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煩悩108の異世界で、踏襲少女は紅茶とともに世界を救う  作者: ふりっぷ
第三章 リアステ帝国編

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A級踏破の代償と、少女の後悔

A級ダンジョン《第59灯:欺瞞》攻略後。


命は繋いだ。

だが、代償は確かに残った。


「……生きて、帰れたか」

 A級ダンジョンを抜けた直後、佐和子は拠点の石床に腰を下ろし、

ようやく大きく息を吐いた。


 致命傷はない。


 だが――無傷でもない。

「私から前線を崩壊させてしまった――ごめん」


 セリアが立ち上がろうとした瞬間、魔鎧から赤黒い光が舞い、

身体をぎりぎりと締め付ける。


「あっ、何これ?」

「鎧を脱ぎなさい」

 マーレが迷いなく言い、留め具に手をかけながら

 淡々と続ける。


「その鎧は常にあなたの魔力を奪っている。

今は自己修復のために、過剰に引き出し始めているわ」


 血まみれでぼろぼろの衣服から下着が見えてしまっているが、

 セリアはそれより先に子猫へ駆け寄った。


「姉さん、大丈夫か!」

 ミュリアのポーチから霊府を掴み出すと、

ありったけの魔力を込めてベタベタと貼っていく。


「痛ったいにゃ!!」

 全身に力任せに貼られたミュリアが悲鳴を上げる。


 マーレがセリアの手から霊府を静かに取り上げた。


「怪我の度合で言えば、あなたの方が重症です」

「私は大丈夫だから、さっちゃんを優先して」


 ミュリアが言い、手早く治療具を広げる。

裂けた外套、浅く焼けた前腕、魔力逆流による微細な痺れ。


どれも命に関わるものではない。

だが放置すれば、確実に後を引く。


「……ちょっと、しみる」

「我慢してください。回復術は最低限に抑えます」


 淡い光が、必要な箇所だけを選ぶように灯る。


全快させない――無理をした事実を、

あえて身体に残す判断だった。


 包帯の下で、遅れて痛みが脈を打つ。

佐和子は、それを無言で受け入れた。


「たった四人で攻略なんて快挙じゃない!?A級だぞ?」

 セリアが包帯を押さえながら、わざと軽口を叩く。


「……少し、怖くなっちゃった」

 佐和子は黒槍の消えた右手を見つめる。


「応急処置は完了です。ただし精神疲労が残っています。

判断力の低下にはご注意を」


「……うん」

 返事は素っ気なく、どこか遠かった。


 少し離れた場所で、マーレが治療の様子を静かに見つめている。

足を引っ張ったわけではない。それでも、最後は手が出せなかった。


「リステア帝国……あいつら、利用するだけ利用しようとしてるぜ」

 セリアが吐き捨てるように言う。


「むぅ」

 佐和子は唇を尖らせた。


「やり方が上手いのです」

 マーレが静かに続ける。


「本来であれば、私が越境した時点で国際問題にできました。

制御不能と評された煩悩兵器を他国へ送り込んだのですから。

ギルド登録も拒否できたはずです。それでも手続きは好意的だった」


 マーレが申し訳なさそうに頭を下げる。

「巫女との対談も、思想の違いが明白であったにもかかわらず、

踏み込んだ干渉は避けていた。


そして――佐和子様の攻略にだけ、狙いを絞って圧をかけてくる」

「老舗国家の、嫌らしいやり口だな」

「もう、ごりっごりです」


 ミュリアの耳の毛が逆立ち、隠していたはずの二本の尾が、思わず覗いた。


 その中で、佐和子がぽつりと呟く。

「さっきも言ったけど……本当はね」


 三人が耳を傾ける。

「マーレの冒険者ランクはF。

……F級ダンジョンから始めさせてあげたかった」


「……佐和子様」

 マーレの目が、一瞬うるんだ。


「でも……今回は、私も、何が正しかったのか分からなかった」

 小さな拳が、ぎゅっと握られる。


「ごめんなさい」


 マーレは静かに膝を折り、佐和子の手を両手で包み込んだ。


「そのお気持ちだけで……本当に、十分でございます」

 声は、微かに震えていた。

 ふと、佐和子が額を押さえた。


「……頭が、ぼーっとする」

「これまでと比較にならない精神干渉がありました。

疲労するのも当然です」


「……少し、眠る」

「はい。ミュリア程、上手くできませんが、

 暖かい紅茶をご用意しますね」


 陽は落ちかけていた。仄暗い石造りの拠点の一室に、

重い戦いの後の、短い安らぎが広がる。


遠くで、帝国騎士の足音が聞こえて来た。


次話は、帝国側の動きと

監視下探索です。


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