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『あっ頭!』
皆がそう思ったが誰も声を発せず、その場はシーンと静まり返る。
頭の無くなったタコだけが、まだウネウネと動いていてシュールな雰囲気を作り出していた。
「頭…沈んじゃった…」
頭を切り落とした張本人がそう呟くと、バニヤンが最初にハッとなってお腹を抱えて爆笑し始めた。それが周囲に伝染して皆が笑い出す。
そんなに可笑しかっただろうか…?
リリベルは少し腑に落ちない気持ちを収めて、ウネウネするタコの足を突つき始めたスネイプニル達を宥めて船に戻った。
「2頭とも、よく頑張ったね。お疲れ様。ん?そうか良い運動になったのか。でもタコはサオリのキックでも平気だったよね?やっぱり南の海の生き物は北とは違うよねぇ。だから、いくらサオリが強くても、ちゃんと騎士と一緒に戦うんだよ」
リリベルが2頭を労っていると、ザック殿下が迎えに来てくれた。
「リリ、2頭とも怪我などは無かったか?」
「うん。大丈夫。まだ少し興奮していたけど落ち着いたから」
「君は大丈夫か?」
「私?私も何とも無いよ。でもキャシーの船の方は大丈夫だったかな?」
「ああ大きな怪我をした人もいないだろうって話だよ。明日、明るくなったら色々、被害を確認するそうだ」
「そっか怪我人もいなくて良かった」
翌朝、船体の被害が確認されたがキャシーの船の甲板の一部が壊れたくらいで航海には全く影響はないそうだ。
救助信号を送った船もギリギリ持ち堪えていていて、キャシーの船に標的が変わったことで事なきを得たそうだ。そして残されたタコの足は我々のご飯になった。
とにかく稀にみる大型のタコで、しばらくはタコ料理だ!と船のコックが張り切っていたが一番大きな足の長さは10メートルで直径は50センチ以上はあったそうだ。
しかしなぜクラーケンは出没したのか?!
クラーケンはここずっと晴れていたから海底に潜んでいたが、通り雨が久しぶりに降った事で出て来たのでは?との事だった。今年はまだ嵐も発生していないそうで、雨もほとんど降っていなかったらしい。
そう言えば火山の国に来て一度も雨が降っていないなと思ったが、そういう年は珍しいのだそうだ。私はてっきりそういう国なんだと思っていたけど、さすがに例年通りだと、もう少し雨量があるのが普通だそうだ。
スネイプニル達にも、ご褒美にたくさん果物を頂いた。
こんなにもらったらこの先は大丈夫?と思っていると、もう明日の朝には、南の国の港に到着するから食糧の補充もできるのだと言われて納得した。
本来はクラーケンに遭遇しなければ今日の夜には到着できていたらしい。
リリベルは翌朝、港に到着して下船すると、姉に海沿いの一番大きな旅館に宿を取った事を伝令鳥で知らせておいた。姉も、もう近くまで来ているらしく昼過ぎには到着するそうで、伝令鳥があっという間に戻ってきた。
「バニヤン、姉はお昼過ぎに到着するそうなので夕飯をご一緒するのはいかがでしょうか?」
「そうか。ではこの辺りの良さげな店を一軒貸し切るか」
確かに秘匿性の高い話をするから、その方が良いだろう。
「アイザック王子、王弟殿下、我々は宿ではなく船で過ごすから何かあれば船に連絡を寄越してくれ。あとキャシーの船の修理もこの港で出来るようだから出港は3日後でもいいか?」
我々に異存はなかったので了承した。
スネイプニル達にも、乗船前に気分を発散できる時間があるのは、こちらとしても有り難い。あとで旅館の使用人にこの辺りのお散歩スポットを聞いておこうと思った。
旅館に入った後は、一番最初にお風呂に向かう。
この旅館は温泉ではないが大浴場というものがあって、清掃中以外は好きな時間にお風呂に入れるという、とても嬉しいサービスが付いていた。
港の街中にも公衆浴場が何ヶ所もあるそうで、この港に来た船乗り達にも大人気なのだそうだ。
蒸し風呂も良いがお湯に浸かるのもリラックスできる。
リリベルは何度か湯船で居眠りして溺れかけた。そして旅館の備え付けの浴衣ももう一人で着るのはお手のもんだ。
入浴後、リリベルは旅館の使用人に男女の浴衣を人数分、調達してもらえるよう依頼しておいた。バニヤンやキャシーにも夕飯の時に着せてやろう。男性の浴衣はザック殿下が着せれるはずだ。
あとはそうだ!寿司!寿司の店も聞いておかないと。
ザック殿下が砂漠で「食べたい」って呟いていたし、港町だからきっと新鮮なネタが頂けるに違いない。リリベルは旅館の使用人にたくさん依頼をして上機嫌でザック殿下が待つ部屋に戻って行った。




