誰も得しないサービスカット
……夏の熱気が徐々に引いて、秋の陽気が身に馴染んで来た頃。先日の隕石衝突の一件も、人々の記憶から薄れていった。そうして、彼らの日常も戻ってきたのだ。
「狼きゅーーーん!」
「狼くーーーん!」
「狼君萌えーーー!」
上から順に闇代、ほのじ、美也(本編参照)が、奇声を発しながら狼に飛び掛る。
「お前らいい加減にしろっ!」
そしてその狼は、三人の美少女(?)の猛攻を次々と躱していく。いつもの光景が、五割り増しの賑やかさで戻ってきたのだ。
「ったく……お前らはいつも通りだな」
「わたしはいつでも狼君一筋だよ」
「狼君が大好きなのは、ほのじのアイデンティティーなんだからね」
「狼君はさっさと、私と―――(自主規制)―――して―――(自主規制)―――してくれればいいのっ!」
金髪幼女、男の娘、下ネタ連発お姉さんと、かなり濃ゆい面子に囲まれて、少々疲れ気味の狼。もてる男は辛いのだろう。共感も同情も出来ないけど。
「個人的には、そろそろ狼君のサービスカットが欲しいんだけどね」
ふと、美也が突然そんなことを言い出した。何の脈絡もなく、変なことを言わないでほしいんだが。
「サービスカットって……そんなん誰得だよ?」
「「「はーい」」」
狼の問いかけに、女子三人(?)は一斉に手を挙げた。いやまあ、この三人なら狼の裸を写真に撮って永久保存くらいはしそうだけど。そのくらい変態な子たちだし。
「折角だし、みんなで温泉とか行きたいねー」
◇
……そして翌日、休日に。
「というわけで、やって来ました温泉でーす!」
「何が、というわけでなんだよ?」
美也が言った通り、狼たちは温泉にやって来ていた。具体的なメンバーは、狼たちナイツの面々、闇代、一片、美也、ほのじ、さみ、それから保護者としてついてきた優。総勢十一人の大所帯だ。
「まあまあ、近場に温泉があるんだし、たまにはこういうのも悪くないと思うよ?」
「そうかもしれんが……」
だからって、そんなに大勢で来なくてもいいと思う。そう思ったのは他の面々も同じようで。
「この大人数でぞろぞろってのは無理があるだろ」
「せめて、何人かずつに分けたほうがいいわよ」
氷室と上風の意見で、分散して温泉巡りをすることになった。
「それなら、わたしは絶対狼君と一緒がいい!」
「私もー」
「ほのじだってー」
「お前ら……ほのじは違うかもしれんが、俺とは別々だろうが」
一緒に入れないのにも関わらず、狼と同行したがる闇代、美也、ほのじの三人。ほのじは男だから例外だけど。
「じゃあ、狼たちは混浴に行って、他の子たちは色々入ってきたらどうです?」
そう提案したのは、引率で来た優。っていうかここ、混浴とかあるの?
「「「賛成!」」」
「余計なこと言うなよ!」
優の一言で、狼は美少女三人(?)と一緒に混浴が決定した。ご愁傷様。
「それと、私は一人で色々巡りますね」
それから優は単独行動。……いいのか保護者、引率係しなくて?
「んじゃあ、俺たちも適当に行くか」
「そうね」
残る氷室、上風、紗佐、戸沢、一片、さみの六人は、ぞろぞろと移動を開始した。そっちはそっちでどうするんだろうか?
「さ、狼君。わたしたちも行くよ」
「お姉さんのナイスバディーで狼君に―――(自主規制)―――とか―――(自主規制)―――とか―――(自主規制)―――してあげるね」
「ほのじは混浴じゃなくても狼君と一緒だけど、この際仕方ないよね。混浴のほうが気楽だし」
「おいこら離せっ! ちょ、おい止めろ!」
三人がかりで羽交い絞めにされて、混浴へと連行される狼。……まあ、これも何かの試練なんだろう。そうだと思いたい。
「さてと、私も行きましょうか」
そんな彼らを尻目に、優は一人で温泉巡りに繰り出した。……ほんと、相変わらず無責任な親だな。
……混浴に連れて行かれた狼は。
「……おい」
「どうしたの狼君? まだ怒ってるの?」
「もう、男なんだからこれしきのことで動じちゃ駄目だよ?」
「それに、ほのじはいつでもウェルカムだから……この場で襲い掛かってもいいんだよ?」
不機嫌そうな狼の声と、美少女三人(?)の台詞が聞こえてくる。因みに、ナレーターが闇代に目潰しされたので、映像は入ってきません。まあ、どの道文字だけだから、大差ないとは思うけど。
「お前らいい加減、体隠せよ」
「え? 何で?」
「っていうか寧ろ見せてるのに」
「ほのじには隠す理由なんてないし。それに、お湯の中にタオル持ち込むのはマナー違反だよ?」
会話の内容から察するに、闇代たちはすっぽんぽんの状態で狼と一緒らしい。いくら狼が、女体の神秘にこれっぽっちも興味を抱かない人でも、それはさすがに気まずいのだろう。
「おっさんとか入ってきたらどうするつもりだ?」
「大丈夫、結界張ってるから」
「すげぇ迷惑だなおい!」
そんなところで本編設定持ち込まないで欲しいんだけど。こっちではファンタジー系のネタはやりたくないのに。という要望は却下されました。
「っていうか、狼君以外に見せるわけないじゃん」
「そうだよ、NTRは大嫌いだもん」
「そんなに心配なら、ほのじの全部奪って♪」
まあ、いつも通りなのでこの辺にしとくか。
……一人で温泉巡りを始めた優は。
「ふぅ~、和みますね~」
温泉に浸かり、思いっきり体を伸ばしていた。他のお客は、優が入ってきた途端に出て行ってしまったので、今は優一人しかいない。半ば独占状態だ。
「それにしても……狼たち、仲良く出来てるみたいですね」
のんびりしながら思うのは、子供たちのこと。ここ半年ほどで色々とあったが、彼らは良好な関係を築けているみたいだ。良好というか、強引なのかもしれないが。
「もうこのまま、何事もなければいいんですが……」
これ以上何かあれば、彼らの日常は今度こそ崩壊しかねない。それを危惧しての呟きだったが、同時に優自身の願いでもあった。
「ふぅ~、それにしても、気持ちいいですね~」
とにかく今は、やっと訪れた平穏を満喫することにしたようだ。
……他の面々といえば。
「ふぅ~、たまに温泉もいいものね~」
「う、うん……いい」
「はぅ~、癒されるぅ~」
上風、紗佐、さみの三人が、足を伸ばして、温泉をじっくり堪能している。
「確かに、女の子と温泉って、夢見たいだな~」
「……ふん」
「……」
その傍らでは、氷室、戸沢、一片も、温泉に浸かっていた。……足だけ。
「まあ、ただの足湯なんだけどね」
そう、彼らは今、仲良く並んで足湯に浸かっていたのだ。決して混浴していたわけではない。いや、ある意味混浴かもしれないが。
「ってか、何で足湯なん? 折角ここまで来たのに」
「だって、お湯に浸かったら寝たくなるじゃない」
上風の言葉に、紗佐とさみが頷く。また確かに、体を洗って温まれば、眠気が襲ってきてしまうだろう。それに、女の子たちは髪を乾かすのが大変だろうし。日帰り旅行なら、無難な判断かもしれない。
「まあ、今度来ることがあるなら、泊りがいいわね。そのほうが気兼ねしないし」
「そう、だね……」
「うん……」
上風の言葉に、紗佐とさみはぼんやりと脳内劇場を上映し始めた。そして、途中で二人とも顔を真っ赤にしてしまう。
「……ん?」
「何ダ?」
「「……! わ、わわっ……!?」」
戸沢と一片が彼女たちのほうに目をやると、二人とも慌てて目線を逸らしてしまった。
「あらあら、何考えてたのかしら?」
「うぅ~……」
「はぅ~……」
上風に指摘されて、頭から蒸気が噴き出しそうなくらいに赤くなる紗佐とさみ。一体、どんな想像をしていたのやら。
「さてと、次は土産屋にでも行きましょうか」
上風の一声で、一同は足湯から上がって、近くの売店へと向かった。
◇
……夕刻。別行動をしていた面々が再び集合した。
「ふぅ~、楽しかったぁ~」
「温泉でお肌すべすべだよ~」
「すっきりリフレッシュできたよ~。色んな意味で」
闇代、美也、ほのじの三人は、心行くまで温泉を堪能したほうだ。肌に艶がありすぎて、少し不気味なくらいには。
「……」
彼女たちとは対照的に、狼は異様なまでにぐったりとしていた。……何があったのかは、詮索しないのが情けだろう。
「お土産も沢山買ったし、これでバッチリね」
「うん」
「また来たいな~」
他の女性陣も満足の模様。結局、足湯にしか入ってないけどね。
「これで全員揃いましたね」
「「はーい」」
優が点呼を取った後、一行は帰宅の徒に着いた。……たまには、こんな小旅行もいいかもしれない。




