father's fist
メリークリスマス! ……関係ないけど、実はサンタさんってゲルマン系の要素があるらしいよ。まあ、ゲルマン系…もしかしたら、ドルイド的要素もあるかもしれない。
あの赤い服を着た人は、一体誰なんだろうね?
「もぐもぐ……やっと終わったようね」
「フィーちゃん、それは私の……もしかして意外とはしゃいでる?」
テントから出て暫くの間、私は屋台を少し見て回った。すると、いつの間にか片手に串を持っていた。不思議なこともあるものだと、少し感心してしまった。
「そんな事はどうでも良いじゃない。はい、あんたのもあるから」
抱えていた串をアリアの口元まで差し出す。その串を見て、アリアが大きく目を開き、口を緩ませて、ぱくりと串を頬張った。
「次はどこに行こう?」
「さあ? あっ、あっちに人が集まってる」
「じゃ、そっちに行こう!」
二人の少女は人混みに飲まれていった。
*
「……楽しそうだな」
ぼそりと呟いた彼の言葉に、僕は手元から視線を移した。
「そんなに混ざりたいのなら、行けばいいのに。僕は一人でも大丈夫だから」
話しながらも、完成した花火 (仮)を木箱に入れて、次の材料に手を付ける。
「いや、それは……」
ずっとこの調子のシルヴァに、僕は思わず苦笑してしまう。何か僕に用事があるのは察せられるけど、彼が言葉にしないのだから……つい、おかしく思ってしまう。そんな風に彼と遊んでいると、天幕の外から誰かがやってきた。
「おい、お前ら何やってんだ? チカチカと輝かせて……おい、どけよ!」
「ここに屋台はない、もし余興だと思ってきたのなら引き返すといい。裏方の仕事は覗くものではないはずだ」
見るからにわがままというか……こう、気が強そうな少年がシルヴァに止められた。
「は? 何言ってんだ、おまえ。俺はただ何やってたか見せろって言ったんだよ、聞こえなかったのか?」
少年は臆した様子もなく、少年より幾分大きいシルヴァに物怖じせず詰めてきた。
「……君に、ここを見ていいという許可はないはずだ」
「見るのに許可がいるのか? おまえは人に命令できるほど偉いのかよ?」
口を横一文字に結びつつ、シルヴァは少年の横暴に困った顔をしてしまった。
「……シルヴァ、通してあげて。大丈夫、この場で全部駄目になるようなことは起こらないから」
「だが……」
躊躇する様子を見せた後、シルヴァは折れて、少年を通した。
「はっ、分かってんじゃねえか。……あん? なんだこれ、ははっ、ただの石くれじゃねぇか」
仮にも錬金術で生成された道具だ、変な衝撃が与えられると何が起こるか分からない。だから、下手なことをされないうちに興味を失ってもらおうとしたが、
「うん、そうだよ。だから、君が興味を持てるものはここにはないよ。だから……ちょっと、それはっ——」
「ふんっ、こんなのこうして——」
何を思ったのか、振りかぶって垂直に作業机に向けて振り下ろされる。しかし、その後に待ち受けていたのは爆発ではなく…………
「そこんガキ、一体何をしようとした?」
木の幹よりも太そうな腕が僕の目の前に現れていた。その幹の付け根の方を見ると、髭をモジャモジャに生やした老人が鋭く少年を睨んだ。
「い、いや……俺は……」
顔を青ざめさせて、ことんと手に握っていたものを離した瞬間、老人も手を離したのにあわせて、少年は腰から地面に倒れ込んだ。
「さっさと行け、それともこの拳骨を喰らいたいのか?」
「あっ、ぅ……うあぁぁぁぁ?!?!?!」
老人が拳を握って、手を振り上げると、少年は悲鳴をあげて逃げ出した。
「ったく、根性のないガキじゃの。おい、シルヴァ。こっちに来い」
緊張した顔で、冷や汗を流しながら、シルヴァは老人に近づいた。
「はい……ぐあっ?!?!」
「こんの、バカモンがッ!」
ちょうど振り上げた金槌が釘をみつけたように、勢いよく振り下ろされた拳はシルヴァの脳天を直撃した。
「お前は言ったな? これ以上、あいつの家のもんが傷つくところを見たくないと。ワシに誓ったはずじゃな? お前自身が、この子らを守ると……それなのにこの体たらく、恥を知れッ!」
「…………」
怒濤の勢いで叱る老人に、シルヴァは目を伏せて黙っている。その様子は荒天を凌ごうとする旅人ようだ。
「バルドさん、そこまで怒らなくてもいいんじゃない? 彼を通したのは僕の判断だ、もしシルヴァに怒りをぶつけたいなら、僕にぶつけるのが筋だと思うよ?」
老人……バルドさんは不機嫌そうに鼻を鳴らして、シルヴァの頭に手を乗せた。
「ふん、小僧がいっちょ前にしゃしゃり出おってからに。これはワシと、こいつの問題じゃ。お主が出る幕はない」
「……自分の領分はこれでも分かってるつもりさ。でも、口にしないと伝わらないのも事実なはずだ。だから、許してあげて欲しい」
所詮は子供の戯言でしかないのかもしれない、自分がドルイドでないことや、両親の事情なんて……僕にはどうしようもない事はたくさんある。
確かに僕には力はない、でも……だからと言って言葉を飲み込むだけが良いことではないと知っている。口にして伝えたい事はたくさんあるから。
「聞いたか、この小僧は自身の考えを口にしたぞ。お前はどうする、シルヴァ」
怒気が風船のように萎んだ様子で、バルドさんはシルヴァの背を押して、僕の前に突き出した。
「すまない、フリューゲル。俺は叱られて然るべきなんだ。その……君が村でいじめられた時、俺はその場にいたが、前に立ち、彼らを諌めることができなかった……すまない」
手を固く握り、唇を噛む鎮痛な面持ちで、言葉を口にするシルヴァに、僕は唖然としてしまった。
「そんなことを気にしてたんだ……別に気にしてないよ。だって、いじめてきたのは彼らであって、シルヴァじゃないから。それに、シルヴァは動きたかったんだよね? でも、事態が悪化するのを恐れて動けなかった……違う?」
「それは……」
目を彷徨わせ、口にし難いのか、シルヴァは困ったような顔をしていた。それを見てか、バルドさんはため息をついて、僕達の間に割って入った。
「甘い、あまりにも甘過ぎる。それは優しさというには、自己完結が過ぎている。……ふむ、もし虐められてたのがお前ではなく、お前の姉たちだったらどうする? その場で止められた他者に少しの恨みも持たずにいられるか?」
「……恨まないのは無理だと思う、でも自分なりに割り切るよ。大事なのは復讐じゃなくて、お姉ちゃん達だから。無関係な人まで恨みたくもないし」
体験したことがないのに、それに確実な答えが返せるはずがない。だから、少し大人気ないとバルドさんを見詰めた。
「ふん、……これではあやつも苦労するじゃろうて。まあいい、要するに立場が変われば抱く感情も変わる。それは否定せんということじゃな?」
「そう……だけど、だから何?」
僕はあまりバルドさんと話したことはない、だから人柄も概ねしか知らない。後は、お父さんが小さい頃よく世話になったことしか。だから、彼が次に何を話すか掴めず、きっと困惑した表情で、僕はバルドさんに話を促した。
「きっと小僧なら、迷わずあの子たちをいじめっ子から守ろうとするじゃろうな。じゃが、咄嗟に動けない奴もいる。こいつのようにな。手の届かぬ範囲はどうしようもない、だが手の届く範囲だけでも行動できん奴は後悔だけを引き摺る。ワシたちは今を見て生きている、決して未来を憂慮してばかりで行動しないなどあってはならない。望むもののために、毎度行動してる訳ではないであろう。ただ今為すべきことを成すだけのこと。例え主人に何を言われようと、その役を全うする……それが騎士の誇りじゃ」
言い終わると、思いっきりシルヴァの背を叩き、天幕を潜ろうとしたところで足を止めた。
「小僧はもっと人と関わった方がいい、あまりにも世界が狭過ぎる。あいつの過保護も大目に見てきたが、個人の世界しか見れんようではいつか全てを巻き込んで破滅するぞ。それが小僧だけなら何も思わないじゃろう、しかし、あの子たちが被害を被る可能性もある。ワシはすでに一人見たぞ、権力闘争に巻き込まれて、破滅した人間をな。人の見る先を見てみろ、少しは世界が広く思える」
そう言って、今度こそ、バルドさんは僕たちに背を向けて、去っていった。
オサレを求めて三千里……未だに影も掴めず、そろそろ小説家になろうに来てから一年しそうだなーと。
何回も話を書き換えているから、面影も特に残ってない気がするけど、少しは成長出来てると嬉しいな。
この剣の届かぬ間合いがある
この盾では抱えられかったものがある
風に攫われた砂を再び手に取ることは困難だ
だが、手に残るものの糧となることは出来る




