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煩悩108の異世界で、踏襲少女は紅茶とともに世界を救う  作者: ふりっぷ
第三章 リアステ帝国編

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《第59灯:欺瞞》完全攻略――ドロップ素材と灯点火、そして代償

リステア帝国の並みいるA級冒険者達も避ける

A級上位浸食ダンジョン。

佐和子は初めての踏襲者となりました。

ドロップ素材回収/《第59灯:欺瞞》


轟音が、ようやく止んだ。


崩れ落ちた玉座の残骸が、ゆっくりと砂のように崩れ、

重力の歪みが解けていく。


床に膝をついた佐和子は、荒い息のまま振り返る。

「……終わった?」

返事は、すぐには返らない。


セリアは冥斧を支えに片膝をつき、

ミュリアは白猫の姿のまま、

マーレに抱かれ、瓦礫の影で胸を上下させていた。


だが、空間が、嘘をつくのをやめた。


歪んでいた白磁の床は平坦に戻り、

壁に残っていた十字架の影も、意味を失った線に変わる。


「……鎮静、確認」

ようやく、ミュリアが震える声で告げる。


「ダンジョン核、活動停止。

 《第59灯:欺瞞》……完全攻略です」


その瞬間だった。空間の中心、砕けた王冠の残骸が淡く光を放ち、

何かが、静かに浮かび上がる。


ドロップ素材:

欺瞞の遺産宙に浮かぶのは、二つ。


一つ目は、歪な王冠の破片。


金属のようでありながら、触れようとすると重さが変わる。

重くなり、軽くなり、定まらない。


「……《虚王冠片(ぎまんのかんむり1/4)》」

ミュリアが即座に記録する。


「質量偽装の核素材。

A級魔具の中枢部にしか使えません

……これ一つで国家案件ですね」


二つ目は、透明な結晶体。

中に、斬撃の軌跡のような線が幾重にも封じられている。


「《虚実反響晶きょじつはんきょうしょう》」

ミュリアの声に、僅かな高揚が混じる。

「攻撃履歴を保存・再生できる希少素材

……使い方次第で、危険すぎる代物です」


「私の《執着の断章片》の上位互換ですわ。

 斬撃以外も再生できるのでしょうから……」

マーレが口元に手をあてた。


そして――。

佐和子の足元に、静かに転がったそれは、

黒く、鈍く光る灯の塊だった。


他の灯よりも、重い。

触れた瞬間、胸の奥が軋む。


「……これが」

佐和子は、無意識にそれを握りしめる。

「《欺瞞》の、断章核……」


砕かれた核が浄化の光で再生し、佐和子の手の中で脈打つ。


次の瞬間。

彼女の胸元から、柔らかな光が溢れ出した。


「……来る」

ミュリアが息を呑む。


佐和子の足元に、光の陣が展開される。

祈りではない。


ただ――繋がる感覚。

灯粒子が溶けるように光へと変わり、空間を突き抜け、

世界の外側へと流れ込んでいく。


その瞬間。

全員が、同時に感じた。

――世界が、息を吸い直した。


遠くで、

何か巨大な歯車が一段階噛み合うような感覚。


「……寿命延長、確認」

ミュリアが、震える声で告げる。


「《第59灯:欺瞞》点火。世界寿命……120日延長」

セリアが、乾いた笑いを漏らした。


「……はは。命張った割に、B級ダンジョンと変わらねぇのか」

マーレは猫の姿のまま、佐和子の足元に歩み寄り、

その黒い灯痕をじっと見つめる。


「……うん」

疲労も、痛みも、消えない。

佐和子の目の焦点がずれ、片膝を付いた。


「さっちゃん」

「あっ、マーレ。これで私達は自由だ。

 F級ダンジョン探索に行こう」


嘘のように幼い声。

その言葉を、誰も否定しなかった。


ただ、ミュリアの記憶結晶と

帝国の記憶装置がかつてなく明動していた。


王の間が崩壊を始め、回廊の奥で、石が軋む。

天井の亀裂が、広がっている。


断章の支えを失った空間が、ゆっくりと崩壊を始めていた。


「……光が、きれいだ」佐和子が呟く。


だが、視線の先の壁際の燭台に、まだ火は入っていない。

こんなにも暗い。


「……みんなには、見えないか――」

ふらつく足で、歩く。


血が床に点々と落ちる。


子猫のミュリアが、よろよろと追う。

「さっちゃん……もう……」


佐和子は燭台に触れた。指先に、残り僅かな神力を集める。


灯れ。


小さな火が、揺れた。


一つ。また一つ。


回廊の燭台に、灯がともる。


橙色の光が、石壁を照らす。


佐和子の瞳が、淡く光った。


灯火の光が、逆流する。

炎が、揺らめきながら吸い込まれていく。


光が、佐和子へ集束する。


「……断章核を……吸ってる?」

マーレが息を呑む。


佐和子が灯をその身に納めるのを始めて見たマーレは、

強烈な違和感を覚えた。


(もしかして、さっちゃんが吸収し続けていたのは、

 ダンジョン・コアそのものなのでは…)


佐和子の身体が、前へ倒れる。

「さっちゃん!」マーレが受け止める。


意識は、ない。

呼吸はある。

だが深い。


光輪も、消えている。


ただの人間の体温。

子供のような、軽さ。


セリアも動かない。

壁に打ち付けられた傷が深い。


「……二人とも」天井が崩れ始める。

時間がない。


マーレは、歯を食いしばった。

自分の外套を裂く。


佐和子を背に固定する。

さらにセリアを前に括り付ける。


二人分の重さ。

「……重いですね」苦笑する。


だが立ち上がる。

将の誓剣を杖代わりに。


子猫が、足元で鳴く。

「にゃ……」


「ミュリア、来なさい」瓦礫が落ちる。

回廊が傾き始め、マーレは走る。


重い。

だが、落とさない。

絶対に。


背中の鼓動と、胸の鼓動。


二つを感じながら、進む。

「二人とも……絶対落とさないから」

息が切れ、足が震える。


それでも走る。

「負けませんよ」出口の光が、遠くに見える。


後ろで、崩壊が迫る。


猫が必死に跳ぶ。

小さな身体で、瓦礫を避ける。


転ぶ。

立ち上がる。

また走る。


「にゃっ……!」最後の柱が崩れる。


マーレが飛び出す。


直後、回廊が崩落した。


凄まじい轟音と共に砂煙が舞い。


静寂。


外の空気が、冷たい。


マーレは、膝をついた。


背の佐和子は、動かない。

前のセリアも、目を閉じたまま。


子猫が、よろよろと近づく。

佐和子の頬に、額を押し付ける。


「にゃ……すべてを、記憶しなくては……」かすれた声。

「生存、確認……」小さな尻尾が、震えている。


その時、佐和子の胸元で結晶が勝手に光り始めた。


かすかに、ノクスの声が響く。

「わかったろう……今の君では、S級ダンジョン攻略はできない…」

夜空の星が、瞬く。


戦いは終わった。だが代償は重い。


マーレは空を見上げた。

「すぐに救援が来るはずです」


セリアと佐和子を並べて寝かせ、静かに抱きしめる。

二人とも生きている。


まだ、温かい。


だが、帝国の空は

――今夜、少しだけ重く垂れ込めていた。


記憶の混濁を起こし始めた佐和子。

原型に戻ったミュリア。

満身創痍のセリア。


何故、ここまでの犠牲を強いられたのか。

佐和子の深いところに、これまでにない感情が蓄積されます。

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