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203号室 それぞれの幸福

 書くか迷っていた回です。

 そのせいか他の話より短くなっています。

 



 



 裏野ハイツに座敷童が住みついたのは、住民がまだ誰も入っていない建物完成3日後だった。

 

 本来座敷童は家に憑いてその家族を守るものなのだが。

 この座敷童は、本来の座敷童とは異なった性質を持つようだった。

 もっともっと、貪欲だったのだ。


『私ねー。誰かの役に立ちたいんだー。だからここに来たの……』


 部屋の中に何時の間にか居た幼女に告げられて初めて、自分が裏野ハイツの精霊めいたものなのだと気付かされた。


 たくさんの住民に入って貰って、幸せに過ごして欲しい! そんな願いが幼女を呼び寄せたのかもしれない。

 もしくは、哀れな幼女の願いを叶えるべく自分が生まれたのかもしれない。


『それでは、一緒に頑張ろう』


『うん!』


 幼女は可愛らしく笑って大きく頷いた。


 幼女が活動しやすいようにと、不必要な音漏れがしないように防音加工を施して、アパートの住民以外には彼女の姿が決して見えないように、臨機応変に視界を歪ませる手配をする。


 二人の必死の願いが届いたのか、部屋は一部屋を残して満室となった。

 初めて幼女が現われた部屋だけが、どうしても埋まらないのだ。

 見学に来る人は少なくなかったが、人の気配がする……と皆口を揃えてのたまった。


 もしかすると、ぽつりぽつりと語られる生前の壮絶な過去故に、無意識に居場所を求めているのかもしれない。


 大家は謝礼を払ってお祓いなどもさせたが、当然効果はない。

 幼女の住民を幸せにしたいという切実な願いの前では、神様もお目こぼしをしているのだと信じたくなる。


 首を傾げる大家だったが、迷った相手を無理に説得するような真似はせず、201号室へ引っ越してきた女性に諭されてからは202号室は、人が住んでいる部屋として扱うようになった。


 色々な人間が引っ越してきてハイツの住民となり、また引っ越していく。


『最近無理をしているね?』


「そんな事ないよ!」


『……』


「うう……ごめんなさい」


 幼女がしょんぼりと肩を落とす。

 最近、忙しすぎるせいか彼女の記憶が随分と曖昧なものになっている。

 もしかすると、天へ上る日が近いのかもしれない。


『201号室の老女への対応は良いだろう。彼女は年相応の良識を持った女性だ』


「ばばぁは、良いばばぁだ」


『ああ、そうだね。そして、103号室のかいむ君への対応も悪くない。彼は君に随分と依存しているからね。君も必要とされて、満たされている』


 亡くなった年齢と近しい相手だ。

 今は男児として相手をしているが、もう少ししたら本来の幼女として対峙してもいいだろう。

 かいむは大人の分別に近しい寛容さと、子供の純粋さを持つ。

 友人が男児ではなく幼女になったところで、大切な存在であるのに変わりはないはずだ。


「へへへ。かいむ君可愛いし! 優しいし!」


『痛みを知っている子だからねぇ。君も心穏やかでいられるんだろう』


 二人で仲良く肩寄せ合って成長してゆく。

 老女も見守っている。

 両親には相応の報いが訪れるだろう。

 それは悪い事ではない。

 むしろ最良だ。


『だけどね。101号室と102号室の願望を叶え続けるには、君の負担が多すぎるよ?』


 101号室の男は、猟奇殺人願望を持つ男だ。

 幼女のことを、何度も殺し尽くして、自分の欲を満たしている。

 百歩譲って、幼女を殺すのはいいのだ。

 だが、幼女を別人に変容させて殺すのは違うだろう。


 102号室の男は、同じく猟奇殺人願望を持つ男だが、二次元限定だ。

 更に純粋な猟奇殺人を耽溺する101号室の男と違い、そこに必ず性的な意味合いを含ませる。

 挙句、幼女と近しい年齢を何より好むのだ。

 最悪なのは、幼女を資料、つまりは物として扱っている点。


 101号室の男は、殺す物といっているが、人間を最上の殺し対象として認識している。

 つまりは、人間として扱っていた。

 たが、102号室の男は頻度こそ多くはないが、修羅場に入れば長時間拘束した幼女を物として扱う。


「でもっ! 二人とも、私でしか満たしてあげられないしっ!」


 幼女の口調に統一性がないのに、溜息を吐きたくなった。

 それはきっと。

 望まない願いを叶えているので、幼女としての芯が揺らいでいる証拠なのだ。


『本来なら幸せになった時点で引っ越しているはずなんだけどね』


 過去幸せになった人は全員引っ越していった。


 幼女のお蔭でストレスがなくなり、子供を授かって、より広い家を求めた夫婦。


 距離を置くことで自分がどれほど身勝手だったかを反省し、子供と同年代の幼女に素直な言葉を紡がれて、頭を深々と下げて家庭へ戻って行った男性。


 報われない不倫の果て、泥沼に陥っている所を、幼女に鼻で笑われ続け、自分の立場が幼女に笑われる程度の恥ずかしいものだと自覚して、きっぱりと男を振った女性は、三ヶ月後には不倫相手の上司に見初められ結婚が決まって出て行った。

 貴女のお蔭よ! ありがとうねっ! と満面の笑みで抱きすくめられた幼女は、やはり。

 女性と同じよう満面の笑みを浮かべていたものだ。


 だが、今いるハイツの住人は、ほとんどが幼女の力がないと継続して幸せを維持できない者達ばかりだった。


 30年も建ち続けて、建物の精霊としての力が弱まったのかもしれない。

 リフォームをしてしまうと、自分を保てるかどうかもわからないが、そんな話も出ている。


 幼女が男児を得て、心を安らがせているのを見て。

 自分もまた、幸福を感じている今。

 

 終わりが、近いのだろうか。


 もし、近いのだとしたら。

 せめて幼女の行く末を見届けてから消えたいと、そう思う。


 もっとこう、後味の悪い話にしようかと思ったのですが、意外にも前向きな話に。

 報われる部分も多かったように思います。


 それでも、読み方次第では十分後味が悪いのですけどね……。


 何にせよ、短いですが初の完結作品となりました。

 締切にも間に合って良かったです。


 最後までお読みいただきありがとうございました。

 随分タイプが違いますが、他のお話にも興味を持っていただけたら嬉しいです。



 

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