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クインテット。ナイツ 日常編  作者: 恵/.
P―繋がる。ナイツ
28/36

事後処理大変


  ◇



「おはよー……って、どうしたのよ、そんな浮かない顔して」

「……ん。ああ」

 翌日。登校してきた狼を見て、上風が不思議そうな顔で尋ねてくる。けれど彼はどこか上の空で、上風の話をまるで聞いていないようであった。

「どしたの? 狼の奴」

「そっとしてあげて。ね?」

 仕方なく上風は、その後ろから入ってきた闇代に問いかけてみるも、その返答も今一要領を得ない。

「あ、紗佐。おはよー」

「上風ちゃん……うん、おはよう」

 今度は紗佐が登校してきたが、彼女もどこかぼんやりしている。まあ、昨日のあれがあるとはいえ、ぼんやり率が些か高い気がしないでもない。

「っていうか紗佐、昨日は狼と帰ったんでしょ? 何かあったの? 狼の奴、なんか様子がおかしくて……」

 そういえば昨日、上風も『闇代拘束大作戦』に参加していた。だから、二人が一緒だったことは知っているのか。

「……うん」

「え、何があったの?」

 問いかけられて、紗佐は半ば反射的に頷いていた。そのため、上風に食い下がられる羽目に。

「ふぇぇ……!? え、えっと……」

 しかし、昨日のことを話すのは躊躇われた。そのことを失念した状態で適当な返事をしてしまった事実に、紗佐はようやく気づいたのだが、うまく誤魔化す方法が思いつかなくてフリーズしてしまう。

「余計な詮索するな」

 そんな紗佐を見かねたのか、狼が強い口調で上風を窘める。

「何よ、心配してるんじゃない!」

「余計なお世話だっての」

 素っ気無い態度に腹を立てた上風だが、狼は冷たく拒絶するだけで、取り合うつもりもないらしい。

「……そう、じゃあもういいわよ」

 やがて諦めたのか、俯きながら教室を出て行く上風。教室にいた他の生徒たちが、痴話喧嘩か何かと勘違いしてざわめいている。

「ちょっと、フォローしてくるね」

「……悪い」

「気にしないで」

 誰に頼まれるでもなく、上風を追いかける闇代。彼女は今回の件について、狼から話してもらうまでは一切関わらないスタンスなのだ。だからこそ、狼が事情を話さないことによる軋轢を、少しでも解消する方向で動いているのだろうか。

「あの、えっと……ご、ごめん、なさい」

「気にしてねぇよ」

 目が合って、思わず謝る紗佐に、狼はそう答えて自分の席に着いた。

「うぅ……」

 昨日は偉そうなこと言ったくせに、今日はいつもと同じ駄目駄目だ。と言いたげに項垂れる紗佐。彼女も自分の席に着こうとしたとき、またもや教室に生徒が入ってきた。

「あ、天野さん……!」

「……!? 上沼、さん―――」

 入ってきた女子生徒―――あかりと、紗佐が顔を合わせ、お互いに驚いたような声を上げる。

「き、来たんだ、学校……」

「う、うん……」

 あんなことがあったせいか、二人の会話はどこかぎこちない。それでも、あかりは懸命に言葉を紡いだ。

「あ、あの……昨日、うちに来た、よね?」

「う、うん……えっと、こ、向坂君と、一緒に」

「そ、それでね……えっと、き、昨日はその―――ごめんなさいっ!」

「ふぇ、えぇ……!?」

 すると突然、あかりが勢いよく頭を下げだした。しかし、下げられた紗佐は困惑するばかりである。

「私、上沼さんにも、向坂君にも酷いこと言って……本当に、ごめんなさい」

「え、えっと……こ、こっちこそ、突然押しかけて、ごめんなさい」

 朝の教室で、ペコペコと頭を下げあう二人。なんとも異様な光景だ。

「ったく、何やってんだかあの二人は……」

 そんな彼女たちを、狼は微笑ましく思いながら眺めていた。

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