129
なぜか皆がそのまま王子宮の俺達の私室で夕飯を食べて行き、先程やっと各々の宮に戻って行った。
特にライオット卿は兄に「妃殿下の護衛に配置転換してくれ」と騒いでいた。
「せめて出産まででいいからっ!」と必死だったな…。
確か彼の妻も二人目を産んで、まだそんなに経ってないはずだろう?それなのに大丈夫なのか?
兄も義姉も呆れを通り越して絶句していたな。
母だけが「ライオット卿!刺し違えてでもリリちゃんを守れ!」と物騒な事を言っていた…。
「サオリだけで充分です」
冷静にリリはそう返していたけど…。
「ザック殿下」
アイザックがそんな事を思い出していると、妻がお風呂から上がってきた。
「皆が危ないって、一人でお風呂に入れさせてくれないの」
「風呂場で貧血を起こしたら危ないだろう?しばらくは侍女を側に置いた方がいい」
「うん。分かった。でもザック殿下と一緒なら大丈夫じゃない?」
何て事を言うんだ!
妻にとって一番、危険なのは俺だろう!
しばらく君に触れられないな。月のモノの時より長そうだ…って、そうだ!いつ妊娠したんだ?何で?リリは確か月のモノをコントロールする薬を飲んでいたはずなのに!?
「リリ、あの…その妊娠のタイミングなんだけどさ…」
「あぁ。すっかり忘れていたの。火山の国で最後に月のモノが来てから、いつもはスネイプニルで移動するから、その前に予定を計算して薬を飲むんだけど、今回は船だったから全く意識なくて、それで多分…」
そうか納得いった。
「ダメだったかな?ザック殿下も仕事初めで、頑張らなきゃいけない時だったから…」
「そんな事ないよ!ちゃんと戻って来てからだったし。それに逆に張り合いが出るよ。子供の為に頑張らないとだろ?」
サオリもきっとリリの事、守りがいがあると思うだろう。
「なあリリ、サオリはもしかして?」
「そう多分。サオリは私が妊娠した事に気付いていたから、側に居てくれたんだと思う。だから、これからも護衛はサオリだけでいいかな〜」
「君の出産まで、ここに居てくれるんだろうか?」
「帰っちゃうかなぁ?でもサオリには自由でいて欲しいから、私に縛られて欲しくないな」
「明日の朝からは俺が世話に行くよ」
「ありがとう。でも私も病気じゃないし普通に過ごすつもり。もちろん用心するけど」
「じゃあ一緒に行こう」
「忙しいなら無理しないで?」
「大丈夫だよ」
翌朝は二人でサオリの世話に行った。
それからサオリがここに居てくれる限り、二人で世話に行こうって話をした。この時からサオリの世話が、忙しいザック殿下との朝のコミュニケーションの場になった。
でもザック殿下は、よく温室に逃げて来ることもあったけど。
リリベルの妊娠は、その後も順調だった。
あれから貧血もなく悪阻もほとんど無かったから、畑や薬草園にも普通に行ったし、時々、火山の国の言葉や南の国の言葉の翻訳などもやったりしてザック殿下を手伝った。
年が明けて火山の国の王弟殿下は居住を王都に移され、今は来賓として王城の客室にいらっしゃる。
いつの間にか海軍の施設長の侯爵家が王弟殿下のお世話役を務められていて、そのお陰でエリオット補佐官は年末には王都に戻ることが出来ていた。
バニヤンの船団も冬に来ると言っていた通り、また軍港に来たらしいけど私は妊婦なので行く事が出来なかった。代わりにキャシーへのお手紙と子爵領のリンゴを手配しておいた。
現在、王都の中心地に火山の国の大使館を建設中で、そこが完成するまでは王弟殿下は王城に滞在される予定だ。
彼は西の言葉もかなり上達されたので、火山の国とのやり取りにも間に入って下さるようになった。
気になるのは侯爵家の赤い髪のお嬢様方との交流の事なのだが…ちなみにキャシーと第八王子との縁談はもちろん無かった事になっている。
「王弟殿下、王都にお越しになる時、侯爵家のご令嬢方とご一緒だったと伺ったのですが?」
「ええ。令嬢のお一人が学院の入学準備に上京なさると聞いて、私も便乗させて頂いたのですよ」
夏の終わりに我が国に来たばかなのに、随分と交流を図られているご様子だ。まあ私が口を出すような事ではないのだけど。
「彼女達はリリベル妃とアイザック王子、あなた方の大ファンだそうで道中はお二人の話で、とても盛り上がりました」
「そっそれは彼女達の口からも聞きましたけど、学院で私の後輩が私とザック殿下の恋愛話を語ったのだとか?」
クククッと王弟殿下が耐え切れない様子で笑う。
「リリベル妃、あなた方の恋愛が本当に学院で語られているだけだと思いますか?」
「それはどう言う意味でしょうか?」
「私が西の言葉を覚えて初めて読んだ本、侯爵家の令嬢達のお勧めだったのですが、あなたとアイザック王子との恋愛が語られた小説でしたよ」
「は?!」
「確か題名は…「美しい妖精に囚われた王子」だったかな?」
「!」
「…その本の作者は?」
「シャーロットとかいう女性だったと思いますけど。でも…もう一人いたかも」
ユノゴー氏だ!伯母達の仕業だなっ?!




