《第59灯:欺瞞》断章ボス:カリオン・メロイ 終局
欺瞞の王との決着。
嘘をつき続けた世界で、
最後に選んだのは――重さを背負うこと。
金の瞳が、揺れる。
「中心を……一つに……」
佐和子が息を吸い込み、光輪が収束する。
暴走が、わずかに鎮まる。
「……まだ、終わってない」
王冠の亀裂が、脈打っている。
佐和子の光輪は、半壊したまま振動を始めた。
「中心を……一つに……」
子猫のミュリアが、震える声で繰り返す。
佐和子は目を閉じた。暴れる神力を、押さえ込む。
重さを奪うのではない。
重さを、集める。
散らばった重力線を、一本に束ねる――王冠へ。
「それが狙いか!《王冠穿孔》」
最後の重力針が放たれる。
だが、実体に戻った少女は今度も避けずに踏み込む。
針が佐和子の肩を貫き、血が舞う。
それでも止まらない。
「欺瞞の王」
黒槍を、両手で握る。
「重さは奪うものじゃない」
一歩、床が砕ける。
「背負うものだ」
王冠が、悲鳴を上げ、カリオン・メロイの絶叫が響く。
「やめろ! その核を壊せば、お前たちも――」
「知ってるよ。私たちはいつもこうしてきた」
黒槍が、王冠の中心を貫く。
次の瞬間。
王冠が、内側から砕けた。
光ではない、重力の崩壊。
圧縮されていた質量の嘘が、一斉に解放される。
だが暴発しない。
佐和子の光輪が、収束している。
半壊していた円環が、重力と共にゆっくりと閉じる。
王の殻が、空洞が、静かに崩壊する。
「……見事だ」
声が、薄れていく。
「真実を、選んだか……」
殻が砂のように崩れ落ちる。
王冠は、完全に粉砕された。
重力が、正常へ戻る。
佐和子は、ゆっくりと息を吐いた。
肩から血が流れ、緩やかな崩壊が始まっている。
だが、立っている。
背後で回っていた光輪が、淡く揺れた。
次の瞬間。
手の中の黒槍が、砂のように崩れた。
「……え?」
形を失い、光の粒になって消えていく。
神力は尽きたのだ。
存在の安定と引き換えに、武器が消えた。
そして、光輪も、欺瞞の重力と共に消えた。
マーレが駆け寄る。
「さっちゃん!」
セリアも、壁に手をついて立ち上がる。
「終わった……のか」
足元で、小さな白い影が動く。
子猫が、ふらりと座り込む。
「……解析、完了です」かすれた声。
「王冠の核、完全消滅を確認」
佐和子はしゃがみ込み、そっと抱き上げる。
「帰ろう」
子猫が、わずかに目を細める。
「……はい」
崩れた玉座の跡地に、光はもうない。
欺瞞は、終わった。
佐和子の背後で、消滅した光輪が光の粒子となり散っていく。
神格は暴走ではなく、意志の下にある。
重さを、背負う覚悟とともに。
――A級ボス《欺瞞の王:カリオン・メロイ》討伐完了。




