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「おめでとうございます。第三王子殿下、妃殿下は間もなく妊娠三ヶ月ですよ」
「妻が倒れた」と聞いて、俺は会議を投げ出し、慌てて王城の医務室に駆け込んで医師に言われたのが、その祝いの言葉だった。
「えっ?妊娠?」
「そう。来年の初夏頃にはお父上になられますよっ殿下」
俺は唖然として医務室のソファに腰掛ける妻を見る。横には先に駆け付けた王妃である母が目を輝かせて興奮していた。
「早くっ早く伝えなくちゃ!お兄様にっ」
『違うだろっ!』
リリと同時に叫んでいた。
俺は控えていたリリの侍女に兄上達に伝えるように指示して「リリが倒れた」と知らせに来た自分の侍従に、陛下に報告するように遣いを出した。
医師には「妊娠以外は健康に問題はない」と退出許可を出されたので、俺は妻に付き添い王子宮の部屋に戻る事にした。
「ザック殿下、お仕事は?」
「あ〜…」会議中に飛び出して来たんだった。
「ザック、私が付き添うから大丈夫よ。戻りなさい」
母はあまり信用ならないのだが…。
「私共もおりますわ!」
医務室の廊下に控えていた母の侍女‥‥「シャーロット嬢、顔がニヤけているぞ?」
この侍女は確実に妻のストレスにしかならない…。
「シャーロット!お前は先に王妃宮に戻っていなさい」
年配の侍女がビシッと言ってくれた。この年配の侍女がいるなら大丈夫だろうか?
シャーロットは一瞬、ガッカリした顔を見せたが、直ぐに取りすまして「では先に」と戻って行った。
「母とリリを頼む」
俺が年配の侍女にそう言うと「お任せ下さい」侍女はそう言って二人に付き添って進もうとする。
だが俺はハッと気付いて、後ろ姿に声を掛ける。
「王妃宮じゃなくて、王子宮だからな!」
母上!今、舌打ちしたのが聞こえたからな!
「ザック殿下、サオリがきっと心配してる」
「ああ。サオリにも声を掛けておくよ」
俺も医務室から出ると、サオリが医務室の建物の近くで俺を待っていた。お前、本当に賢いな。
「サオリ、リリが心配でここにいたんだな。大丈夫だ。リリは病気じゃないよ。実は‥‥」
サオリに説明しようとして、俺は徐ろに気が付いた。
もしかしてサオリは‥‥
「なあサオリ、お前、先に気付いていたのか?リリが妊娠してる事。だから北に帰らずに側にいたのか?」
サオリの表情からは分からない。だけど、きっとそうなんだろう。俺はサオリを撫でながら伝える。
「大丈夫だよ。妊娠初期に起こりやすい、ただの立ちくらみだったそうだ。安心していいよ」
そう言うとサオリも安心したのか厩舎の方に戻って行った。
今日は早めに仕事を上がらせてもらおう。
それに明日からはサオリの世話もあるから、朝の鍛錬も途中参加かな。俺は明日からの予定を色々、考えながら放り出してきた会議に戻った。
会議に戻ると宰相と補佐官が会話を止めて俺を見てきた。
外務大臣も心配そうだ。
「お騒がせしました。妻はただの貧血による立ちくらみだったそうです」
「あのリリベル妃が?本当にただの貧血か?」
「確かにな。人一倍元気な人だろう?何か病気なのでは…過労か?我々の仕事を手伝わせていたからな」
「庭師の仕事もされているのなら…「あのっ!」
やはり隠せないな。
皆が真剣に妻の心配をしているのを見たら、居た堪れなくなってきた。
「実は…妻の妊娠が判ったんです。だから貧血は妊娠の初期症状だと言われました」
「えっ妊娠!」
「それはめでたい!」
「本当か!それは良かったな」
「あのっまだ判ったばかりなので内密に願います」
「そうか。そうよね安定期に入るまではね」
「確かにな。今は専属の護衛もいないし、誰かに危害を及ぼされたら大変だしな」
「直ぐに近衛から適任者を選ばないとな。王太子殿下には伝えたか?」
その場には、国の主要な人物しかいなかったが、皆、会議どころではなくなって妻の懐妊に沸いていた。お陰で本題の話し合いの方は明日に持ち越され、今日は解散となった。
リリの妊娠の影響凄過ぎる…。
お陰で自分から言うまでもなく、皆に「早く妻の元に戻れ!」と急かされて、そのまま王子宮に戻ると、ちょうど私室のドアの前で兄と出会した。
「ザック!聞いたぞ!おめでとう良かったな」
兄に抱き締められる。
「ありがとう兄上」
俺も抱き返そうとしたら、兄上また泣いてるっ!
俺がオロオロしていると「王太子殿下は最近、特に涙脆いようですわ。アイザック殿下、今日の会議はもう終わったのですか?」と義姉上もやって来た。
「皆、妻の懐妊に会議どころではなくなりまして…」
「‥‥あぁ」
と呆れながら義姉は俺達の私室をノックする。
妻の侍女が部屋を開けると、まだ母と母の侍女も妻の側にいた。
「母上、いらしてたんですか?」
「王太子!だって、だってリリちゃんが心配だったんですもの」
「そうだ!ルト、ライオットには…」
その時、遠くから「ドドドドド〜ッ」という廊下を駆け抜ける、足音が聞こえて来た。
「手遅れか…」
「リリーッ!!」
と叫びながらライオット卿が、もの凄いスピードで走ってきたのだ。
俺は皆に内密にって言ったはずなのに…一体、どれだけの人に知れ渡ったんだろうか…?




