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煩悩108の異世界で、踏襲少女は紅茶とともに世界を救う  作者: ふりっぷ
第三章 リアステ帝国編

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攻略者、素材回収係に落とされる


第59灯踏襲後、宰相カンメルは佐和子から回収した記憶装置を

確認しながら配下に目録を取らせていく。


「ドロップ素材をお出し下さい。

 帝国の管理ダンジョンでの素材取得は認められておりません」


重傷だった三人は先に医療室に運びこまれ、ここには佐和子一人だ。


「特に、《欺瞞》の灯は観測搭に必要な素材です」


「い・や・だ」

佐和子は一言ずつ区切りながら宣言する。


「あなた達の為に攻略したわけじゃない。

 追放したいならすればいい」


カンメルの眉がぴくりと痙攣した。


「傷が癒えたらマーレの為にF級ダンジョンも探索したい」


「F級ダンジョン? そのような余裕はありません」


帝国の参謀官が、即答した。


その横で、巫女ミネルファがやや穏やかに口を挟む。


「まあ、よろしいではありませんか。ここまでは順調ですし、

 世界寿命も延長していただきました」


「……致し方ありませんな。

 次のA級ダンジョン攻略まで予備日を設けましょう」


「なんの話かわからない。私たちはもうここを出ていくよ」


「あら、帝国で最高の治療が受けられるのですよ。

特にミュリアさんは原型にまで戻ってしまって…

 お気の毒に」


「治療ならここじゃなくても…」

佐和子の声が少し小さくなる。


「ご存知でしょう。失った神力は通常の治療などで

回復はしないと。貴方自身、まだ神器を失ったままでしょうに」


ミネルファは念を押してくる。


「サンヴォーラ王国では満足な治癒施設もないはず。

 連邦は兵器開発に特化しており、魔術を軽視する傾向があります。

 エラフ公国であれば、帝国と同等の治療は受けられるでしょうが、

 エルフはお嫌いだとか……」


「よくわかっているね。仮にここに留まっても

 神器の無い私はもう、役には立てないよ」


「ご謙遜を、迷宮探索に同行して頂くだけでもありがたいですわ。

 ”灯の器”は唯一無二の存在ですもの」


「それに――」

ミネルファの口調がほんの少し毒を孕んだ。


「すぐに回復させる方法も教えて差し上げられます」

佐和子のおへその下を指で軽くなぞっていく。


「吸収した断章片の力を解放してあげればいいのです。

 無理に溜め込むから、身体に負荷がかかる」


「ふあっ」


体を触られた瞬間、佐和子は反射的に一歩引いた。


なぞられた部分が、じわりと熱を持つ。


薄いあざが、皮膚の上に浮かんでいた。


見たくなかった。でも、消えない。


ミネルファは、それを見て微笑んだ。


「欺瞞の断章片だけ活性化させるつもりでしたが、

 ずいぶん、複雑に絡み合ってますね」


佐和子の周りの景色が歪み、あざが微かに熱を持った。


「……とにかく、まずはF級ダンジョン探索にいく」


ミネルファの目が、わずかに細くなった。


佐和子は、それを見なかったふりをする。


【F級ダンジョンの探索】


多少傷の癒えた三人が佐和子に合流する。

ミュリアは猫のまま、セリアは皮鎧を装着している。


「F級ダンジョンだって、素材の宝庫だ。

 マーレは高難易度ダンジョンしか知らないだろうけど

 探索の楽しさはここで学ぶもんだよ」


セリアはすっかりやる気だ。


だが、その予備日は、監視下での探索任務という形に変質していた。


リステア東部の廃坑にできたF級ダンジョン。


「佐和子様、魔力行使の際は事前に申告を」


淡々と告げられたその一言に、空気が凍る。


「は?」


セリアが、思わず声を漏らした。


「危険行為を未然に防ぐためです。

 佐和子様は高出力個体。突発的な魔力解放は認められません」


前後を帝国騎士に挟まれ、

先行するBランク冒険者が魔物を切り伏せていく。


「敵は我々が排除します。素材回収のみ、お願い申し上げます」


佐和子は、何も言わなかった。


魔力が、喉元まで上がる。

だが――使えない。


使うには、許可がいる。


倒れた魔物から渡される素材を、

佐和子は無言で受け取り、セリアのリュックへ収納していく。


また一体。また一体。

手渡される素材は温かい。

さっきまで生きていたものの残骸だ。


騎士が倒し、次々と手に乗せられる。


佐和子は、それを繰り返した。


セリアだけが、歯噛みして呟く。

「お前ら、ふざけてんだろ」


マーレは、前を向いたまま、何も言わなかった。


ミュリアの小さな耳が、ぺたりと伏せた。


誰も、答えなかった。


空気は重く、冷たい。

それはまるで――


佐和子だけを閉じ込める、透明な結界のようだった。


――壊せばいい。


胸の奥で、何かが小さく軋んだ。

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