終宴
キャロラインが居間に行くと、フリージアとユリウスがソファに座り話をしていた。二人の膝上やテーブルの上には本が開かれており、話し合いをしていたようだ。キャロラインに気づいたフリージアが声を掛けてきた。ユリウスは手でソファを案内し本を閉じる。
「お邪魔したようで、ごめんなさいね」
「こちらの調べ事は終わっています。どうぞ」
「ずいぶんと熱心なのね」
「知識があるだけでは、知っているとは言えませんので」
そう言ってユリウスは本の表紙を指で軽く叩く。キャロラインは頷いた。そしてフリージアに目を遣り尋ねる。
「エリアーヌを見なかった?」
「クリストフに付き合って海にいるわ。本当に好きよね。ふふふ」
フリージアは無邪気に笑ったが、何となくユリウスを気にしてしまう。
「この後、私達も調べ事の確認に行ってきます」
キャロラインの雰囲気から察したのか、ユリウスが口許に笑みを浮かべて発言する。キャロラインは余計なお世話だったわと苦笑した。
「そういえば港はどんな風に変わったの?」
「区画を整備したのよ。古い商館も建て直したし、迎賓館も建ったのよ」
父と連れ立って出掛けるフリージアはさすがによく知っている。
「ジェラルド様は港のパーティーに行かれたようね」
「迎賓館の披露パーティーでしょうね。式典には父も出席したはずよ」
「ユリウス様も見に行かれるの?」
「帰るついでに寄ろうかと思います。丁度、近くにいますから」
その言葉にキャロラインは別れが近づいていると悟った。王宮で働く二人はいつまでも離れているわけにはいかないのだろう。
「エリアーヌは連れて行かないわ」
「それがいいわね」
キャロラインは頷いた。いろいろな地域から人が集まれば、何か起きたりするだろうことはキャロラインも想像がつく。繁華街があるので、あまり良くない所もあるだろう。
「お気をつけて」
フリージアのようについて行くことが出来ないキャロラインは、そう言うしかなかった。
フリージアが出発の日を告げると、エリアーヌは明らかに元気を無くした。クリストフが慌てて慰める。
「あの、ほら、なんという貝だっけ?まだ見つけてないだろ?」
フリージアはエリアーヌがクリストフに付き合っていると言っていたが、どうやら逆のようだ。
ユリウスがコホンと咳払いをする。
「見つからなければ、またクリストフを連れて来よう」
その言葉にエリアーヌは潤わした目で顔を上げた。
「よ、よろしいのですか!?」
「約束しよう」
ユリウスがにっこりと微笑む。フリージアは笑いを押し殺しているが、エリアーヌは頬を染め満面の笑みで喜んだ。クリストフはほっとした顔をしていた。
別れの時がやってきた。
フリージアはさっさと馬車に乗り込んだ。クリストフは丁寧に礼を述べ、やはり直ぐに馬車に乗った。エリアーヌとユリウスに気を使っているのだろう。キャロラインも二人から少し離れた。
ユリウスに何か言われてはエリアーヌは頷いている。やがて微笑んでユリウスを見送った。
三人が去ってしまうとエリアーヌは「寂しくなるわ」と呟いた。キャロラインはエリアーヌの肩をそっと抱きしめた。




