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「ご無沙汰しておりました。昨日、無事に戻って参りました。王太子妃殿下におかれましては、ご健勝でらっしゃいましたでしょうか?」
リリベルは優雅に振り返りスカートを摘んで腰を落とす。
「お帰りなさい。何事も無く予定通りに戻ってきてくれて良かったわ。こちらは何も変わりないわ。それで、これから今後の庭師としての話もあるから戻りながら話しましょう」
良かった。作法は及第点だったようだ!と安心しながらリリベルは王太子妃殿下の後に着いて行く。
「あなたの庭師としての仕事の内容だけど、大神殿でも植物の育成を監修していたのでしょう?王城でもそのスタイルでお願いするわ。あと王妃様が温室でもお茶会を開けるサロンが欲しいと仰ったの。近々、温室を拡張して改装するから、あなたはそこの責任者として管理を頼むわ」
「サロンの管理ですか…?」
「サロンだけど温室よ。王子妃としても大切な仕事でしょ?きっと王妃様は大事な方だけをお招きになる場所になさるはずよ」
「重要ですね…」
「そうよ。でも拡張されるのだから広げた部分には、あなたが好きな植物を植えるといいわ」
「本当ですか!?」
途端に顔が輝いた。
やっぱり食い付くのはそこか?
リリベルという人物は、ある意味分かりやすい人間と言える。
釣るためのエサも分かりやすい。すでに頭の中で何を植えるかパチパチと算段を立てている様子が伺える。
マレシアナはフッと口の端を上げて、自分も今後のリリベルの使い道と、飴と鞭について算段を立てながら戻るのだった。
マレシアナと別れて部屋に戻ると、伯父が訪ねて来た。
「リリベル、元気そうだ。無事に戻って来て安心したぞ」
「伯父様も変わりはありませんか?皆も?旅先でも色々、助けて下さってありがとうございました」
「なに、大した事はしてないよ。だがお前達の式の姿絵や引き出物の追加注文が多くてな〜」
「伯父様…私達の姿絵、あちこちにあったんだけど…」
「そうだろう。だが主要な者達にしか贈ってないから大丈夫だぞ」
だから、その主要な人達がヤバかったんだって…飾られた場所もおかしかったし…。
「火山の国との国交を開始するようだな?」
「うん。今回、火山の国の船団に西の国まで送ってもらったんだ。船だとあっという間だったよ」
「そうか。火山の国の船は蒸気船なんだってな」
「そう。でも彼らのほとんどが火属性だからできる感じだった。もしうちの国で同じ船を持つなら火の魔石が必要かも」
「北に掘りに行くか」
「北の陛下はいつでも掘りにおいでって言ってたけど、現実的ではないと思う」
「そうだな。我々は水属性も風属性も同じくらい人数がいるからな。火力のパワーには負けるかもしれないが造船技術も、船のスピードもそう負けてはいないはずだぞ」
「私、今回初めて船に乗ったから、全く船について知らなくて」
「そうか、そうだな〜」
「侯爵家は北の国と西の大陸との貿易がメインなんでしょう?」
「ああ。領の立地的にな。特に北の国は船団を持たないんだ。北の国の最南にある港も、真冬は半分近くが氷で閉ざされるからな」
「伯父様、西の大陸とは付き合いも長いんでしょう?西の大陸の第八王子が火山の国の船団主の長女に結婚を申し込んだらしいの」
「ハハハッそうか!それはきっと半分本気で、半分冗談だなぁ」
伯父はそう言って笑いながら帰って行った。
それからしばらくして王城の温室の増改築が始まった。
そしてセノビックは北に戻ったのか姿を消した。だけどなぜかサオリはまだいる。王子宮の厩舎に他の馬達が戻ってきても、サオリも同じ厩舎の一角にまだ住んでいる。
一応、他の馬とは接触しないようにはなっているけど、サオリは自由に抜け出して、いつの間にか庭仕事をしているリリベルの側にいる。だから王城内の菜園や庭園、改築中の温室にいる時もサオリが常に一緒にいる。
その姿がまるで「私の番犬のようだ」と皆に言われているけど理由は分からない。
幸いサオリは自分に触ろうとさえしなければ、近付く者を無闇に攻撃する事はなかった。だけど私とサオリのセットは王城の名物になりつつあって、私達を探してまで見物に来る人もいて、最近ちょっと困っている。
「直ぐに皆、慣れるよ。それにサオリもそろそろ北に帰るさ」
ザック殿下はそう言って笑うんだけどな…。
いよいよザック殿下は明日から初出勤だ。
ガブリエラ様もザック殿下に少し遅れて復帰されるそうだ。
王城で働くほとんどの新人が、半年程で見習いが外れるらしいけど、ザック殿下はこれからだ。
「頑張って!」とリリベルは最愛の夫を送り出した。




