in a roundabout way
夜道は怖いから、全身から光を放てば無敵だね
日は既に没して、家の灯りが付いていく。暗闇を窓越しに見ながら、そんな風景を幻視した。
手元には読みかけの本があり、それを照らすのは近くにある蝋燭の火だけ。静かでも、暖かな時が流れていく。
「そんなに顔を近づけてどうしたの? アリアお姉ちゃん」
アリアお姉ちゃんは本の内容を窺うようにして顔を近づけていた。その長く伸ばされた髪が、僕の肩にかかるくらいに。
「わっ、気付いてたの? 私の方が驚いちゃったよ」
その大きな瞳をぱちくりと瞬いて、その驚きを目に見えて伝わってきた。
「リューくんの読む本が気になっただけだよ。正直、リューくんやフィーちゃんが羨ましいよ。本を読んでも、寝ずに見ることができるなんて。到底私には出来な——いたっ、痛いよフィーちゃん!?」
「あんたが余計な話を続けるからでしょ。次は角いくわよ」
アリアお姉ちゃんの背後で、フィーネお姉ちゃんがその頭に片手に持てるくらいの本をぶつけていた。
今も半目になって睨み、アリアお姉ちゃんに次の言葉を急かしている。トントントン、と本の角を手に軽く当てる音が響く。
「酷いよー、フィーちゃん……こほん、リューくんは祭りに興味ないかな?」
咳払いをした後、お姉ちゃんは人形遊びをした時のような口調で尋ねた。……地味に上手いから、何とも言えない気持ちになる。
「興味はあるよ。話で聞いても、実際とは違うだろうし……でも、村の人たちに迷惑になるのは困るな」
悪目立ちして、折角の雰囲気が台無しになるのは嫌だし、祭りの趣旨にも僕は不適合な気がする。何事にも適切な距離感があり、一定のルールがある。それを破ろうとするならば、相応の代価を支払わなければならない……そして、その代価を自分が払えるとは限らない。
「お姉ちゃんたちの気持ちは嬉しいけど、今でも満足してるから——」
——それ以上は望まない。と、言いかけたところで、アリアお姉ちゃんが僕の手を取った。
「ダメだよ、リューくん。そんな小さなところで閉じこもろうとするのは……きっと、その選択肢を選ぶことが癖になって、気付いた時には体を動かせなくなっちゃう。差し伸べてくれる手はいつも気まぐれで、恐ろしいものだから」
「で、でも……」
どちらが良いかなんて、考えなくても分かる。しかし、体は……意思はつい尻込みしてしまう。
そんな僕の様子を見て、アリアお姉ちゃんは顔を近づけて、
「むぅ、『でも』の先にあなたはあるの? もしないのなら、あなたの足で踏み越えて欲しいよ。……ああっ、やっぱりこういうのは苦手だよ! フィーちゃん、あとはお願い」
不満げに口を膨らませて、フィーネお姉ちゃんの方を見た。その様子に肩をすくめて、フィーネお姉ちゃんの手は既に本を膝まで下ろしていた。
「ふっ、しょうがないわね。……フリューゲルは気にしすぎなのよ。祭りなんて、どんちゃん騒ぐ以外の目的でやらないでしょ? 誰も特に言わないし、誰も紙に書こうとすらしない。”慣習”と呼ばれれば大層だけれど、どんなものも始めは規則なんてなく、ただ美しいものをまた見ようとしただけのはずよ。後からつけられた規則という型に囚われる必要はない。結局、祭りなのだから、楽しめれば良いのよ」
それは酷く暴論な気がする。祭りという言葉を全てひとまとめにして、その全てのしきたりが下らないと投げ捨てられたのだから。
「……はぁ、頑固ね。私からの命令よ、とにかく祭りには参加しなさい。うだうだ言ってるのも飽きたわ。勿論、姉の言う事は聞いてくれるわよね?」
「……そうだね、うん。お姉ちゃんの命令なら仕方ないか」
言い訳はもうやめよう、お姉ちゃんが折角の大義名分をくれたから……いつの間にか笑っていたのは多分、僕はいつも通りに誘われるのを待ってたからかもしれない。
「さっ、あいつらよりも凄いのを作って、見返してやりなさい!」
「――えっ?」
思ってもみなかった言葉に、僕はただ呆気にとられていた。
暗き夜道で手を引いて
あなたがいれば迷わないから
暗き夜道で手を引いて
あなたのいる場所は眩いから
あなたの隣が私の居場所




