Practical and barren time
作者は眠気に弱いので……体が暖かくなるだけで、眠りに落ちます。世にも稀な、机にうつ伏せで倒れなくても寝れるタイプ……いや、希少ではないかも。
「……あぁ、夜更かしするものではないわね」
思考の鈍い頭を振って、少しでも鮮明にしようとする。膝に置いていた本の内容は分かりやすいが、深い理解には様々な条件での結果を予想出来ないと。
「ん? お前、こんなところで何をやってるんだよ」
パタリと本を閉じて、こちらに向かってくる二人が……最近知り合った彼らだと知り、素直に驚いた。
「今は本を読んでいるだけ。それと……少し待ってる相手がいるのよ。逆に意外だけれど、あなたたちは散歩でもしてるの?」
本を家の垣根に置いて、膝下を軽く叩き、立ち上がる。ロデルの後ろに回って、ベラは隠れながらこちらを見ていた。
「そっ、そんなところです!」
腹の底から捻り出したような声を出して、また彼の背後に引きこもった。
「そんな気合の入る散歩なのかしら……ま、良いわ。あなたたちはいつも二人なの?」
「じゃないと、こいつが一人になるからな。この村は狭いから、交友の輪に混ざれない奴から淘汰されていく。特に、お前の弟のような奴は目の敵にされるんだよ」
以前忠告していたのは、何かしらを目にしたことがあるのか……とにかくいじめっ子たちと繋がりがないと分かれば良い。
「ふうん、あなたは優しいのね」
「……優しい訳じゃない。俺の親父は商人だから、家にいる時間が少ないんだ。その間、隣のこいつの家に厄介になることが多かった。もう家族みたいなもんなんだから、守るのは当たり前だろ」
持ちつ持たれつの関係だったらしい。先程から驚かされ続けているのは、きっと彼の上辺だけを見ていたからだろう。
「あなたに聞きたいのだけれど、あなたは何が好き?」
「ちょ、ちょっと待って?!」
怪訝な表情で私を見るロデルとの間に、ベラが慌てて入ってきた。
「す、すっ、……はぁはぁ、落ち着いて、私。えっと、さっきおかしなこと言わなかった?!」
胸に手を当てて、深呼吸した後に私の肩を掴んだ。
「え? ……言葉が足りなかったわね。ロデル君の好きなものは何かと教えて欲しいのよ、男の子が好きなものは何かを掴みたくて。祭りまでに、フリューゲルの誕生日もあるし」
少し寝ぼけていたかもしれない、自分の言葉を思い出してみると事情を話していなかった。
「俺のことは呼び捨てでいい、歳も特に変わらないだろ。参考になるような意見を俺は持ってない。貰えるなら、何だって構わないだろ……余程困るものでない限り」
何処かに目を逸らすロデルに、どこか気まずそうにもじもじし始めたベラ。もしかしたら、二人の間に何かあったのかもしれない。
「で、でもっ、ロデルはいつも私の腕輪付けてくれてるよね」
「お前がくれたものを断るわけないだろ。家で埃を被らせるのも嫌だしな」
ロデルの言葉に、嬉しそうに頬を緩ませるベラを見ながら、腕輪も良いかと考える。
「腕輪……今回の贈り物としては良さそうね」
「おいっ、お前もそういう類いなのか?!」
わちゃわちゃと話していた彼らと離れて考えていた私は首を傾げる。
「……あっ、確かにあなたたちに悪いわね。あなたたちを真似したような形になるから。でも、今回の贈り物としてはちょうど良さそうなのよ。軽くて、簡単には壊れなさそうだから」
「そういう訳じゃない、ただ俺は……」
言葉を先程から濁している理由は何か聞きたいが、彼の考えていることは的を外れてる気がする。
「そろそろ私たちも学舎に入るのよ。でも、いつも側にはいてあげられない。だから、少しでも心の支えとなれるなら渡しておきたいの」
フリューゲルなら、少し経てば馴染むこともできるだろう。ただ馴染むまでの間は苦労すると思うから、アリアと相談もしたが中々アイデアは出てこなかった。
「そうか、そういうことなら良いんじゃないか」
「逆に何を考えていたのよ、言わなくて構わないけど。そうだ、ベラちゃんはどんな腕輪を作ったの?」
腕輪を見せてもらおうと、ロデルの腕を見せてもらいながら尋ねた。
「別に大したものじゃないですけど……それで良ければ。ここら辺の模様は二本の蔦が絡んで、一つになるような感じです。それでこっちが————」
一体この腕輪一つにどれほどの時間を費やしたのだろうか、執念と呼べるほど込められた情熱が伝わってくる。
「うん、勉強になったわ。教えてくれてありがとう、ベラ」
「ええ、フィーネ……も作れると良いですね」
話し終えた頃には、互いに呼び捨てで呼べるくらいには距離が縮まっていた。若干躊躇いがちに、恥ずかしそうに私の名前を呼ぶ姿には苦笑してしまうが。
既に夕日が差し掛かり、帰るには十分な時間になってきた。
「じゃあな、また会おうぜ」
「今日は楽しかったです……良ければ、次は弟さんとも一緒に」
「ありがとう、フリューゲルにも伝えておくわ」
お辞儀をして、先にゆくロデルを慌てて追っていったベラを見送り、再び垣根に腰をかけた。
暫くの静寂が流れ、風が幾つも流れても状況に動きがなかった。
「……はぁ、いい加減こっちに来て欲しいんだけど。来ないなら、どうして覗いてくるのよ? 騎士というのは、木陰でこそこそ様子を窺うような腰抜けなのかしら」
呆れた気持ちで、彼の方に声をかけるとやっと出てきた。
「すまない、君の弟を守れなかった……」
返ってきた言葉はあまりにも卑屈で、顔までも俯いているから、地面にいつか染み込んでしまいそうだ。その姿勢のお陰か、私よりも背の高い彼の頭に近づいて軽く本で叩いた。
「私に言う言葉じゃないでしょ、それ。それがシルヴァの言いたかった事なの?」
彼の顔を覗き込み、その薄く青い瞳を見つめ返す。
「だが、俺に勇気がなかったから……遠くで見ていることしか出来なかった」
もう一度、彼の頭を強く叩く。驚いて顔を上げたシルヴァを見て、もう一度強く言う。
「その言葉はあの子にでも言いなさい、私に言われても困るわよ。別に、私はシルヴァに勇気がない事を責めはしないし、償いを求めたりもしないわ。でも、シルヴァがそれ程まで悔いているなら、別のことであの子を手伝って上げて」
シルヴァは口下手だから、フリューゲルと同じ目に遭ったこともあるのだろう。それで足が竦んでしまうなら、無理に言うつもりはない。私としては、それを引きずられる方が厄介だと思っているから。
それでもなお、納得してない顔をするシルヴァ。そこまで頭が固いなら、彼の父親であるバルドさんに力尽きるまで扱かれていれば良いのに。それでは納得せず、自分なりの割り切り方を見つけられないのも、不器用な証拠だろう。
「……じゃあ、明日からでもフリューゲルの手伝いでもしてあげなさい。私では罰を決められないから」
空が暗くなって来たので、帰り道を歩く。途中までは同じ道なので、無言の時間が苦しい。
本当は……別の目的があったんだけどな。
手を伸ばしても、望むものが手に舞い込むとは限らない。木の葉が風を舞い、手のひらをすり抜けていくように……いずれ手に収まるその日まで、手を伸ばし続ける。
新キャラが続々登場!
と、スマホゲームの広告みたいな台詞。
基本的にベラは、ロデルが誰かと話してるのを見るだけでそわそわしている。何故って? ……思いが重いから、なんちゃって
シルヴァは、……うん、何事に対しても足をすくめてしまう気質がある。消極的な行動が多いかなー、という印象。
頭に入らずとも本は捲れる
もっと効率的な選択肢はあるだろう
だけど、選ばない
故に、今は実用的で不毛な時間だ




