再会
ジェラルドはソファに座り、目の前の壁に飾ってある貴婦人の絵画を眺めている。本当は外の景色を眺めたいのだが、この天井の高い部屋には高窓しかなかった。やがてノックの音がして待ち人が現れる。ジェラルドはゆっくりと立ち上がった。
クリストフから観劇に誘われた。今度は何だ?と思ったが、エリアーヌも一緒だというなら断れない。大方、人数合わせだろう。
貴族が集まって来ている中、にわかに王宮も騒がしくなってきている。ユリウスの仕事はこれから増える一方だ。昨日より高く積まれている書類の山を一瞥して、ユリウスはため息をついた。
「新しい生活には慣れた?」
「そうね、ようやく落ち着いたわ」
キャロラインはアンナの元を訪れている。披露パーティーで会って以来であるが、アンナは女主人としての風格を身につけ始めている。
「キャロラインは領地ではどうだったの?」
「今年はフリージアがクリストフ様とユリウス様を招待したから、賑やかだったわ」
「二人共、妹の婚約者よね。うまくいってるのね」
「ええ、私も嬉しいわ」
キャロラインは微笑んだが、アンナにはそう見えなかったようだ。
「…寂しそうな顔をしているわ。何かあったの?」
アンナが不安そうに見つめてくる。キャロラインは息を吐いた。
「何もないわ。私には何もないのよ……」
「キャロライン……」
「ジェラルド様と話をするつもりよ。いつまでもこのままでは良くないもの」
「そう……」
アンナは頷いた。
「…キャロラインが決めたことなら」
「ありがとう」
キャロラインはまた微笑んだが、やはりアンナにはそう見えていないようだ。自分は今どんな表情をしているのだろう、とキャロラインは思った。
玄関を入った広間のソファにユリウスが座っている。身を沈め、腕を組んで何か考え事をしているようだ。クリストフが「忙しいのか?」と声を掛けると無言で視線を投げつけてくる。忙しいらしい。二人して無言で座っていると、フリージアとエリアーヌが姿を現した。
フリージアは以前クリストフが贈ったドレスを身に纏っている。エリアーヌのドレスもユリウスが贈ったものだろう。華やかで可愛らしい。ユリウスはエリアーヌの装いを褒め、フリージアに誘いのお礼を述べる。ユリウスは何をしてもそつがない。女性の好みや似合うものも知っている。そういうところは自分にはない部分だ、とクリストフは思っている。
「あの、素敵な贈り物をありがとうございます。とても気に入りました」
挨拶が済むとエリアーヌが声を掛けてきた。
「気に入ってもらえたなら良かった」
クリストフは内心ほっとした。一目見た時、エリアーヌのようだと思った。だから贈りたいと思ったのだが、友人の婚約者に贈るのはどうなのだとも思った。だがユリウスは特別気にしなかった。普段と変わらない口調で「エリアーヌは喜ぶだろう」と言った。
「ぜひ、あの、お礼をさせてください」
必要ないと断ろうとすると、ユリウスが口を挟む。
「折角のエリアーヌの好意だ。受け取ってくれ」
ユリウスは口許に笑みを浮かべていたが、目はそれほどでもない。「では」と言ってクリストフが頷くと、エリアーヌはとても嬉しそうに微笑んだ。なるほど、ユリウスはそつがない。
「さあ行きましょう」
フリージアの言葉で馬車に向かう。フリージアはエリアーヌと同じ馬車に乗り込んだ。ユリウスを見ると嫌そうな顔でこちらを見ていた。




