Finite flower
作者は寝る場所を選ばないっ……けど、机とか固いものは少し……遠慮させていただこうか
死神の鎌が首元を撫でて、刈り取るまでの一時を私たちは生きている。ある意味で、それは救済なのかもしれない。もうそれ以上失わずに済むから、心を乱されない永遠の安寧を手にする事ができるから。
でも、私は? 私は今世で眠りにつく事が出来るのだろうか。
家の中心にある階段に腰を掛けて、私は静謐な夜でも染められぬ感情を持て余していた。
木目を指でなぞりながら、眠くなるまでは……静かな夜を過ごしたい。
前世では、幾らでもこんな夜を過ごしていた。でも、今世では…………こちらに近づく音が聞こえた。
「今はカーメル? それとも……」
こちらに擦り寄ってきた彼の毛並みを、私は撫でながら質問してみた。
「……」
しかし、返事は返ってこない。……さっきのは愚問だった。私は一人の時間を過ごしたいのだ、今はそれだけを考えていればいい。
私の膝下はカーメルの暖かな毛並みに包み込まれる。お日様の匂いは私を夜から引き摺り出して、穏やかな時を紡ぎ出す。
「あったかい……」
*
私が今世に生を受けた時、多くの苦痛が私を責めた。当たり前だ、前世の記憶を引き継いでいるのだから。生まれたばかりの幼児の脳内に詰め込まれた膨大な記憶の塊は私を苦しめて、数日で体にも異変が現れ始めた。
徐々に体が衰弱し、状況も分からぬまま死に瀕したその時にある男が私の目の前に現れた。
いや、正確には弱っていた私の夢に現れたと言えばいいだろうか。
彼は神でも、悪魔でもなく……ファウスト、と名乗った。彼は今世の父の親友で、父に頼まれて原因を探りに来たと言っていた。
最初にかけられた言葉を、私は今でも忘れない。
『やあ、麗しいお嬢さん。君は一体誰かな? おっと、いや失礼。こういうものは私から名乗るものだったね、私の名はファウスト。偉大なる錬金術師と呼ばれているよ。さっ、君の名は?』
そんな感じの軽薄な口調で、何処か詐欺師じみた雰囲気さえ纏ったファウスト。不審に思いながらも、つい流れに呑まれてしまう。
『ふむ、あまり聞かないね。生まれ変わりだとか、前世だとかの話は……うん、まるで御伽噺のようだ。ははっ、差し詰め君は物語のお姫様かな? 全く、嘆かわしいことに既に私は既婚者でね、これほどこの身を恨んだことはないよ。さて、この異常を解決するには君の記憶を整理すれば言い訳だ。それでもいいかい?』
ファウストはおどけた調子で私に語りかけてきた。前世含めても、あれ程誰かと話したことはなかった。
最後の問いに、私は頷いた。私にとって、大事な記憶はそれ程なかったから……多くの記憶と引き換えに、私は一命を取り留めた。
その感謝の気持ちは、今でも残っている。いつか返せるのなら、返したいと思っていた。
私の命を助けた数日後、——彼は亡くなった。
*
「んむぅ、んー」
悪い夢にうなされたのか、小さな少女は抱えられた腕の中でより安定したところに縋り付く。
「よくこんな場所で寝られたな。それともドルイドってのは木を寝具とでも思ってるのか?」
彼は腕で眠るご主人様に悪態を吐きつつ、寝台まで運ぶ。既に先約者……アリアが眠っているのにも構わず、同じ寝台に寝かした。
「ったく、間抜けズラを晒しやがって……ほんと、ガキだなこいつも」
月光は彼を照らすが、影に紛れてその姿を晒さない。
「おい、犬っころ。オレは不機嫌なんだ、次はお前に対価を払ってもらうからな……ちっ、ムダ働きなんてしたくなかったぜ」
散々叩き起こされた宿主に告げた言葉を最後に、彼は影に消えた。
人の記憶の容量ってどれくらいだろうか?
とある小説では百数年分とか書かれてたけど……ネットで調べても、特にそれをらしい記述を見つけられないし…
いきなり十数年の記憶を焼きつけられたら、体も弱るよなーという事で。暗〇パンっ、なんて恐ろしいもの!
関係ないけど、あれって餡の意味とかけてるのかな?




