ねこねここねこねここねこ
……温泉日帰り旅行から一ヶ月ほどが経過して。
「サービスカットの次は、やっぱり濡れ場だよね」
「いきなり何の話だよ?」
普段の学校、普段の教室、普段の休み時間にて。闇代が狼に向かって、突然そんなことを言い出した。
「だって、この前はサービスカットだったし、今度は濡れ場で行くべきだと―――」
「その前に、お前が俺と絡むと大概(血)濡れ場だからな」
「絡むだなんて……きゃっ!」
「……(怒」
闇代の台詞が気に障ったらしく、狼が静かに拳を固めている。まあまあ、闇代の戯言なんていつものことなんだから……。
「狼君といちゃいちゃしたり、ねちょねちょしたりは望むところなんだけど、そうじゃなくてね。もうちょっとラブロマンスみたいなシーンが欲しいなって」
「何で俺が、お前とラブロマンスしないといけないんだよ?」
はい、読者の皆さん。これがあの「ツンデレ」という奴です。テストに出るのでよく覚えて置くように。
「そうだよっ! 狼君と―――(自主規制)―――するのは私なんだからっ!」
いつの間にか会話に入ってきたのは、下級生の教室に沸いて出た、二年生の美也。相変わらず卑猥ワード全開である。
「あのー、お三方、いちゃいちゃするのはいいとしても、休み時間の教室で―――(自主規制)―――とか叫ぶの止めて欲しいんだけど……」
苦言を呈したのは、狼とは席が隣の氷室。いい加減この光景にも慣れたようだが、さすがに―――(自主規制)―――は突っ込まずにいられなかったか。
「……はぁ」
今日も色々苦労する狼であった。
◇
「……で、どうしてこうなった?」
放課後、帰宅した狼を待っていたのは、筆舌に尽くし難い状況だった。
「にゃ~ん」
「うにゃ~ん」
「……」
「一体、どうしろと……?」
無論、言葉に出来ないから『筆舌に尽くし難い』なのだが、それでもこの状態を表そうとするなら、『猫カフェ』だろうか。しかし、この場合の『猫』とは、英語で言うところのキャットではないが。
「ね、ねえ、何が起こってるの……?」
「何か、新しいプレイなの?」
共に帰宅した闇代も戸惑いを隠せないようだったが、一方何故かついて来た美也は平然と、っていうかワクワクしている。……まあ、それはある種、生活環境の差だろう。
「あ、狼に闇代ちゃん。おかえりなさい。それから美也ちゃんも、いらっしゃい」
半分ほどがフリーズ気味な彼らを出迎えたのは、狼たちの保護者である優。因みにここは、優が経営する居酒屋『虹化粧』の店舗部分。しかし今は、居酒屋ではなく『猫カフェ』になっているが。
「……おい、この事態について、詳しく説明してくれ」
「と言われましても……私もよく分からないんです」
そう言って優は『猫』―――何故かそこにいる戸沢と、その膝に擦り寄るさみを見やった。その隣には、同じく紗佐に擦り寄られた一片もいる。さっきの鳴き声は、彼女たちが発していたものだ。
「ともかく、状況が分からんから何らかの説明を」
「そうダナ」
狼の言葉に、一片は溜息混じりに話し始めた。
「俺は放課後、所用で上沼紗佐と共に行動していたのダガ……。突然この有様になって、とりあえずここまで来た。因みに、こちらの二人とはその途中で合流した」
そう言って、彼は戸沢とさみを指差す。すると戸沢も、溜息混じりで説明を始めた。
「僕らもそんな感じだ。一緒に帰っていたら、何故か彼女がこんな風になって、まともに動けないから仕方なくここへ立ち寄ったのさ」
「ふーん、『彼女』、ね」
「……言っておくが、三人称として使ったからな」
まあ、そこに食いつくと長くなるし逸れるから、本題に戻して欲しい。
「それで、女の子たちが文字通りにゃんにゃんしてる、と」
美也の言う通り、紗佐とさみは『にゃんにゃん』と、それぞれが想いを寄せる男子に甘えていた。一体、何が起こったのか。
「何か、前兆みたいなのはなかったのか?」
「ないな」
「あったらとっくに言っている」
「それもそうか」
しかし、それでは話が進まない。せめて、何が起こったのかくらいは知りたいものだ。
「おっと、電話みたいです」
と、変なタイミングで店の電話が鳴り、優が応対に出てしまった。
「さて、どうしたものか……」
急に頭が痛くなってきたが、それは気のせいだと思いたい、狼であった。
「はい、もしもし牧野です」
店の奥に取り付けられた黒電話が鳴り響き、やって来た優がその受話を取った。
《あ、お優さん? ちょっと聞いてよ大変だよ~!》
電話の相手は、若手女性刑事、小宮間舞奈。優の知人で、この前起こった隕石衝突事件の際にも、陰で色々と関わった人物である。主に、隕石衝突事件を捏造する方面で。
「どうしたんです?」
《テ、テロなの! バイオテロなの~!》
「バイオテロ……?」
舞奈の話はこうだ。今日の昼間、とある研究所で作られたウィルスが、このY市にばら撒かれたらしい。犯人は捕まえたが、拡散したウィルスは一部の市民が感染してしまったとのこと。
《しかもそのウィルス、感染力は低いんだけど、感染すると大変なの!》
「具体的に、どうなるんです?」
《女の子しか感染しないんだけど、感染すると猫になっちゃうの!》
「は……?」
しかし、途中から話についていけなくなる優。それを察してか、舞奈も繰り返す。
《感染した女の子は、お腹の空いた猫みたいな状態になって、好きな異性に甘えまくるようになるの!》
「……」
何そのふざけたウィルス? と思わざるを得ない優であった。
◇
「というわけで、これはバイオテロによる新種ウィルスが原因みたいです」
電話の後、優は店に戻って、狼たちに状況を説明していた。それを聞いて、狼は頭痛を堪えるのに必死だった。
「ってことは何か? 二人はそのふざけたウィルスが原因で、こんな猫みたいになってるのか?」
「どうも町中がこんな感じみたいですけど」
なんとも、狼でなくても頭の痛くなる話だ。恐らく、町のあちこちでそんな現象が起こっているのだろう。……何故下校途中で気づかないんだ?
「ってか、それならなんで闇代と美也は平気なんだよ?」
「そもそも感染力が低いみたいですし、色々と丈夫な子たちですから」
狼の疑問に、優はそう答えた。そりゃまあ、普通に規格外な子たちだ。感染力の低いウィルスなど、取るに足らないのだろう。
「「にゃ~ん」」
「なんか唐突に感染した!?」
かと思えば、闇代と美也が甘い声を出しながら狼に擦り寄ってきた。……って、絶対こいつら態とやってるだろ。
「ど、とうしろと……?」
「そのまま、好きにさせてあげたらいいんじゃないですか?」
結局この『集団にゃんにゃん事件』は、警察によってワクチンが配布されるまで続いたのだった。




