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今日は、いよいよキャシー達とお別れだ。
「冬にまた来るから、きっと会えるよ」
私達はヒシっと抱き合った。
これからバニヤン達は母国での仕事も忙しくなるそうだが、他国の港で長居しないのには理由があるそうだ。
一つは互いに病気などをうつし合わない為、そして港で犯罪などが起こっても疑われないようにする為なんだそうだ。それに仲良くなった人と別れるのは辛いらしい。特に男女の仲は深まる前に断つという船団の掟みたいなのがあるそうだ。
今日も朝から晴天で出港日和だ。
出発の汽笛が鳴り響く中、私はバニヤンの船団が見えなくなるまで港で見送った。私よりも、きっともっと寂しいのは王弟殿下だろう。遠く離れた異国の地で、同郷者は側近と護衛の数人だけだ。
しかも彼はまだ14歳なのだ。
私の視線に気付いた王弟殿下は「さあ、これからやる事がたくさんです。まずは言葉からしっかり覚えないとですね」と自分に言い聞かせるように仰った。
「気候にも慣れて下さいね。これから寒くなりますよ。ここは南部の海だから内陸よりはマシですが」
補佐官のエリオットもしばらく彼のフォローでここに残るらしい。仕事とは言え二人目が産まれたばかりだろうに大変だなと思う。
私達もこれからまた、スネイプニル達と王都に戻らないといけない。まずは施設長が誘って下さった侯爵家の領地に向かう。そこはこの港から馬車で半日の距離らしいので、スネイプニル達なら数時間だ。昼に出たら夕方には着けるだろう。
私達はホテルで出発の準備を済ませ昼食後、王弟殿下とエリオット補佐官にお別れの挨拶をした。そして海軍の厩舎に馬達を迎えに行って、今度は施設長とリコピンにもお別れの挨拶を済ませて、王都に向け出発した。
予定通り夕方に侯爵家を訪れると彼らは夏の社交を終えて、ちょうど領地に戻って来たばかりだったそうだ。
「そんな時に訪ねて申し訳なかったな」と伝えたが、むしろ「火山の国の事を色々聞きたかったのだ」と食い気味に言われてしまった。
侯爵家は赤い髪の次男が領地を管理していて、長男はお父上と同じ騎士として王国騎士団に所属してらっしゃるそうだ。
長男のお嬢様と次男の二人のお嬢様方、三人が赤い髪でらっしゃって、次男の上の娘さんが今は学院の一学年で王都にいらっしゃるそうだ。
三人のお嬢様方は年が近く、来年は長男の娘さんが、二年後に次男の二人目の娘さんが学院に進むそうだ。赤い髪の10代の令嬢はこの三人だけだ。
だが全員が王弟殿下やバニヤンの息子の結婚対象者になりうる年齢だ。
これは…お勧めするべきなのか、警告しておくべきなのか全く分からない。だけどこうやって私達に火山の国の話を聞いてくるという事は、色々と噂に聞いている事があるのだろうと察する。
私達が話すのを躊躇しているのを見て、赤い髪の次男が先に口を開いた。
「第三王子殿下と火山の国との間に上がった縁談を取り下げる為に、他の赤い髪の令嬢令息の紹介をしたのだと王太子妃殿下より伺ったのです」
その一声でリリベルの肝が冷える。
「恐らく本命は王太子ご夫妻の第二王女殿下と火山の国の王子殿下との婚姻だろうとの事ですが、この度、我が領に近い軍港の街に王弟殿下もお見えになったと聞きました。しかも来年、西の学院への進学も望まれているとか?ですので火山の国側の意向を伺えたらと思いまして」
「そうですわ。場合によっては我が侯爵家の二人の娘の学院への進学も取り止めるべきか…検討したいのでございます」
ご夫人まで心配そうに仰った。
そこまで警戒されているのか!と私とザック殿下は唖然としてしまった。しかし、主犯の私は誤解を生まないように、特に説明しておかないといけないだろう。
火山の国の王弟殿下は西との国交の為にいらしたが、西の文化を積極的に勉強されようとなさっている事、14歳だがとても聡明で立派な少年であること。
恐らく赤い髪の令嬢との親交も目的にはあるだろうが、西の令嬢は一夫一妻でなければお嫁には行かないだろうと説明してあること、火山の国は陸路では遠いけど海路では10日以内で行けるという事などを話すと、少し納得して落ち着いたようだった。
王弟殿下はしばらく港の街にいらっしゃるのだ。機会があれば実際に会ってみられてたらいいのではないか?と勧めてみた。
会えばきっと彼がどんな人なのか分かる。それに軍の施設長も絶対に王弟殿下を見定めるはずだ。彼が認めなければ一族には近寄らせないだろう。リリベルはそれも伝えた。
リリベルの一番の懸念事項は、リリベルが赤い髪の人達を火山の国に勝手にお勧めしてしまった件だ。
あの時は必死だったけど、こうやって当事者と出会ってしまったら矛先を振ってしまった事に申し訳なさを感じる。でも彼らは、そこは全く気にしないと言って下さった。
まず、王太子妃様が「絶対に婚姻を強制する事はない」と約束して下さったそうだ。だから選んで判断するのはこちら側だと。
それに令嬢方は私とザック殿下との恋愛に憧れているのだと鼻息荒く仰った。 王都に滞在している時に学院の一学年にいる令嬢が、二人に私達の恋愛話を語ったそうだ。
「へ?何んですかそれ?!」
「今でもお二人の恋愛は学院の伝説なんです。身分差がありながらも学院の皆が応援する恋愛!最高学年のマリアンヌ公爵令嬢が時々、学院の令嬢方に語って聞かせて下さるそうで、私達は何でその時に学院に通える年齢でなかったのか、もう悔しくて!」
「ですが実際、お二人が我が家にいらして、直にお会いできるなんて本当に感激です!皆に自慢します」
と途中でテンションが変わってザック殿下と二人で驚いた。




