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先程の船が出港した場所から歩いて5分、船首部分に大きなフェニックスの彫刻があしらわれた巨大な船が現れた。火山の国の国旗と船団の旗が掲げてあり、言葉では言い表せないほどの迫力と美しさだ。
私達だけじゃなく王弟殿下も目を大きく見開いて船を見ている。
「想像よりも大きかったです。まるで一つの屋敷が移動するような感じですね?!」
「ええ、そうでしょう?これほどの船はこの国でも我々ぐらいしか所有していないでしょう」
長男が誇らしげに言う。
「中も案内しよう」
長男の言葉に口の端を上げながら、バニヤンが船の入口に取り付けられた階段を上がって行く。
「バニヤン!フェニックスの横にも彫刻があるけど、あれって…」
「そうだ。フェニックスと一緒に生まれた妖精達の彫刻だ。この国ではフェニックスの船首像が一番多いが、獅子などもよくモチーフに使われる。とにかく強そうな猛獣や縁起の良い植物や動物が彫刻として施されるんだ。航海が順調に行くようにとな」
中も凄かった。普通に壁や床も調度品も屋敷の中と変わらないインテリアなのだ。客室や食堂も貴族の屋敷並みだ。
だけど一番大事なのは自分達が過ごす場所ではない。
「ここは本来、食用の家畜を飼う場所なのだが、仕切りをぶち抜いて広くした。天井はこれ以上の高さは無理だが窓はある。君達が一緒なら甲板に連れ出してもらってもいい。天候やこちらの都合もあるから、いつでもって訳じゃないが」
「ここに約2週間か。大人しくできるでしょうか?」
「どうしてもってなったら、最寄りの港に寄港できる。だが希望を言ってもらっても直ぐに叶うかどうかは分からない。又は逆に天候や諸事情で寄港せざるを得ない場合もあるしな」
「他の乗客はいますか?」
「我々、船団の関係者と王弟のみだ。船長は私だ」
「副船長を私が担当します。そしてこの船を護衛する護衛船が3艘出ます。その内の1艘は姉が船長を務めます。あとの2艘は船団のベテランです」
凄い!この船を私達が貸切りなのもスゴイけど護衛も付くなんて!
「バニヤン、この船は蒸気船だと聞いた。動力室を見せてもらう事は出来るだろうか?」
「いいぞ。ボイラー室と我々は呼んでいるが、今は停泊中だから稼働はしていないけどな」
我々は船の下層の方に進んで行く。
「この規模の船だからボイラー室は何ヶ所かあるが、ここの魔力石に火の魔力を充填して蒸気を発生させ動力にするんだ」
「水魔法のように直接、スクリューを回すのではなく、火力でスクリューを回す動力を作っているのか!」
「そうだ。アイザック王子は頭が良い。そのお陰で少ない魔力で大きな力を生み出す事に成功したんだ。だからスピードも速い」
「安全性は?火災の危険性もあるのでは?」
「過去に火災や爆発した船もあるよ。だけど随分、改良されたし一日中、交代で見張りも付く。私達の船団ではここ何年も火災による事故は出してないよ。どうだ?少しは船の旅が魅力的に思えてきたか?」
確かに船で旅をするという経験は、とても魅力的だ。だがやはりスネイプニル達だろう。窓はあるが、ただ、だだっ広いだけの船室で馬達が大人しく過ごしてくれるだろうか?!
「バニヤン、スネイプニル達が船を許可しても、寄港できる港や航海計画を事前に確認しておきたいの」
「もちろんだ」
私達は屋敷に戻って簡単にお昼を済ませた後、午睡に入った。
ザック殿下はまたしっかりお昼寝しているが、リリベルは馬達の様子を見に行く。
「サオリ、セノビック、初めて海を見てきたよ。大きな船も見たの。明日、あなた達も案内するからね」
オヤツの果物をあげながら馬達を撫でる。
「明日はちゃんとお出掛けの前にブラッシングしようね。2頭とも砂だらけよ。綺麗好きなサオリまで珍しい」
サオリは「平気」と言わんばかりにパパイヤを食べ終わると木陰に戻って行ってしまった。
「セノビック、あなたはもしかして船に乗った事があるの?」
セノビックはリリベルを見つめながら首を傾げる。
「うん」と言ってるようで…トボけてもいるような、読み取りにくい表情だ。馬に表情というのも可笑しいが…まあきっと明日、船を見せたら分かるのかもしれないけど。
リリベルはそう思いながら部屋に戻ろうとすると第二夫人の二人の姉弟がやって来た。
「妖精様、海はどうだった?楽しめた?お船は大きかったでしょう!」
「お船は凄かったわ。でも海は大きな湖を見ているみたいで、あまり実感はなかったの。でも潮の香りが海なんだって思ったけど」
「私達は湖を見た事ないわ。この国には川はあるけど湖は無いの」
「そうでしたか。湖は大きな池のようなものです。でも私の実家の領地の湖は山からの雪解け水と湧水でできています」
「う〜ん。よく分かんないけど、一緒に来て妖精様!」
「来て来て!」
二人に誘われて屋敷に戻って階段を上がる。
我々の客室は2階だが、この屋敷自体は4階建てだ。二人はどんどん上がって扉をバンッ!と開けると屋敷の屋上に出た。そこは洗濯物を干す場所なのか大量のシーツなどのリネンが干してある。
「妖精様、見て!」
「見て見て!」
二人が言う方を見ると屋敷の屋上から海が見えた。遥か遠くまで広がる青い青い水平線が日の光でキラキラ輝いている。
「近くで見るよりここからの方が、ずっと“海”って感じがします」
「夕日が海に消えるのも見えるよ!夜は灯台の灯りも」
「本当ですか?!」
二人はうんうんと頷く。
「ザック殿下と王弟殿下が起きたら一緒に見に来ます」
きっと二人とも喜んでくれるだろう。




