With a fragile heart
大皿に乗った美味しそうな料理…
日本料理って、ドンって迫力がないから
マンガ肉みたいな感じで、憧れてしまうなー
……頭がぼーっとする。
あれ? 今まで、私は何を?
駆け抜ける疑問は回らない思考では答える事ができない。
「あっ、フィーちゃん起きた!」
「…………あ」
ずいっと顔を近づけてきたアリアの顔を何となしに見ていると、アリアは何処かに消えてしまった。そして、ここまでの顛末も思い出した。どうやら、家に帰る途中で寝てしまったらしい。父の腕の中で……
「うっ……ぅぁ」
変な呻き声が出る、情けなくて涙が出てくる……かけられていた毛布を頭から被り、暴れ出しそうな心臓を押さえ付ける。
しばらく経っても、身体の熱は熱源に接したヤカンのように、中にある水全てを沸騰させる勢いで沸いている。
本当に風邪を引いている訳ないのに視界が歪み、口から漏れる嗚咽が辛くて……死んでしまいそうだ。
既に一回も死んでいるというのに、その痛みよりも胸を掻きむしりたくなる。
「そこに蹲る可愛い猫ちゃん、ご飯の時間だから顔を出しなさい」
優しく掛けられた声に釣られて、頭から毛布が滑り落ちる。
「あらまあ、可愛い顔が台無しよ。折角美しい髪も傷んでしまうわ」
おっとりした口調で、母は私の髪を手で梳いた。
呆然と、その様子を見ていると、
「……お父さんたちは食卓で待ってるから、顔を洗ってから来なさい」
母は私の首元に抱き着き、頭を一撫でしてから去っていった。
*
「フィーちゃん、遅いなー」
背の高い椅子に座り、足をぶらぶらと落ち着きなく動かしている。
「待たせて悪かったわね、アリア」
何気なく呟かれた言葉に対して、この言葉に意地悪く返してしまった。
「ううん、湯気が冷める前に食べよう!」
食事を前にいつも通りの様子をしたアリア、私はその横の椅子に座る。
「みんな集まったな、ちゃんと自然に感謝してから食べるんだぞ」
父がいつも通りに食前の言葉を言った辺りで、
「そうね、でもあなたは毎回肉を捌かないといけない私にも、感謝してほしいわね」
優しく父に微笑みながらも、目は笑っていない。
「そうだな、自然と母さんに感謝して食べるんだぞ!」
食卓にかすかな苦笑いが漏れて、食事が始まる。
*
食卓に並ぶのは、切り口から油がじわじわと出てくる肉と、黄金色に焼き上げられたパン、そしてありとあらゆる植物を煮詰めたのではないかと見紛えるほど色が濃縮されたスープだ。
「…………」
食事の殆どは母が用意する事が多い。母の手料理はどれも美味しく、母がオオカミであれば私たちを丸々と肥えさせて、頂かれてしまうだろう。
……このスープがなければ。
「…………うっ」
苦い、とてつもなく苦い。子供が苦手な野菜とか、そんなレベルではなく、大人でも眉を顰めてしまうほど苦いものだ。
アリアを見ると、スープは飲み干されている。きっと食べ始めに飲み干して、美味しい料理を堪能してるのだろう。
「……お姉ちゃん」
「フリューゲル、無理しなくていいわよ。それは、こっちに渡しなさい」
父も母も慣れているからか、気にした様子はない。しかし、私とフリューゲルは少し身体が躊躇してしまう。……そういう代物だから、仕方ない。毎日飲んでも、慣れないけれど。
「よし、リューくん! 私が皿を分けるから、遠慮なく食べてね!」
フリューゲルの皿に、肉や中に入っている野菜がどさどさと積み上げられてゆく。
「うん、ありがとう。アリアお姉ちゃん……」
「……アリア、乗せ過ぎよ」
張り切って、大量に乗せた皿はどう考えても多過ぎる。大人でも、あの量は食べられないのでは。
「大丈夫だよ、残ったら私が食べるから!」
「あんたは自重しなさいっ! というか、私の分は残してよね!」
こう言わないと、大皿が融解する雪のように消えるのだ。食べられなかった料理は数知れず、またアリアの腹に消えた料理も数えられない。
食卓にはいつも賑わいがある。いつかの日には想像もしなかった光景だ。私の頬を照らすのは冷たい電灯ではなく、暖かみを持つ小さな小さな火の光。
ふっと、息を吹くだけで消えてしまう儚さを感じてしまうのは、まだ私の芯に凍み入るものが奥底で訴え続けて、ここが夢か現か惑わせている。
永遠に薪をくべることを求めない。
そんなこと出来るはずもないから。
でも、一瞬の冷気に熱を求める事はある。
ならば、始めから凍てつく海に沈みたい。




