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無理なんですけど

今のところ週一月曜で何とか投稿中です。

このペースが続くか分からないですが、一応1、2週間に1話のペースで投稿をしていこうと思いますのでよろしくお願いします。

「フラウ君。君が僕のお嫁さんになる事さ」

「え。いや、普通に無理なんですけど」


室内を静寂が満たす。

何とか立ち直ったレインは、かろうじて言葉を紡ぐ。


「良ければ、理由を聞かせてもらっても?」

「だって、なんかキモいんだもん」

「ぐふっ!」


フラウの辛辣な言葉に強烈なダメージを受けるレイン。机に突っ伏しながらも、プルプルと腕を震わせて何とか起き上がる。


何故か先ほどまでと立場が逆転している不可思議な状況に、レイナは溜飲が下がったように、しかし悪どい笑みを浮かべていた。

ニナはその表情を見て冷静さを取り戻す。実はさっきのフラウの言葉で吹き出してしまっていたが、一瞬でいつものポーカーフェイスである。

腐ってもニナは貴族なのだ。


「ま、まあ、あまりに急だったかな。けれど君はきっと僕のことを好きになるはずだ。どうあっても君は僕のことを本能で求めてしまうのだからね」

「え……。この人頭大丈夫かな?」


フラウは隣に座るニナにコソッとーー実際はまる聞こえな声量だったがーー耳打ちした。

レインは耳に届いたその言葉にピシリと固まり、暫く動けなくなる。やがて沸々と怒りが湧いてきたのか、拳をテーブルに叩きつけながら勢いよく立ち上がった。


「な、何故だ。何故君は僕の言葉に従わないんだ! こんな筈はない。こんな筈はないのに! そ、それに、僕に逆らえばどうなるか、分かっているだろう⁉︎」

「? いや、だって普通に税金納めればいいんでしょ? そんなものお金稼げば済む話なんだから、何でその交換条件であんたと結婚しなきゃならんのよ」

「は、はは。フラウ君、君は本気でそんなことを言っているのかい?」


フラウの論は確かにもっともなのだが、実際問題、そう簡単な話ではない。


リヴァレント王国では村や街、都市に対しての徴税はそこに住む住民の数で決められる。つまり農作物が不作だったとしても豊作だったとしても、一定の税を納める必要があった。

勿論領主によって税率の違いや資金の援助、免税などの措置が取られる事もあるが、概ね先に述べたとおりの仕組みとなっている。


ラウルホーゼンの場合は観光業や物品の売買が主な収入源のため、年によって収益が大きく左右することは少ない。今の所は村に多くの人間が訪れているため,比較的住民の懐も潤っているのが実情だ。

だがもし村から街に格上げされれば、話は変わってくる。


住民の数に対して一定の税を納めると言うことは、つまりそこに住まう住民一人一人に平等に税が課されると言うことである。男でも女でも、老人、大人、子供、分け隔てなく、一律の税なのだ。

当然子供の多い家はその分税が重くなるし、一人住まいの者であれば軽くなる。だが当然ながら、そんな税の取り方をしてしまえば、路頭に迷ってしまう人間が出てきてしまう。

その調整をおこうなうのが村長や町長、市長の役目だ。

貴族は自身の領地を庇護し、長たちが見返りとして税を納めると言えば分かりやすいかもしれない。


必要な税は決まっているので、長たちは今の集落に暮している人間と職業を鑑み、それぞれどれだけの税を集めればいいかを考える。そしてそれを各人に納得してもらわなければならない。

多すぎれば文句が出るし、少なすぎれば払うべき税が足りなくなる。何かあった時に多めに徴収するのか、きっちり合わせるのか。

それら条件を考えた上で、税金を集め、納税を行っているのだ。

ジョシュアも有事に備えて少し余分に税を徴収しており、それについては住民にも納得してもらえている。


しかしもしラウルホーゼンが街として認定されてしまえば、各人に対して大凡2割程度税金が上がることになる。

これが発展している村であれば日々の蓄えで賄えるかもしれないが、ラウルホーゼンはまだまだ発展途上。人を受け入れるにも体勢や土壌が整っていない。


そして最も深刻な問題は、これから移住してくる人間についてだ。

住民が少ないながら税金は街レベルに高いと知られれば、移住しようと思う者に抵抗が生まれるだろう。

今後ますますの発展があってこそ、安定した収入につながって行く。それが最初の段階で躓き、人も資金も集まらなくなってしまえば、今後どれだけ村の発展に遅れが出てしまうか分からない。

更には税金が上がったと住民に説明することで、ラウルホーゼンから移住する者も出てきかねない。人が減る事で税は下がるが、働き手を失ってしまえば発展からは更に遠ざかってしまう。


だからこそ、レインはフラウの言い分を鼻で笑ったのである。フラウは現状を全く理解していないと。


だが同じ貴族であるニナは、全く違う感想を抱いていた。


(フラウなら定期的に大物狩ってきて税金補填しそうね)


それはフラウの事をよく知っているニナだからこそなのだが、レインはそこまでの考えには至らなかった。


「で、話終わったなら帰っていいかしら? 税金増えるなら大物狩って来ないといけないから」

「君は、一人で村の税金を補うつもりなのかい?」

「別に一人でやるつもりなんてないわ。私は2割、残り8割はグレイスに頼むから」


フラウに脅され無理やり狩りに出掛けるグレイスを想像して、レイナは不憫に思う。その時は少し手伝ってあげようと思うのだった。


フラウの言葉を受けて、レインはそれで引き下がるかに思えた。

しかしレインはますます口端を歪める。


「いいねぇ。やはりフラウ君は良い。ますます君が欲しくなったよ」


そうしてペロリと舌なめずりをする。

三人が三人、背筋に寒いものが走った。


ひどく傲慢で、あまりにも他者を顧みない物言い。

表情には出さないが、笑顔の下で酷く嘲った笑みを浮かべているように感じる。

フラウはこの目の前の男が、とてもまともには見えなかった。


それに部屋の中に入った時から感じる、チクチクと刺すような嫌な魔力。それもあって、フラウは早くこの場を去りたかった。

だが相手は簡単にはフラウ達を、否、フラウを帰してくれそうにない。どういう理由かは知らないが、妙に執着されているように感じる。


力尽くであればいくらでも逃げることが出来る。だが流石に貴族の屋敷で狼藉を働けば、相手に大義名分を与えかねない。

目の前のこの男に対しては、それが致命的になる可能性が十分に考えられた。だからこそ、フラウも動くに動けなかった。


「まあフラウ君の気持ちは分かった。そこまではっきり断られるとは思わなかったから、些か動揺してしまったが。けど、僕は君を諦めたわけじゃないからね」


そう言うとレインはテーブルを迂回する形でフラウの前まで近づいた。

そしてフラウの顎に手を当てるとクイと持ち上げる。

鼻先が触れそうな距離に顔を近づけながら、微笑みを浮かべた。

側から見れば美男美女のカップルだが、前段のやり取りを考えれば笑えない冗談だ。


「聡明で、貴族に対して物怖じせず、そして類稀なる力を有している。ふふ。私は絶対に君を手に入れる。何をしてもだ。この言葉の意味を理解したなら、暫くの間、この屋敷に滞在するといい」


それだけ言うとレインはフラウから離れ、そのまま三人の入ってきた扉を開けて部屋を出て行った。


三人はその後ろ姿を見送り、完全にいなくなったのを確認してから口を開いた。


「なんだか面倒なことになったわね」

「ほんとよ。しかし私も罪な女ね。この溢れんばかりの美貌が、まさか貴族さえも惹きつけてしまうなんて」

「じゃあ結婚すれば?」

「クソ喰らえね」

「フラウって、その言葉遣いがなければ貴族と結婚しても通用しそうよね」


ニナはフラウの言動に、呆れを含んだ溜息を吐く。

レイナもそれに同意するようコクコクと頷いた。


「さてお嬢様方。突然のご招待とご主人様とのお話で、お疲れの事と存じます。ささやかながらお食事を用意しております。お体を清められてからお召し上がりになってください」


主人が今しがた出て行った扉から執事が姿を見せると、三人のメイドが室内に入ってくる。そしてフラウ達は促されるまま何処かへと連れられていく。


去り際、フラウは執事に向かって声をかけた。


「あっと。ねえ、執事のおじいさん」

「何でしょうか」

「おじいさんは……。ごめん。何でもないや。また後でね」

「……はい。ごゆるりとおくつろぎ下さい」





三人が案内されたのは浴場だった。さすが貴族の邸宅なだけあって、その作りは広く豪華だ。と言っても、ラウルホーゼンにある公共の湯殿に比べれば小さいが。


入り口にはメイドが並んで立っており、それぞれがタオルを持ってスタンバイしている。きっと入浴が終われば身体中についた水滴を拭ってくれるのだろう。

普段そんな経験などしたことがないため、フラウはこの後のことを想像して少し気恥ずかしくなった。

脱衣した衣服はメイドの側の籠に収められているので、どうにも逆らうことはできなさそうだ。


「ふぅ〜。極楽じゃー」

「オヤジくさいわよ〜」

「あー。でもフラウがそうなるのも納得できるかも」


三人娘達は湯の浸かりながら、それぞれ体を落ち着けていた。

ラウルホーゼンの湯殿と違い、ここはあくまでプライベートな空間だ。三人とも今は一糸纏わぬ姿を晒している。


「ここのお湯は随分と濁っているのね」

「こんなに白いお湯は中々見ないわよね。以前隣国の温泉に行ったことがあるけど、ちょうどそこはこんな白さのお湯だったわよ」

「へぇ。レイナは温泉とか行くんだ」

「気晴らし程度の趣味だけどね」


ニナの返事にレイナが照れ笑いを浮かべる。

温泉巡りと言うと、大体は高齢の貴族が退屈しのぎに余暇を過ごす趣味として知られている。レイナの年齢でそのような趣味を持っていると、大抵は揶揄われたりするものだが、ニナは尊敬の眼差しを向けていた。

それがレイナにとっては新鮮で、どうにもくすぐったかった。


「レイナって時々年寄りじみてるわよね」

「ちょっとフラウ。そう言う言い方はないんじゃない?」

「いいのいいの。前から言われてるから」

「レイナがそう言うなら良いけど……」


それでもニナは、やはり何処か心に引っかかりを覚えてモヤモヤしていた。


ニナは幼い頃から非常に感受性が強い娘であった。些細な物語にも感銘を受けて泣いたり、他者の言動に大きく心揺り動かされたりしていた。

そんな彼女にとって、貴族であり続けるということは、非常に辛いものだった。自らの心を押し殺し、対面を取り繕い、常に顔に笑顔を貼り付けて余裕を崩さない。

ニナの両親はそんな彼女を心配し、出来るだけ貴族社会から遠ざけようと考えた。それでも、彼女が貴族という事実は変わらない。


ニナはできるだけ貴族であろうと頑張った。両親を心配させまいと、自分も笑顔を貼り付けて、まるで仮面舞踏会の様に社交会に参加した。しかし彼女の心は、自分の心を押し殺すことに耐えきれなかった。

そうして彼女は引きこもり、魔法に傾倒するようになる。


幸いにも彼女には魔法の才があり、魔術師としても数々の功績を挙げることができた。しかしそれでも外に出る事はできなかった。

彼女がフラウと出会ったのはその頃だ。


フラウの傲慢さは彼女をひどく疲れさせたが、それでも今までと違う景色を見せてくれた。そうしてニナは、心の扉を開けて外へと一歩を踏み出したのだ。

そんなニナだからこそ、レイナの妥協にスッキリしない気持ちを覚えた。妥協し続けた結果、自分がどうなったかを知っているから。


「ニナもあまり気にしないで良いわよ。私はそれほど気にする方じゃないし。それにフラウの言う事もあながち間違いじゃないしね」

「そうそう。だってレイナったら、温泉の他にも東の国の骨董品集めだったり世界中の武器を集めたりして、それを部屋で眺めながらニヤニヤしてるのよ。年寄りじみてるを通り越して変態の域に達しつつあるわ」

「それくらい良いじゃない。私の数少ない趣味なんだから」

「別にいいけど、偶には男とどこかに出かけたりしてもいいんじゃない?」

「うるさいわねー。フラウだってそういう相手、いないじゃない」

「ふふん。私は仕事に生きる女だから今はまだその時じゃないのよ」

「そういうこと言ってる人が行き遅れるのよね」

「なんだとー!」


そう言って二人は両の掌を握り合い、互いに力を込めあった。その力は拮抗しており、ピタッとその場で動きが止まる。

フラウもフラウなら、レイナもレイナだ。要するに、どっちもどっち。どんぐりの背比べである。

そんな二人のくだらなくも仲睦まじいやり取りに、ニナはその表情に呆れを滲ませる。


「二人とも、うら若き乙女がそんなので良いの?」


素っ裸で押し合いへし合いする二人の痴態を晒されて、先程までの気持ちは何処へやら。

呆れを通り越してニナの口元も思わず綻ぶ。



その表情を見たレイナも小さく微笑む。自分の話題で空気を悪くしたことに、何となく負い目を感じていたが、もう大丈夫のようだ。


レイナはニナの事情を知らないが、今のやり取りできっと何かしら思い至る事があったのだろう。

今はダメでも、きっとそのうち話してくれるだろう。そうすればきっと、今以上にニナと仲良くなれる気がする。


それは一瞬。戦いの中でも刹那ほどの時間。

心の中でそんな思いを巡らしたレイナは、僅かだけ手に込める力を緩めてしまった。


「甘い!」

「うわっ!」


しかしフラウが形勢を逆転するには十分な時間。

まだ勝負は続いている。隙を見せた方が負けなのだ。


フラウはレイナの手を引いて体勢を崩すと素早く背後に回り込む。流石のレイナ歴戦の強者。彼女も即座に反応して何とか踏ん張った。

が、その時点で既に勝負はついていた。


「ちょっ、フラウ、どこ触ってんのよ⁉︎」

「趣味は年寄りじみてるけど、こっちは飛び切り乙女よねー」


レイナの胸部を背後から鷲掴みにし、上に下にと弄くり回す。突いて弾いて、こねくり回す。


「ぬぬぬぬ、ぬわっ。この馬鹿力っ! 全然解けないー。んぁっ!」


レイナが必死に抵抗を示すも、魔術師であるはずのフラウに完全に力負けしており、振り解くことができない。先ほどまでの勝負は完全に手を抜いていたようだ。

フラウの指が、レイナの体の各所に伸びる。その度レイナの口から漏れる艶かしい声に、ニナは顔が真っ赤になるのを感じた。

出来るだけ顔が見えないように、そのまま口元をお湯の中に沈めて二人の様子をじっと見守る。


レイナは一方的にされるがまま、しかししばらくは抵抗していた。していたが、徐々にその力が弱まっていき、やがて力尽きたのかほとんど抵抗する事さえなくなった。

暫くフラウのなすがままにされたレイナ。漸くフラウが満足したのか、てかてかになったフラウはレイナはぽいと湯船に打ち捨てる。。

背中と尻を水面から出した状態で、まるで土左衛門のようにレイナは湯船をぷかぷかと漂っていた。


「あー。楽しかった」

「楽しかったって。レイナすっかりご臨終しちゃってるんですけど……」

「そのうち起きてくるでしょ」

「…………」


乳白色の海に力なく揺蕩うレイナの肢体は、今は色気のかけらも感じさせなかった。


「で、フラウはこれからどうするの?」


取り敢えずレイナのことは忘れて話題を変える。


今日一日で色々な事がありすぎた為、ニナも何をとは言い切れなかった。曖昧な質問だったが、フラウはそれに答える。


「取り敢えずは暫くここに滞在する感じかな。あの貴族、キレたら何するかわからないし」

「まあ確かに危なそうだったけど」

「ニナも気付いてたと思うけど、あいつずっと変な魔法を私たちに向けてたでしょ? 多分あの口ぶりからすると、洗脳とか隷属に関連する術だと思うのよね」

「ば、ばばば、ばっかね! 勿論気付いてたに決まってるじゃない!」


最高級の狼狽を表しながら答えるニナ。

この際わかっていようがいまいが、そんな事は些事に過ぎない。と言わんばかりに慌てて言葉を付け足す。


「でもそういう精神に干渉する魔法って、国家間でも禁術に指定されてるわよ。そんな危ない魔法を一領主代行が使えるとも思えないんだけど」

「なら何かしら魔道具でも使ってるのかもね。それか後ろにそういう魔法を使える人間が潜んでいたとか? どちらにしろ、あまり油断はしない方が良さそうね」

「そうね。それに相手を陥れたり精神を耗弱させる方法は、何も魔法の専売特許じゃないものね。例えば食事にそう言った薬を混ぜるとか、魔法以外でも色々とやりようはあるもの。この後に食事が用意されてるってあの執事は言ってたけど、あまり食べない方が良いかもしれないわね。フラウはどう思う?」


そうして振り向いたニナは、フラウの姿を見てギョッと身を引いた。


フラウは天を仰ぎながら、両手で頭を抱えていた。まるでそこだけ時間が切り取られた様に、静寂に支配されている。天井から差す光が芸術品の如く、フラウのやや控えめな身体の凹凸を、くっきりと際立てていた。


「……何やってるの?」

「絶望してるの。ご飯が食べられないことに」

「……あ、そっ」


自分の将来がかかっているのに随分と呑気なものだと、ニナは嘆息する。

フラウに向けた視線を前へと戻し、ゆっくりと肩までお湯に浸かった。

フラウを見ていると、何だか心配しすぎな自分の方がおかしいんじゃないかという気さえしてくる。


一先ず、今は何も考えず、この至福の時間に身を委ねよう。

ニナはすっと目を閉じると、考えることを放棄するのだった。

そんな二人の前を、ぷかぷかとレイナが横切っていくのだった。

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