだが大丈夫そうだ。
だがマックス殿下は違った。
「これは蚕だぎゃ?!ノースポールペンギンの干し肉と食感が似でるが!」
と仰って、また侯爵家の人々を青ざめさせた。
東でペンギン食は駄目!
そしてマックス殿下は全部コリコリはポーラペンギンにするのも駄目だ。騎士はやはり少しデリカシーに欠けるのかもしれない。
だけど青ざめた侯爵家の人々を見て、あまり同情する気にもならなかったのは秘密だ。
先に説明されても困るが、昆虫食は美味しくても心理的ダメージが大きい。
翌日は養蚕業の見学や絹製品のお土産などを見て回わり、戻ってからまた次の訪問先やルートを検討する。
このまま街道を南下するべきか?
この先はジャングルのフルーツ農園まで、見るべき観光名所は無いとのことだったが、幸い道中に大きなホテルはある。
我々が行程を相談していると当主が「道中のホテルはほぼ大丈夫でしょう。すでに南の国境付近まで『殿下方がスネイプニルで乗り付ける』との情報が出回っておりますので、厩舎の心配も要らないでしょう」と仰った。
えっ?それって…逆に安心要素なの?
ザック殿下も同じように思ったようで眉間に皺を寄せている。
でも当主は気にせず「天界からの使者に害をなす者など、おりますまい」と仰った。
それって“天界から神に知人が会いに来た”の情報がまだ生きてるって事なの?
「おめらといると退屈しねな。しかも天界人扱いだべ」
とマックス殿下が仰った。
「左様でございます。殿下方の正体は主な貴族にしか分かっておりませんのでご安心ください。それに大きなホテルを経営するのも、そういった貴族ですので大丈夫です」
と仰った。
こちらとしても、それを信じるしかない。
翌日、私達はまた夜間に街道を南下する。次のホテルにも昼頃には到着できる予定だ。そしてホテルに到着すると当主が言っていた通り、厩舎も準備できていて宿泊もとてもスムーズだった。
事前情報が周知されているのは良いんだか悪いんだか…。
私達は次の日も、それを繰り返してジャングル手前まで無事に到着した。到着したのはいいが初夏の南との国境付近は気温も高い。さすがに夏ほどではないがジャングルの近くなので湿度がある。
だがマックス殿下の興奮度合いは最高潮だった。
「暑ぇな!」
と言いながらも魔法で暑さを凌ぐ事なく、汗をかく事すら楽しんでらっしゃる。こっちが心配になって適宜、水分補給を促すくらいだ。
そしてスネイプニル達も暑さよりバナナに夢中だった。
フルーツ農園は観光向けにもなっているので宿泊施設も整っており、やはりこれまで通ってきたホテル同様、厩舎も準備して待っていてくれた。
そしてスネイプニル達がバナナが好きだと伝えると食べ放題か?というくらいバナナを差し入れしてくれたのだ。
「セノビックは少し青いバナナが好きみたいだ」
「そうですか。サオリは完熟一択です。でも大きいのよりこの丸みがあって小さいバナナをお気に召したみたいです」
「そちらは甘味が強い種類なんです」
バナナを持って来てくれた農園の職員が説明して下さる。
「マラサダは何でもえぇみてぇだ」
「バナナにもこんなに種類があったんですねぇ?」
「はい。調理用のバナナもあります。そちらは完熟前の青い物を使います。完熟してもあまり甘くはならないのですが、熱を入れるとイモのような食感に甘味が増します」
「わあ凄い。食べてみたいです」
「農園内のレストランでも食べれますが、ホテルの食事にも出ると思いますよ。楽しみになさって下さい」
私達はスネイプニルの世話を終えると、仮眠を取って夕飯に備えた。
なんせリリベルの未知の南国フルーツ農園なのだ。
しばらく期待と興奮で眠れず、ザック殿下に苦笑されたくらいだった。




