i'm glad you were here
腹巻って、素晴らしい文明の利器だと思うんですよ…
お湯が手から零れ落ちる。その度に手で掬って、掬って……また落ちる。
別にこの行為に意味なんてない。ただ心惹かれて透明な液体を見詰めるだけ。
何の因果か、私は新たな生を得た。人里離れた森にある集落の子として。これで、果たして輪廻の輪の証明はなされるのだろうか。……二度も死ぬつもりはないけれど。
「……ふぅ」
蒸気が立ち昇り、何処かへと消えてゆく。しかし、幾つかは水滴となって落ちてくるのだろう。まるで輪廻の輪と同じように循環していく。
大した人間でもないのに、世界の秘密を知ってしまったようで、現実とは何と荒唐無稽だろうかと思う。普通、世界に対して関心ある者に開示すべき情報ではないのだろうか。
……そんな事を考えるから、私は凡人なのだろう。
「そんなだから、私は何も変えられないのよ」
この巡り合わせは偶然であって、必然ではないのだから。私が望んでいても、手を伸ばす事はなかったから。
私はどれほど無力なのかを知っている。
「……」
だから、せめて……手に収まる明かりを離さないように。弱い人間だから、手に届くものだけでも留めたい。
「フィーちゃんっ!」
「……なによ」
浴室に私によく似た容姿の少女が入ってきた。この子はいつだって楽しそうだ。
「えへへ、何でもないよ!」
だらしなく笑うアリアに一瞥した後、私は身体を肩まで浴槽に沈めて、アリアの様子を観察していた。
私と同じ色の髪と目、身長も同じくらいで、鏡がなくても困らないだろう。勿論、性格もその瞳から溢れる活気も私には真似できないが。
体を洗い終わったアリアが浴槽に入り、私の横で肩をぴたりと触れさせた。
「……近いわよ。お風呂が広いのに、意味がないじゃない」
私が何人か大の字に倒れても、余裕があるくらいの広さだ、わざわざ引っ付く必要はない。……少し弁明するが、私にはそんなはしたない真似をする気持ちなど微塵もない。表現の問題である、表現の。
「意味はあるよー、だってフィーちゃんの近くにいるだけで楽しいから」
それは果たして物理的な距離で得られるものだろうか、胡乱な目で見ながら擦り寄ってくるアリアを手で遠ざける。
「私の側にいるだけで楽しいなら、どこにいても楽しいわよ……って、ちょっと?!」
ぱしゃん、と水が跳ねる音が響く。それはアリアに肩を押されて、仰向きに倒れた音だ。思わず閉じてしまった目を恐る恐る開けると、アリアが私に覆い被さるような姿勢で……ほんの少しの距離を残して、瞳が照り輝く。
「……ぅっ、ごめんね。少しやりすぎちゃった。でもね、私は……フィーちゃんが一緒にいてくれるだけで嬉しいの。それに、私はフィーちゃんのお姉さんだからね! 私はフィーちゃんに良く助けてもらってるから、代わりに私がフィーちゃんを笑顔にするよ!」
天真爛漫な笑顔で、手を差し伸ばすアリアに気圧されて、思わず目を逸らしながらも手を取った。
「……別に特別なことはしてないのに」
はぁ……と、前世でも出たことのないようなため息が漏れる。別に嫌な気分ではないのに、余計疲れた気分になるのは彼女が私を困らせるからか。
「取り敢えず、私以外にこんな事はしないでよね。他の子に勘違いされて、困るのはあんたなんだから」
アリアは私の周りにいる事も多いが、カーメルを連れてあっちこっちで遊んでいる時もある。村の子とも遊んだ事はあるだろう。
やたら、ボディーランゲージの多いアリアのことだ。誰にでも好かれるからこそ成り立つが、世の中には面倒な子もいる。アリアが困ると、私に皺寄せが来るのだから、そんな事態を私も望まないのだ。
*
先に風呂から上がったフィーちゃんを、私はただ見詰めていた。
「フィーちゃん以外にはしないよ、だってフィーちゃんは……」
私にとって、大切な人だから——
飲み込まれた言葉は、きっと貴女には届いてないだろうけど。
ボディーランゲージなんて、親しい人にしかしないという話。因みに、次話でひと段落つきます。
隣にいるだけで心は満たされる
この感情に名付けられた言葉を知らない
きっとこれは複雑な感情だから
隣にいても、本当の熱が伝わる事はない
あなたの熱はこんなにも伝ってくるのに




