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南嘉手納荘四号棟  作者: Resetter


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17. みまもり


 翌日。


 社長の言葉通り、面会の申し入れがあった。

 特に断る理由もない相手だったので、すぐに通してもらったんだけど。


「さ、佐藤さん……だ、大丈夫……? それ……」


「中井次長。お疲れ様です」


 中井次長は、病室に入った瞬間、目を丸くしていた。


「全治三ヶ月なんだって……?」


 顔が、青い。

 この人は、嘘が下手だ。というか、素直なのよね……。


「はい。そうなんですよ」


 中井次長は、社長派らしい。

 先代への恩で、そのまま二代目に付いている……んだっけ。

 

 確かに、中村本部長の愚痴ばかりだった気がする。

 白峰専務とは、付かず離れずな印象だったけど……。あれは、いいように利用されてたのねぇ。


「そうか……。まぁ、今日は様子を見に来たんだけどさ」


「社長に言われたんです?」


「それもあるけど、次長として、ね」


「わざわざ、ありがとうございます」


「まぁ一応、俺も立場があるし。来るよ、上司として」


 中井次長は、ことあるごとに、こんなことを言う。プライドだけは、無駄に高いのよねぇ……。


「それに、ちゃんと書類も持ってきたしさ」


 中井次長が、鞄からA4サイズの茶封筒を取り出した。

 ……ちゃんと用件もあったのね。


「書類……?」


「そうそう。社長からサインもらってこいって、渡された」


「……は、はあ」


 ギプスの腕をゆっくりと動かして、受け取った。封はされていなかった。

 のそのそと、中身を取り出す。

 

 目を通すと。

 一枚目は、案内文書……もとい、手紙のようなものだった。


 要約すると。

『送った書面にサインするなら、労災申請だろうが、給与補償だろうが、治るまでの間、面倒みてやるよ。退院したら解雇だがな』

 と、いう事だった。


 本題の書面は……。

『当社内で勤務時に知り得た情報について、外部漏洩は固く禁ずる。違反した場合は、法的措置も辞さない』

 という文言が、何とも黒々としていて、寒々しかった。


 秘密を漏らしたら訴えるぞ! ね……。

 むしろ、()()社長相手なら、この措置が、生温いとさえ感じる。

 こんな事で身を守れるなら、やすいもの……かも、ね。


 なんて。

 私も、ずいぶん毒されて……。

 会計事務所の頃は、平和……だったわね。今の私は……もう……。

 

 軽く瞑った目を開け、力の全く入らない手で、ペンを緩く握って、サインをした。


「……では、中井次長。こちら、よろしくお願いいたします」


「ああ、社長に渡しとくよ」


 中井次長は、茶封筒を鞄に入れた。


 この人も時々、雑用的なこともやらされていたわね。立場を考えれば、生産性が低い配置よね。

 

 責任感がある(ふう)の事を言ったりするのは、部下たちに慕われたいからでしょうけど。

 この前も騒ぎの収拾に、あんまり役に立ってなかったけど、最後はキメようとしてたしねぇ。


 あ。

 あれ結局……どうなったのかしら。

 

「次長。そういえば、炭田さん緊急搬送されましたよね? もうよくなったんですか?」


 中井次長は、あの時も付き添っていた。炭田、明らかに普通じゃなかったけど……。


 すると、さっきまでの自信ありげな表情から一転。中井次長は、ふいっと目を逸らした。


「……まだ、入院してるよ。ていうか、復帰は……難しいかも……」


「えっ……? そんなに悪いんですか?」


「なんか……まともに会話が出来ないんだよ……。俺も見舞いに行ったけど……。ずっと、奇声……? 酷くてさ」


 中井次長は、更に顔を曇らせて、下を向いた。

 この感じだと、あの日の状態より、相当酷くなってそうね……。


「原因は……? 何か病気ですか?」


「原因不明……らしい。なんなんだろうな……」


 原因不明……。

 私の体調不良も、同じ……なのかしら。

 だとしたら……私も、そのうち……?

 ……そんなの、嫌に決まってる。


 ――原因……か。


 寮……。全ては、あそこ(四〇二号室)から……よね。


「次長。あの寮って、何なんですか? 名前も変ですよね……」


「ん? 寮? あれは昔、専務が沖縄で大きな商談を成功させた記念に、先代が建てたんだよ」


 商談……?

 

「相手は、外国人ばっかりの変な会社だったけど。あれから急に売上伸びたんだよな。功績上げて、記念に寮が建つ……とか。専務が羨ましいよ」


 外国人……? それって……。


「……まぁ、また来るよ。他に誰か来るかもだけど、今は国税が来てるし、戸田部長は無理だろうな。残念だろうけど」


 いや……あの人には来て欲しくないわよ……。


 恐ろしくズレた言葉を残し、中井次長は帰っていった。


 本当に困った人ね……。

 

 ふと、荷物入れが目に入る。

 割れたスマホ。

 データ移行しないと、もう使えないスマホ。

 色々と、困り事だらけだけど……。あんな人たちしか来てくれないのも、また困り事よね。


 ――そういえば、リッセーはどうしたのかしら。


 元々、プライベート的なメッセージが多いタイプじゃなかったけど……。

 次の計画って、何してるのかしらね……。文面に残すような真似は、するわけない……か。


 天井を、見上げた。

 白い、天井。

 一角に僅かな、黒い、染み……。


 ――ブンッ

      ――ブンッ


 突如、リッセーから渡されたスマホが、震えた。


 LINEを開く。

 

   ┌――――――――――――┐

織瀬  技術部の橋上が、見舞いに

    行く。

    ちょっとしたプレゼントが

    あるから。

    サプライズ?

    かな?

   └――――――――――――┘ 13:13

   ┌――――――――――――┐

織瀬  まぁお楽しみにー

   └――――――――――――┘ 13:13


 

 技術部の橋上君……と言えば、ちょっと変わり者とか言われてる若手よね。

 

 そういえば、実家が微妙に遠いから、寮も借りてたはず。確か……五号棟ね。

 サプライズ……?

 

 ――ブンッ

 

   ┌――――――――――――┐

織瀬  あ、そうだ。

    差し入れ食ったらだめよ?

   └――――――――――――┘ 13:14


 差し入れって、何のこと? 橋上君が持ってきてくれるのかしら。

 でも、食うな……?


 ――コンコンコン


「はい」


 ノックの音に、返事をすると。


「失礼しまーす」


 少し間延びした若い男の声。スッと扉が開く。


「あら、橋上君……」


「お疲れ様ッス。うわ……佐藤さん、マジやばっすね……。ミイラ男じゃないっすかー」


 橋上君は、糸みたいに細い目を、極限まで開いていた。

 ……実は、わりと開くのね?


「……ミイラ男って。コレ、ギプスよ。包帯じゃないっての」


「あはは! まぁ、元気そう? で、何よりっすね」


「……いや、元気ではないわよ。……言葉のチョイス、どうなってるのよ……」


 少し、頭痛がしそうだった。


「あー、ほら、喋れてるし? 元気じゃないっすか」


「……そういう時は、『無事で何よりです』とか言うのよ……。他の人のお見舞い行く時は、気を付けなさいよ?」


「あはは! まぁ、あんまりそんな機会は要らないっすねー。てか、今日もオリッ(織瀬)さんから頼まれただけなんで!」


「ああ、そうなのね」


「コレ、ちょっと借りますねー」


「……えっ?」


 言うが早いか橋上君は、リッセーに渡されたスマホを手に取った。


「ん、おっけー。対応してるな……よしよし……。お、ばっちり……。はい。終わったっす」


 そして、何か操作をしたようだった。

 

「……なにが?」


「アプリ、増えたっしょ?」


 画面を見れば、確かにアイコンが増えていた。

 

 ――見守りカメラ……?


「じゃ、頼まれたのは、こんだけなんで! おつっした!」


「ああ、はい……」


 橋上君は、特に説明もせず、サッと帰って行った。

 

 ……え?


 どういうこと……? 差し入れって、これ……?


 ――ブンッ


 頭の中が疑問符で埋め尽くされた時、またもスマホが震えた。

 LINEの新着メッセージが、一件。バナーをタップする。


   ┌――――――――――――┐

織瀬  時間的に、橋上来たかな?

    アプリ使用のタイミング、

    またLINEするよー

   └――――――――――――┘ 16:46


 まるで、見越していたようなタイミングだった。

 

 ……見守り?

 リッセーは、一体何を……。

 

 まだ、終わらない……?


 病室の温度が、ぐっと下がった……気がした。


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― 新着の感想 ―
 はっ!  気づいたら続きがない!  これはミステリーか!・ω・  めっちゃ面白いです!
まだ終わらない気配を“見守りカメラ”ひとつで立ち上げるの、静かなのに不穏さが強くて、続きへ引っ張る力がすごいです。続きを楽しみにしております。
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