Days go by early
丁寧な仕事って、作者の最も苦手な仕事。
絶対に何処かで粗が出るから……ボタンをひとつかけ間違えるようなミステイク
息を吹けば、木屑が飛び散って何処かに消えてゆく。露出した表面は未だに不細工で、人前に出せたものではない。彫り始めだから、当たり前だけれど。
「…………」
「……何よ、そこを見ても出るのは木屑だけよ」
さっきからシルヴァの視線が私の手元に注がれている。少し不安になるので、早く向こうに行って欲しい。
「ぐわっ、目がっ?!」
「あっ、ごめん。試行には、やっぱり目を保護するものは必要だったね」
「だ、大丈夫?」
すぐにフリューゲルと打ち解けたロデルとベラの方を見て、楽しそうな向こうを羨ましく思えてしまう。いつも顔を合わせる庭だというのに、今日の様子は二極端だ。
「ねえ、フィーちゃん。ねぇー、リューくんが取られちゃったよー」
「……楽しそうだな」
逆に、こちら側は負の溜まり場と化している。不貞腐れた様子のアリアと、口数の少ないシルヴァ。……アリアについては考えないとしても、そう思うならあちらに行けば良いのに。
「あんたは関係なく混ざれるでしょ、アリア。シルヴァも、そんなこと言うなら行けば良いじゃない?」
とにかく不毛な会話なのは分かっているが、口から漏れてしまうのもしょうがないと思う。
「フィーちゃんは分かってないよ、この嬉しさと同時に来る嫉妬のスパイラルが。うー、これからお姉ちゃんから自然と離れていくんだよ? でも、それを止めるのは間違っているし……歯痒いよね。キャンディで、リュー君を釣り出そうかな」
「餌付けしてるんじゃないわよ。そもそも引っかかるのはあんたくらいだからね、それ」
理由があれば連れ出そうというあたり悪質さに拍車がかかってる気がする。
「俺は……フィーネの手元が危なげないと思っているから、離れるつもりはない」
「よっ、余計なお世話よ! この程度で怪我するほど不器用じゃないからね、それならシルヴァがやってみなさいよ」
始めは確かに危ない感じだったかもしれないが、削っている間に慣れないほどではない。そんなに不器用だったら、包丁すら碌に持てないと言われたようなものだ。
「ああ……」
シルヴァは私が削るよりも手早く、澱みない動きであっという間に削り終えてしまった。
「これで良いか?」
「全く、嫌味でしかないわよ。……これからは木こりと呼んでやりたいわね」
実際、彼の家……この村の騎士の役割なんて普段はない。彼の父親も騎士としてよりも、木こりをしてる方が長いのだから木こりと呼ぶのに充分だ。
「それで、この木片を幾つ彫るんだ? 最後に繋ぎ合わせるなら、数がいると思う」
「三人分ね、私とアリアとフリューゲル。全員が腕輪を持っていれば、お洒落に見えるでしょ? シルヴァも欲しいなら、もう何個か手伝ってもらうけどね」
特にお洒落さを狙っている訳ではないが、何となく良いと思ったから、この程度の労力は構わない。
「そうか……それは良いな」
「でしょ? だから、早く座って手伝いなさい」
横に無造作に置いていた木片を渡して、私は脚に括り付けていたナイフを抜いて彫刻を再開した。
*
「……いいんだ、私にはカーメルがいるから」
会話からはぶられたアリアはいじけて、手元の作業をやめてカーメルの首周りを撫でる。
「わふっ!」
「わひゃぁ?! ちょ、カーメル、くすぐったいよっ」
アリアの頬を擦るように戯れるカーメルに、嬉しそうに笑う。
日の光は遍くを照らし、庭を明るく輝かせていた。
……あれ、シルヴァ君…謝罪はしなくて良いのかな?
やりたいことを盛り込むのを忘れてしまうのもあるあるだなぁ。
何かが欲しい訳じゃない
それはあまりにも脆く、儚い
私たちは我儘にも、欲深く求めるもの
決して消えることのない永遠を
簡単で、容易には手に取れないものを
ただ心のうちに発するのだ




