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卑劣な罠

貴族のボンボンにくっついていた五人の騎士達は、ジョシュア宅へと招かれ今は椅子に腰掛けている。

当のボンボンは意識を失ったまま、隣の客室へと寝かされていた。念のため村の医師にも確認してもらったが、顔面を強打されたために気絶してしまっただけだそうで、暫くすれば意識も戻るだろうと言うことだ。


その事実にジョシュアは安堵しつつも、しっかりとフラウにはゲンコツを落としておく。無論フラウの尋常ではない防御力の前に、逆にジョシュアの手の方がダメージを負ってしまったが。

しかしあくまでこれはケジメだ。怒る行為にこそ意味があるのだ。とジョシュアは手を押さえてうずくまりながら抗弁していた。


さて、今騎士達がいるジョシュアの家も、以前に比べだいぶ広くなっていた。この家も例に漏れず、以前のドラゴン襲来の折に吹き飛ばされた口だ。なので今ではピカピカの新築になっている。

ニナに頼んで書斎まで作ってもらう力の入れよう。男にとって、書斎とは憧れのマイルームなのである。

それともう一つ、地下に密かに酒を隠す用の秘密の小部屋も作ってもらった。そしてあっさりリリーナに見つかってしまい、今は食糧保存庫として役立っていたりする。

秘密で作ろうとしたのがバレた翌日、顔をパンパンに晴らしたジョシュアがいたのは、村のみんなの記憶に新しい。


兎にも角にも、一応村長であると言うことを尊重してもらい、客間や来客用のリビングを作るなど、しっかりと整備された姿が今のリーゼンベルグ宅である。


騎士数人が座っているのは来客用に作られたリビングの椅子だ。

今はリリーナが鼻歌を歌いながら騎士達にお茶を出している。そのリリーナの陽気な雰囲気に、しかし奥底に感じられる強者の迫力からか、騎士達は完全に呑まれてさっきから無言だった。


その重苦しい沈黙を破ったのはジョシュアだった。


「まず初めに謝罪を。先程はバルトリオン伯爵様の御子息に多大な無礼を働いた者がおり、村の代表として誠に申し訳なく思います」

「そ、そうだ! 貴様ら一体何を考えている。我らが伯爵様の騎士団と知っての狼藉、相応の罪は覚悟するのだぞ!」


騎士の視線がチラチラとフラウに向きつつ、若干狼狽が混じった言葉に対して、ただただ頭を下げるジョシュア。それを隣に座るフラウは、忌々しげな表情で眺めていた。


フラウの気持ちとしてはぶっ飛ばして終わりにすればいいとか物騒な事を思っていたりするのだが、そんな事をしても立場を悪くするだけだと言うことも理解している。

政治的な話だと言うことは分かるものの、高圧的な騎士の態度に腹が立たないかと言えば別の話だ。

そんな騎士に対して大人な対応をする父の姿に、よく分からない苛立ちを感じるフラウであった。


「分かりました。この件はバルトリオン伯爵に直接お目通りしまして、謝罪の言葉を述べさせて頂きたく。後ほど文を認めますので、伯爵様にお渡し頂けますでしょうか?」

「ふ、ふん。そ、それには及ばん。伯爵様は今ご都合が悪い故、我々が責任を持って、お伝えさせて頂く」

「いや、しかし……」

「ならぬと言うておろうが! それとも何か? 我々を信用ならんと申すのか⁉︎」

「……分かりました」


どこか不自然な騎士の物言いに、しかしジョシュアは返す言葉を持たなかった。これ以上言葉を並べても、きっと騎士達は意見を翻すどころか逆上してしまうだろう。

今はあまり刺激しない方が無難だと判断する。


側から見ているレイナとニナも、どことなくこの騎士達に胡散臭さを感じたが、しかしあのボンボンが貴族であると言うことは疑いようのない事実だ。


ニナはあの貴族の息子のことを知っている。

初め見た時はすぐに気づけなかったが、改めて思い出すと、貴族のパーティーであんな奴いたなと言う記憶があった。あくまであんな奴程度にしか思い出せていないが。


「で、今回あなた方がこの村を訪れたのは一体どういう御用向きでしょうか?」


やっと本題に入れるのかと、フラウは溜息をついた。自分のせいでややこしくなったことについては既に忘れ去っているフラウである。


「ふん。それは私から説明してやろう」


皆が声のした方を振り返る。

そこには顔を包帯でぐるぐる巻にしたボンボン息子がいた。


「おはようボンボン息子」

「私の名前はゲイル・バルトリオンだ! 貴様のような犬畜生にも劣る下女が、巫山戯た口を聞くな!」

「あぁん⁉︎」

「ひっ‼︎」


フラウから漏れた濃密な魔力に思わず竦み上がるボンボン息子。

しかしなんとか気を持ち直して、騎士達の側で空いている席に腰掛けた。


「今日はラウルホーゼンの町に徴税の沙汰を伝えに来たのだ」

「ちょ、徴税⁉︎ 待って下さい。徴税であれば、二ヶ月前に行ったばかりではありませんか!」

「ふん。白々しい。納税された額は本来よりも少ない金額しかなかったぞ」

「そんな訳ありません。私はしっかりと徴税官殿に税を納めました。その時の証書も頂いております」


慌てて納税の証書を取りに書斎へと駆け込むジョシュア。すぐに一枚の紙を持って戻ってくる。

それを皆に見えるよう机上に広げた。


「こちらに徴税官殿の印も頂いております。間違いなく適切な税を納めました」

「ほうほう。確かにこれは徴税官の印が押されているな。だがおかしくないか? そもそもの金額が少なすぎる」

「少なすぎる?」


改めて皆が徴税の証書をみる。

だが何らおかしいところは見つからない。居住している村人約500人分の金額が、きっちりと納められていた。


フラウもレイナもニナも、計算は出来る。

三人が確認しても、この証書に誤りなどは見られなかった。

しかし騎士団の面々は、まるで勝ち誇ったかのようにニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。


「ちゃんと村人の人数分、税は納められています。少ないとはどう言うことでしょうか?」


ジョシュアは再度、反論を行う。

しかしボンボン息子は、必死に笑いを堪えながら、包帯の奥で笑みをたたえていた。


「かはは。何を言っているんだお前は。おーおー。確かにお前の言う通り、村単位であればこの金額でも足りるかもしれんな。あー、だが、ここは……街だぞ?」

「「!」」


貴族たちを除く、その場にいた全員が驚きを露わにした。

先にフラウ達が語っていたように、街となる基準は人口の多さ、すなわち住民の数だ。

リヴァレント王国ではその基準が1,000人以上かどうかで切り分けがなされる。つまり,ラウルホーゼンはまだ街にまで発展していないのだ。


「お待ちください。ラウルホーゼンは確かに急激な発展を見せていますが、まだ住民の数は1,000人に満たない。れっきとした村のはずです」

「馬鹿を言うな。ここは街だ。領主がそう言えば、それが正しい裁定だ。貴様も村長であれば知っているだろう。ああ、もう町長だったか。はは。集落の規模が大きくなれば、納税の額も自然と増える。村より街、街より都市、とな。だから街であるラウルホーゼンは、それ相応の金額を領主に納めなければならない。分かったら,さっさと残りの不足分を集めるんだな」

「そんな……。横暴だ!」

「何だ村長。その口の利き方は。領主の息子である俺への、いや、領主代行である俺に、何か文句でもあると言うのか?」

「領主代行⁉︎」


領主代行は領主に近しい権限を持っている。代行とは言え、領民である以上、領主の言葉に頷かざるを得ない。

グッと言葉を堪えたジョシュアは、強く手を握りしめる。手の中で薄く血が滲んだ。


「かはは。そういうことだ。この領地の事は、俺に決定権がある。分かったらおとなしく言うことを聞くんだな」


ボンボンは他の騎士に出された茶を一息に呷るとと、カップを机に叩きつけて勢いよく机から立ち上がった。


「我々が次に来るまでに金は揃えておけ」


そう言い捨ると、身を翻しツカツカと扉の方へと歩いて行く。他の騎士もそれぞれ捨て台詞を吐きながら,慌ててボンボンに追い縋った。


ボンは乱暴に扉を開けるとそのまま一歩を踏み出し、盛大にコケた。


「ぶほっ!」


相当な勢いで顔面から地面へダイブする。

周りの騎士達が慌ててボンを助け起こした。


何とか立ち直ったボンは、もう一度捨て台詞を吐き捨てて、そしてまた盛大にコケる。

今度はそのまま気を失ったのか、周囲の騎士達に抱えられながら、ボはその場を後にした。


その様子を見ていたニナは、


「フラウ。さっきの、あんたの仕業でしょ?」

「何のことー?」


態とらしく目を彷徨わせながら、音の鳴らない口笛を吹き鳴らす。

ニナは溜息をつきながらジョシュアを見た。


ジョシュアは手を組んだまま、力なく机に体重を預けていた。


無理もない。ラウルホーゼンの発展は、他と比べて異常な速さといっていい。とは言え、まだまだその発展は途上である。これから更なる発展のために、当然資金は必要になってくる。

しかし早い段階から、その資金を領主は奪おうと言うのだ。


普通の領主であれば、規模が大きくなるまでは街として認定はしないだろう。聡い領主であれば、援助をしてでも今後の発展につなげ、後々順当な税金を課す。

今回のように村の、ひいては町の発展を妨げるような行いは、愚かと言わざるを得ない。

貴族のニナから見ても、今回の話は到底理解の範疇を超えた暴挙だ。


ニナも長く引きこもっていたので、それほど貴族社会のことに詳しくは無いが、バルトリオン伯爵閣下はそれほど愚鈍な領主ではなかったはずだ。

だからこそ、あの息子を見る限り、何かしらあった事は間違いない。

ニナも貴族としてのネットワークを使い,今回の件を秘密裏に調べてみようと考えるのだった。


それより問題は、これからどうするかだが。


「ちょっと。どうする気なのよ」

「…………」


フラウの容赦ない言葉が突き刺さる。ジョシュアは無言だ。


結果から見れば、フラウが領主の息子を殴った行為に対して、釘は刺されたが何か訴えられる事はなかった。とは言えもっと嫌な話であった事は間違いない。

まあそれがフラウ個人の問題から、この村の存続にまで話が広がるとまでは、誰も想像だにしなかった訳だが。


「困ったわね。はい。これでも飲んで、みんな落ち着いて」


そう言ってリリーナが皆の茶を淹れなおす。

皆が茶を啜ると、温かさが体中に広がり気持ちが落ち着いていく。苛立ちや焦燥が嘘のように、すっとなくなっていくのが不思議な感覚だった。


「リラックスに最適な茶葉よ。まずは冷静になって、どうするか考えなくちゃね」

「そうだな」


そうしてその日はそのまま解散となった。

流石に今はそんな気分ではなかったと言うこともあるが、あのまま思考を回らしたところで良案が出るとは思えなかった。

なので翌日に村の人間も集めた上で、再度どうするか検討することとなった。


そうして翌日。

がくる前に、フラウはそのまま領主邸へと連行されて行った訳だ。

そして最初の状況に戻る。





「で、私たちこの後どうなんのかな?」

「知る訳ないでしょ。あの馬鹿息子に聞きなさいよ」


ニナの言葉にピクリと反応した執事は、しかし何も言わずただ三人を案内する。


フラウは現実逃避気味に窓から見える景色を眺めた。


三人は今、バルトリオン伯爵の屋敷の廊下を歩いていた。廊下は赤く豪奢なカーペットが敷かれている。そのカーペットは遠くの方まで続いており、その先に左右に開く大扉が存在していた。

窓の外は噴水のある綺麗な庭園が広がっていた。庭園には薔薇園があり,その薔薇園はどうやら迷路になっているようだ。

幾つもの折り返しや行き止まりが続き、そこそこの広さを持っている。

上から見ると道順は一目瞭然だが、実際に視線の高さで迷路に挑戦するとなかなか手こずりそうだとフラウは思う。


そんな庭園に設置されたテーブルには一人の少女が、カップを手に花を眺めていた。その表情はどこか物憂げで、寂しそうな瞳をしていた。

すぐに廊下の窓を通り過ぎ、少女と庭園の景色は建物の壁に阻まれる。


フラウも諦めと覚悟を決め,目の前に向き直った。


大扉の前までたどり着いた三人を、執事が一度止まるように手で制す。

そして扉の前にいた護衛に向かって二言三言告げると、大扉は両側に開け放たれる。


執事は傍に控えると,そのまま中へ進むよう手を扉の先へと差し出した。

一体この先に何が待つのか。フラウ達は緊張の面持ちで中へと足を踏み入れる。


フラウ達が中に入ると、背後の扉がゆっくりと閉まっていく。がちゃんと大袈裟な音を立てて完全に閉ざされた。


部屋の中に視線を向けると、そこにあったのは長大なテーブル。フラウ達がいる場所から反対の端まで、5、6人が横たわったくらいはありそうだ。

そのテーブルの奥に、一人の男が座っていた。


歳の頃は二十代前半だろうか。

先日ラウルホーゼンに来たボンと比べても、こちらの方が若く見える。

髪はボンと同じく金色で、少し目にかかるくらいの長さ。顔もやはり同じ遺伝子なのか、非常に整っている。

もし第三者にその人物が王子様だと言われれば、納得してしまいそうな容貌と、理知的な光を瞳に宿している。


「今日は来てくれてありがとう。まあ立ち話も何だし、そちらの席に座って貰えるかな」


10mは離れているだろうか。だが距離を感じさせないよく通る声が、まるで近くで発せられたかのように耳に染み込んでくる。

その声は非常に透き通っており、何より耳に心地よかった。カリスマとでも言うべき声色。まるで自分たちの頭の中に直接語りかけてくるような、危険な香り。

その声に、三人は警戒心を撥ね上げさせた。


いつまでも突っ立っているわけにはいかない。

フラウは手近な椅子を選んで、そのまま腰掛けた。レイナとニナもそれに続く。


「さて。改めまして、僕はレイン・バルトリオン。バルトリオン伯爵家の次男だ。先日は馬鹿な兄が迷惑をかけてしまったようで、すまなかったね。あれは武力はそこそこなんだけど、どうにもオツムの方が残念でね。考えなしに行動するからすぐ問題を起こすんだよ。全く,バルトリオン家の恥晒しだよ」


レインはぁと溜息をつく。その所作ですら、妖艶さが漂っており、否が応でも三人の目を惹きつけた。


「全くよ。いきなりうちの村に来たかと思ったら、勝手に暴れて勝手に落馬して勝手に怪我をしたのよ? 私たちもこんなところに連れてこられて迷惑してるんだけど」

((おいおい。あんたがそれを言うか))


レイナとニナはフラウのその言葉に、心の中で二人揃ってツッコミを入れた。


「ははは。君は面白いね。よくそこまで豪胆でいられるものだよ」


どうやら全部バレバレのようだった。

フラウは肩をすくめて苦笑いを浮かべた。


「で、あんたが領主様?」

「まあね。あの馬鹿には領主代行として動いて貰ったわけだけど」

「そう言うことか」

「ちょっと待ってよ!」


ニナが突然声を上げて会話に割り込む。

レインの瞳が鋭利に細められ、冷たい視線を向ける。

その視線の冷たさに、ニナは一瞬体を強張らせた。しかしすぐに持ち直す。


「何だい?」

「……バルトリオン伯爵閣下はどうしたの? まだ爵位は引き継がれていないはずでしょ?」

「ふぅん」


レインはニナを品定めするように視線を細めた。

そしてくつくつと楽しげな笑い声を上げる。


「腐っても貴族、と言うわけかい。ニナ・アルヴェイユ嬢。本当はフラウ君だけを招待したつもりだったんだけど、おまけに金魚のフンまでついてくるとはね」

「き、金魚のフン⁉︎」


貴族らしからぬその物言いに、思わず聞き返してしまうニナ。しかし直ぐにそれがレインの煽り文句だと気づき、心を落ち着かせる。


「ちょっと! 誰が金魚のフンですって!」


が、フラウはその言葉に反応してしまう。

荒げた声と共に薄っすらと魔力が漏れ出し、周囲の気温を数度下げた。


その光景を見て、レインの口元が歪な笑みを浮かべる。それは一瞬で元に戻ったが、ニナはその表情に得も言われぬ悍ましさを感じた。


「フラウ。私たちは気にしてないから」


それまで黙っていたレイナがフラウを嗜める。

ニナはこの場にレイナも連れてきて正解だったと心の中で安堵した。


「ははは。レイナ・イズール。剣しか取り柄のないゴリラ女らしいね。どうやらまだ人間の感情までは理解していないようで良かったよ。言語が通じてたらと思うと怖い怖い」

「誰がゴリラ女ですってぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


一瞬でニナの希望は打ち砕かれた。

今すぐこの場から逃げ出して暗い部屋の中で研究でもしていたい。

そうだ。この間新しいゴーレムの仕組みを閃いたんだった。さっさと帰って実験しなきゃ。


最早ニナの心も現実からの逃避行を開始していた。

三人揃ってレインの言葉に踊らされている。フラウも大概だが、相手を怒らす事にかけては目の前の相手の方が一枚も二枚も上手のようだった。


「まあ冗談はそれくらいにしておこうか。しかしやはり、フラウ君はイイね」


突然の褒め言葉にフラウが今まで振りまいていた怒気を抑える。その思考の単純さに、今度はニナの怒気が溢れ出そうになる。

が、レイナの姿を見て冷静になった。レイナはと言うと、隣でずっと誰かさんへの呪いの言葉を呟いていた。


「私が凄いのは当然の事だから、今更疑念の余地すら無いわね。まあいいわ。それより,どうしてあんな嫌がらせをしてくれたのかしら? あんたどう考えても頭いいでしょ。なのに村の発展を妨げるような事、普通はしないわ」

「あれは兄が暴走しただけだよ。僕が望んだわけじゃ無い」

「嘘ね。本当の領主代行はあんたなんでしょ? どうやったかまでは知らないけど、恐らく自分の父親を動けなくして、領主代行に収まった。その上で自分の兄を唆して,うちの村にちょっかいをかけさせた。あんたは兄がどうなろうと知ったこっちゃ無いだろうから、勝手に自滅してくれればそれでいい。そして自分しか後継がいなくなった上で領主の座を奪い取る。或いは父親に毒でも盛って亡き者にでもしようとしてるのかしらね?」


それまで笑い顔を見せていたレインの表情が一気に険しくなる。

しかしそれもまた一瞬で元に戻ると、軽薄そうな笑顔を貼りつけて笑った。


「どうしてそう思うんだい?」

「ただのカンよ」

「そうか。カンか。その話だと,僕は父親を殺そうとしているわけだね。いやー、怖い怖い」


冗談めかして両手を胸の前に掲げる。

口には笑顔を浮かべているが、しかしまるで笑っているようには見えなかった。

それが不気味で,三人ともが息を呑む。


「ははは。面白い話をありがとう。さて、話を続けるのも面白いんだけど、時間もあれだしさっさと本題を済ませちゃおうか」


レインは目を細めて冷たい眼差しを三人に向けた。

今度は冗談など混じっていないと思わせる、そんな冷たく恐ろしい目をしていた。


「ラウルホーゼン。確かにあの村の発展は異常な速さだが、まだ街とするまでは人口が足りない。だから税金を増やすのは不当だと思うのも分からなくもない」


三人は誰も言葉を発さなかった。

それを肯定と受け取ったレインが話を続ける。


「だけど,ラウルホーゼンは宿場町だ。つまり定住を伴わない人が多くいるが、一時的な最大人口は1,000人を超える可能性がある。確かに常時、街としての要件を満たすわけではないが、条件付きで街となる人口に匹敵する場合、街と判断する。これは随分昔に出された裁決だが、法律は今も変わっちゃいない。そしてラウルホーゼンの宿の部屋数を加味すると、1,000人を超えることが分かった。だからラウルホーゼンを街というのは,間違いではないんだよ」

「で,でもそれは……」

「何だったら国に聞いてみるといいさ。確かニナ・アルヴェイユ嬢は、王女様と懇意だったよね。その伝で調べてみるといい。直ぐにわかるから」


そこまで言われてしまっては,誰も反論ができなかった。

規定にある1,000人と言う居住者の基準が、フラウたちにとって唯一無二の手札であった。しかしそれを覆されてしまっては打つ手がない。

反論したところで相手は領主。理屈でも勝てない以上、大人しく従わざるを得ない。


フラウ達はその事実に歯噛みするしかなかった。が、その時レインから一つの譲歩案が伝えられる。


「とは言え流石に大昔の話を引っ張り出して論拠を振りかざすのも、些か大人気ないと思わないかい?」

「……何が言いたいの?」

「ふふふ。僕は君たちにチャンスをあげたいんだよ。領主の横暴に立ち向かった君たちに、ご褒美としてね」


レインのその言葉は、またも耳触りがいいように聞こえる。まるで心の隙間にぴたりと収まるかのように。


だがそれが安易に呑み込めるであろう要求でないことは、ここまでのやり取りで十分理解している。

フラウ達は警戒感を露わに、その言葉を待った。

そしてレインが、語り出す。


「交換条件を呑んでくれさえすれば、納税の件はまだしばらくの猶予をあげよう。勿論人口が達したら街としてしっかりと税金を納めてもらうよ」

「……その条件って?」

「フラウ君。君が僕のお嫁さんになる事さ」

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