事後処理大変
◇
「おはよー……って、どうしたのよ、そんな浮かない顔して」
「……ん。ああ」
翌日。登校してきた狼を見て、上風が不思議そうな顔で尋ねてくる。けれど彼はどこか上の空で、上風の話をまるで聞いていないようであった。
「どしたの? 狼の奴」
「そっとしてあげて。ね?」
仕方なく上風は、その後ろから入ってきた闇代に問いかけてみるも、その返答も今一要領を得ない。
「あ、紗佐。おはよー」
「上風ちゃん……うん、おはよう」
今度は紗佐が登校してきたが、彼女もどこかぼんやりしている。まあ、昨日のあれがあるとはいえ、ぼんやり率が些か高い気がしないでもない。
「っていうか紗佐、昨日は狼と帰ったんでしょ? 何かあったの? 狼の奴、なんか様子がおかしくて……」
そういえば昨日、上風も『闇代拘束大作戦』に参加していた。だから、二人が一緒だったことは知っているのか。
「……うん」
「え、何があったの?」
問いかけられて、紗佐は半ば反射的に頷いていた。そのため、上風に食い下がられる羽目に。
「ふぇぇ……!? え、えっと……」
しかし、昨日のことを話すのは躊躇われた。そのことを失念した状態で適当な返事をしてしまった事実に、紗佐はようやく気づいたのだが、うまく誤魔化す方法が思いつかなくてフリーズしてしまう。
「余計な詮索するな」
そんな紗佐を見かねたのか、狼が強い口調で上風を窘める。
「何よ、心配してるんじゃない!」
「余計なお世話だっての」
素っ気無い態度に腹を立てた上風だが、狼は冷たく拒絶するだけで、取り合うつもりもないらしい。
「……そう、じゃあもういいわよ」
やがて諦めたのか、俯きながら教室を出て行く上風。教室にいた他の生徒たちが、痴話喧嘩か何かと勘違いしてざわめいている。
「ちょっと、フォローしてくるね」
「……悪い」
「気にしないで」
誰に頼まれるでもなく、上風を追いかける闇代。彼女は今回の件について、狼から話してもらうまでは一切関わらないスタンスなのだ。だからこそ、狼が事情を話さないことによる軋轢を、少しでも解消する方向で動いているのだろうか。
「あの、えっと……ご、ごめん、なさい」
「気にしてねぇよ」
目が合って、思わず謝る紗佐に、狼はそう答えて自分の席に着いた。
「うぅ……」
昨日は偉そうなこと言ったくせに、今日はいつもと同じ駄目駄目だ。と言いたげに項垂れる紗佐。彼女も自分の席に着こうとしたとき、またもや教室に生徒が入ってきた。
「あ、天野さん……!」
「……!? 上沼、さん―――」
入ってきた女子生徒―――あかりと、紗佐が顔を合わせ、お互いに驚いたような声を上げる。
「き、来たんだ、学校……」
「う、うん……」
あんなことがあったせいか、二人の会話はどこかぎこちない。それでも、あかりは懸命に言葉を紡いだ。
「あ、あの……昨日、うちに来た、よね?」
「う、うん……えっと、こ、向坂君と、一緒に」
「そ、それでね……えっと、き、昨日はその―――ごめんなさいっ!」
「ふぇ、えぇ……!?」
すると突然、あかりが勢いよく頭を下げだした。しかし、下げられた紗佐は困惑するばかりである。
「私、上沼さんにも、向坂君にも酷いこと言って……本当に、ごめんなさい」
「え、えっと……こ、こっちこそ、突然押しかけて、ごめんなさい」
朝の教室で、ペコペコと頭を下げあう二人。なんとも異様な光景だ。
「ったく、何やってんだかあの二人は……」
そんな彼女たちを、狼は微笑ましく思いながら眺めていた。




