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どうしてこうなった

ヤバいですね!

前回投稿から丸4年。いくら何でも時間かけすぎだろうと。。。

脱線したり仕事が忙しくなったりで中々書けていなかったのもありますが、最近別の話を書き始めたので、久々にこちらにも手を出してみました。


ちょっとずつですが、スローペースで書いていこうと思います。

「どうしてこうなったー」


フラウは目の前の机に突っ伏しながら、今日何度目かわからない呟きを口にした。


傍にいたレイナがそんなフラウを見てため息をつく。向かいに座るニナも、そんなフラウを見て同様にため息をついた。


「もう。今更そんなこと言ってもどうしようもないでしょ? 私も巻き込まれてるんだから観念しなさいよ」

「ヤーダー。おうち帰るー!」

「あんた何歳児よ……」


ニナが呆れ気味に呟く。


フラウ達は今、同じ部屋に女三人、仲良く時間を潰していた。

部屋の広さは宿屋の一室よりも大きく、簡素でありながら質の高さが窺える家具が並んでいる。

それを彩る絵画や調度品も、素人目に見ても一級品だとわかるものばかりだ。しかしそれでいて部屋の景観を損ねないデザイン性も兼ね備えていた。


ニナは目の前のテーブルに置かれた紅茶を啜る。

そのカップも白磁のシンプルなデザインだったが、貴族であるニナはこのティーセットだけで平民が一年暮せるだけの価値があることを知っていた。

フラウが知ったらきっと堂々と持ち帰ろうとするだろうから、あえて何も言っていない。


当の本人はその価値に気づかず、ずぞぞぞとカップの中身を飲み干すと、ぞんざいな扱いでソーサーの上に置いた。


「おかわり!」


その言葉に傍に控える給仕服を着込んだ妙齢の女性が紅茶のおかわりをフラウのカップに注ぐ。

フラウが礼を言うと、女中は静かに頭を下げ、少しだけその身を引いて再び傍に控えた。


レイナも自分の分の紅茶を口に含むと、その味にほっとため息をつく。

美味しい。思わずその言葉が口から漏れる。

それを聞いた女中が再び頭を下げると、レイナは少しだけ顔を赤くして礼を述べた。


「あー。どうしてこうなったー」

「いい加減にしなよ。元はと言えばフラウが元凶なんだから」

「元凶とは何さ。あたしゃ好きでこんなことやったわけじゃぁないんだよぅ!」

「……いや誰よそれ。とにかくあんたが余計なことしたからこうなったのは事実でしょ。寧ろそう言いたいのは私とレイナの方よ」


二人からの口撃に言い返す術を持たないフラウは、そのまま黙り込まなかった。


「知るかー!」


傍若無人な物言いに呆れる二人。ある意味フラウらしいと言えばらしいのだが、今回の件に関してはあまり宜しくない。

ニナは再びため息をついた。


暫くすると部屋の扉から数回ノックが聞こえて来る。ガチャリと扉が開くと姿を表したのは黒い礼服を着込んだ老年の男性。

白い口髭を蓄えた彫りの深い表情は、柔和でありながら鋭利な刃物のような鋭い雰囲気を感じさせた。


男性は低く渋い声でフラウ達に言葉をかける。


「旦那様がお待ちです」


そうしてフラウ達に自分についてくる様促した。


その有無を言わせぬ迫力に、フラウもごくりと唾を飲み込む。

そして小さく、誰にも聞こえない声量で、


「どうしてこうなったー」


フラウは呟いた。





ことの起こりは数日前まで遡る。


「ラウルホーゼンも結構発展してきたわね」


以前に比べて多くの住民や往来の人数が増えた景色を眺めながら、フラウは同じ席につくレイナのとニナに声をかけた。


二人もその言葉に同意する。

彼女達がラウルホーゼンに来てから約一年。

当初の光景を知る二人からすると、異様な速度での村の発展を目にしてきた。


勿論色々な手立てを行なったことでそれが実現しているので、別段不思議であるとは思わない。

自分たちもこの村の発展に尽力したと言い切れるほどには、二人も関わってきた自負があるからだ。


それに加えて関わりが深くなることで愛着も湧く様になっている。

レイナなどは既に自分の故郷が無くなってしまっている事から、今ではここが第二の故郷と思う様にまでなっていた。


フラウにもそのことを告げると、『故郷ができてよかったね』と言われ、思わず涙ぐんでしまったのは二人だけの秘密である。


王様との謁見でフラウが国家魔導士にならずにこの村を選んだ気持ちが、少しだけだがわかった二人であった。


「でもまだまだ色々な計画があるから二人も手伝ってね」


その言葉に少しの期待と多大なる不安が浮かぶが、あえてそれを口に出すことはしなかった。


「で、今度は何やるつもり? ドラゴンの骨作って温泉作ったり、どえらい事したけどさ。正直もう村と言うより街のレベルに達しようとしてるんだけど」


リヴァレント王国の法では村の規模は人口千人未満、それを超えると街と呼ばれるようになる。

今ラウルホーゼンの人口は住民が増えて500人程度だが、施設等の充実具合を考えると街と呼んでも差し支えない規模だ。

それはラウルホーゼンが宿場町という形態を取っているが故とも言えた。


ニナの言葉にびしっと人差し指をレイナに突きつける。


「今こそレイナの案を実現するときよ!」

「?」


言われたレイナ本人はとんと覚えがなく、ただ首を傾げるだけだ。

ニナもこちらに来て、何かレイナの案というものは聞いた覚えはない。彼女と同じ様に首を傾げた。


その反応に苛立ったフラウは、声を大にして告げる。


「鉱山よ! レイナが最初に言ったんでしょうが!」

「あー」


その言葉でようやく気づいたのか、レイナはポンと手のひらに拳を乗せた。

フラウの大声に一階から村人の苦情の言葉が届くが、当の本人は意に介した風もない。


ちなみに彼女達が今いるのは、村の入り口近くについ最近建てられた喫茶店だ。

美味しいパンと美味しい紅茶やコーヒーが飲めるということで、出来たばかりだが旅人や商人に好評である。

勿論フラウ達の様に村人達も足繁く通っていたりする。


「あの案ってレイナが出した物だったのね」

「そういえば最初にそんなこと言ったかな」


すっかり自分が言ったことを失念していたレイナだった。

とは言えニナも鉱山の整備については手を貸していたのでその需要は理解している。レイナが言う通り、歴史的とまではいかないが、近代産業による遺構は最近巷では人気があるらしい。


現在と過去の間というか、かつて人の手が入っていた痕跡を強く残しながらも今は荒廃してしまった景観が、当時を知らない若者達に趣や情緒を感じさせるそうなのだ。

勿論ニナは、そんな事より部屋に引きこもっていたいタイプの人間だが。


「けど鉱山ってドラゴンのブレスで壊れたじゃない」

「そうそう。穴開いちゃったじゃない」


二人の言葉も尤もだった。

ドラゴン襲来前ならいざ知らず、襲来を受けて鉱山のあった場所はブレスの直撃で大穴が開いてしまったのだ。

当初はブレスの威力で赤々と燃え盛っていたが、今ではその熱も失ってすっかり山肌と同じ灰黒色へと変化している。


しかしフラウはそんな二人の言葉に怪しげな笑みを浮かべた。


「そう。その穴よ! 坑道を再度使える様にして、あの穴を次の観光名所にするのよ!」


勿論鉱山も無事な部分は利用するわ、と付け加えて。

その商魂逞しさに、最早魔導士を止めて商人になればいいのでは、と思うニナだった。


とは言えフラウの言うことにも一理ある。

ドラゴンが襲来すると言うのはあくまで御伽噺の中の話。と最近までニナも思っていた。

勿論存在自体は知ってもいるし、王都の博物館にはドラゴンの骨格標本も展示されている。


しかし人里に現れることなどそれこそ一生に一度あるかないか。

それだけドラゴンというのは珍しい種なのである。


それが一時とは言え実際に現れた場所、それがラウルホーゼンである。

一応王様は今回の件を大々的には公表していない。

それはフラウが嫌がったからと言うのもある。


ドラゴンを倒すと言うことはそれだけで偉業であり、英雄と呼ばれるに等しい行いだ。

この国では七賢人のゴルタスがかつてドラゴンを倒したと言われているが、それこそ同じ七賢人のニナからしても、ゴルタスの実力は群を抜いていると言える。

それほどの実力者であって、ようやくドラゴンを倒せるのだ。


そんな人物が公に表彰されれば、周囲の環境や扱いは間違いなく変わってしまう。それに魔導士協会や国の貴族などからも余計なちょっかいを掛けられるだろう。

それを面倒くさがったフラウが、表彰されることを嫌がったのだ。

勿論ドラゴンを倒した本人が嫌がった以上、協力した他の面々の中にその話を受ける者はいなかった。


そう言うわけで、ドラゴン襲来の件は公にはなっていない。なってはいないが、人の口に戸は立てられないのも道理。

そのとき村にいた商人や旅人から人伝で噂は拡散され、今ではほとんど公然の事実として、ラウルホーゼンでドラゴンの襲来があったと伝わっている。


それに拍車をかけたのがあの温泉である。実際にドラゴンの骨が使われているのだ。あれを見た者達が勘違い(事実だが)するのは当然と言える。

幸いにも、ドラゴンを倒したのがフラウ達であると言うことはまだ知られていないので、何者かがドラゴンを倒したと言う話だけが伝わっていると言う状況である。


尾鰭がついてゴルタスがたまたま滞在していたんじゃないかなど噂されており、本人が何も言わないので今の所有力な説になっていたりする。

フラウ達もこのままその噂が定着してくれることを望んでいたりするが、今後どうなるかは今のところ誰も分からないのである。


「まあ確かにドラゴン人気に沸いてるラウルホーゼンにはピッタリっちゃピッタリよね。ドラゴンが開けた大穴。既に観光名所化されつつある場所だし、そこを整備して立ち入りできる様にするのはありだと思うわ」

「私もいい案だと思う。けど整備するのが大変じゃない? 元々坑道の整備だって、ニナのゴーレムが協力してもかなり時間かかってたし」


レイナの言葉にニナも思い出す。

そう言えば自分のゴーレムが坑道の整備を買って出ていたことに。

自立軌道に設定していたのですっかり忘れていたが、ドラゴンの攻撃でどれだけ被害が出たかちゃんと確認もしていなかった。


「問題はそれなのよね。けどあそこの整備は重要だと思うから何とかしたいのよ。ドラゴン人気で沸いてる今のうちに進めておきたいし、今以上に村が大きくなったら街になるかも知れないしね。そうなると色々めんどくさいし」

「めんどくさい? 街になると何か変わるの?」


レイナはそんな疑問を口にする。

村や街の運営には携わったことのないレイナからすれば、当然の疑問である。

その疑問を引き継いだのは貴族であるニナだった。


「そうね。村と街とじゃ領主に対しての納税の税率が変わるのよ。まず第一に、領地運営は王国が決めた領主に決定権があるの。だからその領地に属する村や街は、領主の決めた税率に則って税を納めるのよ。殆どはその村や街の人口を元に算出されるけどね。そして原則、村より街、街より都市と、規模が大きくなるほど税率が高くなるわ。だから街になる前に出来るだけラウルホーゼンの蓄えを増やして、今後の村おこしに向けて余力を残しておきたいって訳ね」

「なるほど」

「何であんたが頷くのよ」


フラウがニナの説明に頷く。

ニナはフラウの反応に呆れてため息をついた。


レイナも説明を聞いて納得する。

王都にいる間は冒険者として活動をしていたので、税金に関しては冒険者ギルドで調整してもらっていた。なので特別意識することはなかったのだが、村や街を治めるとなると、当然そう言う問題が付き纏う。

そう考えると自分がまだまだものを知らないと実感させられる思いだった。


「確かラウルホーゼンはバルトリオン伯爵領に属していたわね」

「そうなの?」

「何でこの村つきの魔導士であるあんたが知らないのよ……。普通は魔導士になったらその土地を治める領主に挨拶しに行くものなんだけど、その様子だと言ってないんでしょうね」

「あたぼうよ!」

「何でそんなに自信満々なのよ……。しかもそれどこの言葉?」


再びフラウの回答に呆れるニナ。そんな様子に気苦労が絶えないなと、他人事の様に思うレイナであった。


「まあそう言うことで、出来るだけ早く鉱山を整備したいなと思っているわけよ」

「いい感じに締めくくったけど、説明してたの殆どニナだからね」


レイナのフォローに泣きつくニナ。

苦労を分かって貰えたことがよほど嬉しかったのだろう。


そんな三人が掛けるテーブルに、


「ほいよ。店からの差し入れだ」


トノアがパンを持ってやってきた。

まだ湯気が立っており焼き立てであることがわかる。そしてバターの香ばしい香りが、三人の鼻腔をくすぐった。


皿に盛られたパンは三角に切り取られ、縁は丸みを帯びている。厚さはそれほどでも無いが、断面から見える生地は中身が詰まっていた。そのパンに乗せられたバターがパンの熱でトロリと溶けている。


「仕上げにこれをかけて召し上がれ」


そう言ってトノアが取り出したのは小さめのガラスの小瓶。その中から黄金色の液体を、三人それぞれのパンの上に注いだ。

液体から甘く食欲をそそる匂いが香り立つ。


「また新しいパン作ったのね。でも美味しそうね」

「ああ。これはホットケーキって言うんだ。どこの国かは知らねーけど、小腹が空いた時にちょうどいいって爺ちゃんのレシピに書いてあったからな」

「ほう。ホットケーキ」


三人は初めて見るホットケーキに興味津々で、一緒に出されたフォークを手に取る。

切り分けたかけらを一口含むと、甘味とバターによる塩気が身体中を巡った。


「んまっ! これうまっ!」

「フラウ。あんたもう少しお淑やかな言葉遣いを覚えたほうがいいわよ」

「私もそう思うよ。フラウ結構言葉遣い酷いからね」


その言葉に側で聞いていたトノアが苦笑を浮かべる。

小さい頃から一緒にいた存在としては、まるで自分に言い聞かされている様な気分になったのだ。


「じゃあそれ食ったら皿は一階に持ってきてくれよな」

「あいよ〜」


フラウの言葉遣いは自分とは関係ないかもと思いながら、トノアはその場を後にする。


「と、フラウ。言い忘れてたがあまり大きな声出すなよ。一階のお客さん達に迷惑だからな」


そう言ってトノアは階下に降りていった。


残されたフラウは、


「私そんなに大きな声出してた?」

「さっき一階からトノアの注意受けてたでしょ。レイナに指摘してた時よ」

「そうだっけ?」


都合の悪いことは忘れる、と言うかそもそも耳に入らないフラウの性格に、呆れを通り越して尊敬すら浮かぶニナであった。



「この街の責任者はどこだ!」


そんな声が聞こえてきたのは、フラウ達がホットケーキを食べ終えて紅茶で喉を潤している時だった。


二階のテラス席にいた三人が門の方向を見ると、物々しい鎧に身を包んだ男達が馬上から門衛を叱咤していた。

先頭の男はまだ若く、お世辞抜きに色男だと言える美貌を有している。

サラサラの金髪が目に眩しい、貴公子然とした男だった。


門衛は最近雇われたのか、どう対応して良いのかわからない様子で慌てふためいている。

周囲の商人や旅人達も遠目からその様子を眺めるが、明らかに相手が高貴な者に関わりがあると思われるためか、手出しはできない様だった。


「何あれ?」

「どこかの騎士団みたいだけど。来た方角からすると王国内の騎士団の様ね」

「何だか感じ悪い騎士団ね」


門衛では話が進まないと感じ取ったのか、先頭の男は無理矢理押し通ろうとする。しかし門番が全身を使ってその暴挙を止めた。


「あの門衛中々見どころがあるわね。棒だけで騎士に立ち向かうなんて」

「そうね。今度先輩の元で稽古つけてもらうよう話そうかしら」

「あんた達ずいぶん呑気ね……」


ニナは二人の緊張感のなさに呆れ顔だ。

そうこうしているうちに、先頭の騎士が痺れを切らしたのか腰に佩いた剣を抜き放った。


思わぬ騎士の行動にフラウ達も驚きを隠せず、男を止めるためにテラスから飛び降りた。


しかし無慈悲にも男の剣が振われる。


キィン。


甲高い金属のぶつかる音が響く。

間一髪間に合ったフラウが、魔法で硬化したフォークで男の剣を受け止めていた。


騒ぎに気付いたトノアも店から飛び出し、フラウと男の姿を交互に見る。

そしてフラウが持っているものを見て悲鳴をあげた。勿論フラウが硬化の魔法を使っていることにトノアは気づいていない。


「ちょっ! それうちの店のフォーク!」


一方剣を受け止められた男は、目の前の光景に驚愕していた。

魔導士然とした格好をした女がいきなり現れたこともそうだが、自分の剣をフォーク一本で受け止めるなど、到底信じられようはずもない。


これでも自分は伯爵家の息子として、騎士団を率いる隊長をやっている。伯爵領の騎士団の中では最も剣術に秀でている。それが怪しげな女に軽く受け止められるなど、あってはならない。あっていいはずがない。


「貴様! 無礼がすぎるぞ!」


男は力を込めてフォークを弾くと、そのまま上段から剣を斬り下ろす。

しかし再び手に持ったフォークで受け止められてしまう。その状況に、男の後ろに控えていた他の騎士も騒がしくなった。


二度も起こったまぐれに、男の顔はますます赤くなった。整った容貌が怒りで歪む。


「小娘がぁ!」


男は力任せに何度も剣を振るう。

それは傍から見ても強烈と言う他ない、重い一撃だった。しかしその全てがフォーク一本で受け止められていた。

信じられない光景に、次第に騎士達が騒がしくなる。それがさらに男に火をつけたのか、剣の勢いがますます苛烈になった。


「フラウ〜。ほんともう止めてくれ! フォークがダメになっちまう!」

「煩いわね。男なんだからフォークの一本くらい壊れたっていいでしょ」


フラウの余裕な態度が引き金となった。

男は魔力を剣に込めると、裂帛の気合でそれを振り抜いた。


「パワースラッシュ!」

「うちのフォーク!」


フラウの持つフォークが、半ばから切断されて宙を舞う。カランとその先端が地面に転がった。


勿論フラウはその剣技を紙一重で躱しているので無傷だ。

しかしだからと言って、それがフラウの許容できるものかと言うと、そうではなかった。


無惨にも切断されたフォークの欠片を見つめながら、ぶちっと何かが切れる様な音が鳴った気がした。


「はぁ、はぁ。女、よくもこの俺に、こんな無様な姿を晒させてくれたな。このゲイル・バルトリオンに! 喜べ。貴様は死罪確定だ。貴様ら、さっさとこの女を引っ捕らえーー」


最後まで言い終わる前に、男の頬に先端が丸い棍棒の様な杖が突き刺さった。

馬上から吹き飛ばされた男の体は宙を舞い、地面にぐしゃりと墜落した。顔面を腫らしながら、尻を上に向けた無様な姿で。

意識があればどれだけの悪態をついたか分からないが、幸いにも既に男の意識はなかった。


そして男を吹き飛ばした犯人は、杖を振りかぶった体勢のまま、冷たく告げた。


「よくも私のフォークを斬ってくれたわね」

「お前のじゃない! それ俺の店のだから!」


トノアの声が虚しく響く。

残念ながらその場の誰も、その言葉は耳に入っていなかった。


やがて正気に戻った他の騎士達がフラウを取り囲む。

しかし自分たちより間違いなく格上の相手に、警戒心から取り押さえるための行動は起こせず、逃げない様ただ周りを囲むだけだった。


「ちょっと通してくれ」


人混みをかき分け姿を表したのは、この村の村長であるジョシュアだった。

目の前には自分の娘と、それを取り囲む数人の騎士。そして傍で尻を上に向けた無様な格好で気絶している変な騎士。

ジョシュアは何があったのか、全く状況が飲み込めないでいた。


「ジョシュアさん」

「レイナくん。これは一体?」

「えーっと……」


レイナは苦笑いを浮かべながら、先程起こった顛末を説明する。

それを聞いたジョシュアは、盛大に溜息をついた。

まさか自分の娘が貴族を殴り飛ばすとは。


しかし存外、今の状況に落ち着いていられたのは、過日にドラゴンの襲来があったからだろうか。

そんなことを思う自分に気付いて、ジョシュアは苦笑いを浮かべる。


「私はこの村の村長です。ひとまず騎士様方は私の家へご招待致しましょう。また怪我を負った騎士様も、村の者でお運びいたします。ここは私の顔を立てて頂くと言うことで、どうか矛を収めて頂けませんか?」


その言葉に、力技では自分たちに不利だと見た騎士達は、渋々従うことにした。

そして倒れたままのゲイル・バルトリオンは、どこからか持ってきた戸板に乗せられジョシュアの家へと運ばれていく。


「フラウ。お前も来なさい」

「えー。なんかめんどくさそうだからやだ」

「いいから来い!」


父のあまりの剣幕に、フラウは渋々ジョシュアについて行く。


後に残されたレイナとニナは顔を見合わせると、その後を追うのだった。

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