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煩悩108の異世界で、踏襲少女は紅茶とともに世界を救う  作者: ふりっぷ
第三章 リアステ帝国編

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仲間との分断

半年は、あっという間に過ぎる。

消耗していると、特に。

 「集めた素材をお出しいただけますか?」


 ギルドのカウンターで、受付嬢が柔らかく微笑んだ。


 その声音に、わずかな違和感が混じる。


 佐和子とセリアは、同時に顔を見合わせた。


「……なんだと?」


 セリアが眉をひそめる。


「しばらくリステア帝国に滞在されると伺っておりますので

 こちらで一括管理を」


 当然のように言われる。


「いつでも引き出し可能ですし、保存処理も万全です。

 特に高位素材は、個人保管より安全かと」


 にこやかな説明。


 だが、その奥にある意図は透けて見えた。


「お前たちはそればっかりだな……」


 セリアの声が低くなる。


 受付嬢は笑みを崩さない。


「それに――皆様の治療も、帝国が責任をもってお引き受けいたします」


 その言葉に、佐和子の視線が揺れた。


 ミュリアは、まだ子猫のまま。


 セリアも、魔鎧を満足に扱えないほどの損傷。


 マーレも平静を装っているが、断章の制御は不安定だ。


「その間、佐和子様には

 ――次のA級ダンジョン攻略にご協力いただければ」


「……次って」


 思わず、言葉が漏れる。


「《第47灯:憎悪》」


 後ろでミネルファが淡々と告げた。


「周辺のB級、C級ダンジョンを吸収した大型迷宮です。

 通常の構造ではありません」


「……時間、かかりそうだね」


「はい。帝国算定では、およそ百五十層相当と」


「それ、人が辿り着ける深さじゃないよ」


 小さく呟く。


 だが受付嬢は首を振った。


「通常であれば、ですが」


 一拍。


「灯の器であれば、最短経路の選定が可能です。

 煩悩断章を灯しながら進行することで、効率的な攻略が見込まれます」


 つまり。


 遠回りは不要。


 危険な核だけを抜き取り、進めということだ。


「……半分以下で済む、ってこと?」


「ええ。さらに帝国で休息を挟むことで、

 これまで不可能だった長期攻略も実現できます」


 理屈は通っている。


 だからこそ、断れない。


「……わかった」


 佐和子は、ゆっくりと頷いた。


「でも」


 顔を上げる。


「皆の治療が終わったら、出ていくからね」


 受付嬢は微笑んだまま、何も言わなかった。


 それから、半年。


 集めた素材はすべて帝国ギルドに収められ、

 換金され、“佐和子名義”で管理された。


 だが、それに触れることはほとんどない。


 引き出しには、許可がいる。


 その許可は、滅多に下りない。


 代わりに与えられるのは、次の任務だった。


 ダンジョン。


 またダンジョン。


 灯を入れ、戻り、整え、また潜る。


 繰り返し。


 ただ、それだけ。


 気づけば、A級近郊の灯はすべて踏襲されていた。


 その間、佐和子は幾度も式典に引き出された。


「灯の器様、こちらへ」


 手を引かれ、壇上へ上がる。


 拍手が、波のように押し寄せる。


 佐和子は、微笑んだ。


 求められているから。


 隣に、仲間はいない。


 面会には許可が必要だった。


 時間も、場所も、回数も。


 決められている。


 会えない日も増えた。


 セリアは治療室に。


 ミュリアは観察区画に。


 マーレは、別棟に。


 理由は、すべて「治療」のため。


 誰も、反論できなかった。


 式典に様子を見に来ていた勇者パーティーは異常に気付いていた。


「おい、お嬢ちゃん顔面蒼白だ」ディレクが声を落とす。


「セリアとミュリアは、どこだ?」

 アントニオが低く問う。


「どうやら近くにいないようです。

 僕たちと同じく、合流を阻まれているのでしょう」


「いい加減、式典もサロンも無視して、

 佐和子に会いに行けばいいだろう?」


「僕はエラフ公国の王です。自ら儀礼を破ることは出来ません」


「あっ、奥に入ってしまうぞ」


「――僕の出番も近そうだね」

 後ろでノクスが微笑んだ。


 佐和子には、その会話は届かなかった。


 式典が終わると、次の衣装を着せられる。


「どうぞ、こちらへ……」


 侍従に手を引かれたとき、

 ほんの一瞬だけ振り払おうとして――やめた。


 結局、従う。


 ギルドへの素材提出。


 ダンジョンの魔法許可。


 仲間たちの治療隔離。

 

 佐和子自身の外出管理。


 そして、祝福と監視が混ざった視線。


 全部が、重い。


 ◆


 半年と十日目の朝。

 この日も、迎えが来る――。


 《第47灯:憎悪》


 巨大な裂け目のような迷宮入口から攻略に入り


 今日はその奥。


 ボス部屋を残すのみ。


 ここを終えれば――


 そう、思っていた。


 だが。


 胸の奥で、何かが軋む。


 積み重なったものが、音を立てて歪む。


 握りしめた手に、力が入る。


「……もういい」


 誰にも聞こえないほどの声。


 だが、その一言は確かに落ちた。


 限界は、とっくに過ぎている。


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