Run through the fields
ローリングサンダァッ、作者なら真っ先に転んで、慣れた動作で影を確認するだろう……油断すれば転ぶぞ、俯けば電柱に当たるぞ。叫べ、我が名は七転八倒!?
「それで、フリューゲル。怪我はしてるの? 嘘はつかずに答えなさい」
「別に痛くはないよ。いつもと変わらないし」
何ともなさそうに、フリューゲルは答える。その服は砂埃が付いているが目立った傷はない。……この程度なら、確かに父の扱きと変わらないだろう。
……だからと言って、目に見えない傷の深さはどれほどのものか。
「で、フリューゲルはどうしたいの? 仕返ししたいか、それとも穏便に済ませたいのか」
「……穏便かな、僕の方に問題があるせいで起きた。それに、まだ今回は詰め寄られただけだから」
問題……いじめっ子たちがフリューゲルを標的にした原因の一つは、彼の髪だろう。ドルイドのように森を彷彿とさせるものではなく、まるで闇夜に羽ばたくカラスのような美しい黒色だ。
「この村で僕は異質だから。でも、僕は恵まれてると思うよ。だって、物語だと孤立して、誰も助けてくれない事の方が多い。それに比べれば、僕には頼れるお姉ちゃんたちがいて、お父さんやお母さんも……血は繋がってないけど、優しくしてくれる」
彼は自身の黒髪に触れて、地面に目を落とす。
「フリューゲル、血の繋がりなんて関係ないわ。あんたは私の弟、その事実だけで充分よ。……もしかして、私だけの思い込みかしら?」
「……ううん、ありがとう。お姉ちゃん!」
久しぶりに、フリューゲルの笑みが見れた。……この恥ずかしさも、笑顔に比べれば安い対価だろう。
*
「ところで、アリア……何でさっきから黙ってるの?」
「えっ? そこで、私に振るの?」
実は、三人集まっているのに珍しく静かだったので、逆に私がそわそわしてしまった。
「いや、ほら、あんたが話さないと違和感すごいから」
「私だって、考え事する時はあるんだよ?! ……ま、いいや。でも、面白い話なんて何もないよ」
胡乱な目で彼女を見ても、何も言わず首を振るだけだ。……いつもは私に散々話しかけてくるくせに。
「えぇ……本当に何もないよ。そんな目をしても無駄だからね! 全く、フィーちゃんはいつも私に無茶振りをするんだから」
「してないわよ、私はあんたにできる範囲のことを言ってるだけ。難しいことは言ってないわ」
「それなら、フィーちゃんがやればいいよ」
「私はダメよ、何が面白いか分からないから」
「言ったね! 私の話がつまらないって!」
「言ってないわよ。アリアが話し始める度に、日頃の予定を立ててるだけだから」
「そもそも聞いてないの?!?!」
「あははっ、お姉ちゃんたち楽しそうだね」
一人で笑うフリューゲル、その手を私たちはそれぞれ掴んだ。
「そんな事ないわよ! フリューゲルも何か言いなさい、逃げることは許さないわよ」
「リューくんなら分かるよね? 私の話は面白いよね?!」
「ちょっと、お姉ちゃん?!」
日輪が笑い、夜が転ける。草に覆われたベットに飛び込んで、力なく見上げたのは綺麗な青空。笑い声が辺りを満たした、夕暮れに染まるその時まで。
両手に花なフリューゲル君……貴様っ、さてはハーレムを形成しようと…
という冗談は置いておいて。
草木をかき分けて一面に広がる草原をかけてゆく
一陣の風が何処までも続く青空で結合わせられて
妨げられることのない地平線まで囚われることなく
花弁を舞い上げ、原色が無邪気に野原を満たしている




