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南嘉手納荘四号棟  作者: Resetter


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15/18

15. 歪んだ白



 ――音が、聞こえる……。


 ドンッドンッ……ドンッドンッ……。


 叩く、音……?

 

 これって……。

 最近、どこかで……嫌というほど、聞いた……ような……。

 


(ダレカ……コイヨ……アケ……ロ……ナな……コ……ドコ……ダ……)


 呼んでる……? 誰……?


(……サ……トう……サン……?)


 あれ……? この声、小野君……?

 その声に、目を……開いた。


(ド、コ……いク……ンダ……コ、こハ……)


 ここって……?


 キョロキョロと見回す。

 ……白い霧がかったような世界。

 視界が……歪んでいるのか、世界が歪んでいるのか……。ゆらりゆらりと、理解を阻む。


 ――ああ……。

 どうやら私は、あの……四〇二号室の真ん中に、立っているようだった。


(オオ……イ……ヘンナ……ヤツラ…………)


 多いって? どういうこと? この部屋の……犠牲者ってこと?


 ……返答は、ない。


 目を凝らして、辺りを見渡すと……。

 白い……(もや)が、一面に……陽炎(かげろう)のように揺らめいている。


 ――これは……?


(キタ……ユう……キ……サン……アハ……ハはハハハハハハハハハハハ――)


 勇気? 篠原勇気……?


(クハ……ハハハ……! キタ……! ナカ……マ……!)


 どうにも、会話になっていない気がした。

 ぼやりとした姿の小野君は、ドンッドンッと、ひたすらにドアを叩いている。

 白い陽炎たちが、玄関の方へ、揺らめきながら集まっていく……。


 そして、私は何故か急に……薄暗い道を歩いていた。

 どこ……? 見覚えが……あるような。


 前方に、人影。長い、金髪……? あれは……?


 声を、掛けようと……走り出した時。

 白い車が、私の後ろから音もなく――身体をすり抜けていった。


 ……え?


 ――夢……?


 …………。


 ……。


「……藤さん――」


「佐藤さん……」


「佐藤さん……! 聞こえますか……?」


 ……ん? 白い……天井……?


 知らない、天井、だわね……。

 どこ……ここ……。視界が、霞んでる……。

 うっ……身体……動かない……。寝てる……? え……? なんで……?


「佐藤さん! 聞こえますか?!」


 纏まらない思考が、切り裂かれた。くわんくわんと頭に響く、必死そうな女性の声だった。


「……えっ? あっ……。えっ……と……。うっ……ぐっ……」


 その若そうな女性の呼び掛けに、身体を起こそうとするも……。

 雷に撃たれたような激痛が全身を襲ってきて、その意思は強引に阻まれた。


「……う……あぁ……」


「あっ、動かないでください。まだ無理なので。ちょっと、お待ちくださいね。先生、来ますから」


 何とか目だけで声の主を確認したら、白衣が目に映る。どうやら看護師さん……のようだった。

 ……先生? ということは、ここは病院、かしら。


 ――病院? なんで? 私は一体……。


 確か、国税の監査を手伝って……四〇二号室に行った、のよね。それで……帰社しようとして……。


 あれ? 記憶が、途切れている……?

 

 ……それに、さっき小野君を見た気がする。

 あれは、やっぱり夢……?

 小野君と話した後、急に知らない道を歩いていたし……。なんだったのかしら……。駄目だ、頭が――。


 ――コンコンコン


 ノックが、響いた。


「佐藤さん、目が覚めたようで、よかったです。状態確認のために、いくつか質問をしますね」


 そして、若そうな男性の声がした。

 

 目線だけ何とか向けると、白衣の男性だった。おそらく医師……なんでしょうね。


「は、い……」


 医師の問いかけに、答えた。

 口の中が、鉄錆の味と、粘り気に支配されて、喉が焼けるようだった。

 そこから絞り出した声は、掠れ声もいいところ。聞くに堪えないものだった。


「お名前は?」


「さとう……めぐる……です……」


「ご年齢は?」


「よんじゅう……に……です……」


「ご職業は?」


「せいぞう……しょうしゃ……の……そうむ……けん……じんじを……」


「ありがとうございます。……では、今日はこの辺りで。後は、看護師の方から説明がありますので。お大事にしてください」


 そう言って、医師は部屋を出て行った。



「佐藤さん。今日は、もう話さなくていいですからね。説明だけしておきますね」


「は……い……」


「ああー、話さなくていいですって! ……えっと、佐藤さんは、交通事故に遭って、三日前に運ばれてきました。かなり危険な状態で、緊急手術が必要でした。術後、今まで昏睡状態だったのですが、先程目を開けられましたので、お声がけしました」


 手術……? 昏睡……? 三日前……?!

 頭の中は、霞みがかったようで……。看護師さんの言葉を理解するのに、時間がかかってしまう。


「なんでも、救急車到着前の措置が、迅速だったそうで。同乗者の三人も、生命は取り留めていますよ」


 同乗者……。

 森島さんたち……! そうだ……! ああ……。よかった……。

 少しずつ、思い出してきた気がする。


「事故の相手は、残念ながらお亡くなりになりました。補償については……警察の調査結果次第になるかも知れません。事故車両が、燃えてしまったそうなので……」


 燃えた……?

 激しい、事故……だったのね。よく生き残れたもんだわ……。

 調査結果って……保険証券も何もかも燃えて、分からないってことかしらね……。


「それと、同僚と仰られていた方から、預かったものがありますので、お渡ししますね。と、言っても、まだ確認出来ないかも知れませんが……」


 看護師さんが、スマホを差し出してきた。


 よく見ると、両腕ともギプスが巻かれていた。何とか動いた左手で受け取った。


 旧式で、小さいサイズのスマホだった。

 ……これなら片手で使えそうね。


「他に預かったものは大きいので、そちらの棚と籠に入れてありますから。また後日に確認してくださいね。では、また巡回の時間に来ます。何かあったら、ナースコールを押してくださいね」


 そう言って、看護師さんは、少しの笑顔を残して、部屋を出て行った。


 スマホの画面をスワイプすると、ロックはかかっていなかった。


 アプリは……LINEのみ。

 新着を知らせる赤い数字が、アイコンに付いていた。


 ゆっくりと……指を這わせるように、タップする。


 リッセーからの小刻みなメッセージだけがあった。

 

   ┌――――――――――――┐

織瀬  佐藤さん

    これを見てるって事は、

    意識が戻ったって事だな。

    ひとまず、よかったよ。 

    かなり酷い状態だったし

    心配したよ。

   └――――――――――――┘ 3:10


   ┌――――――――――――┐

織瀬  佐藤さんが窓の鍵、開け

    といてくれたから、計画

    通りに事が進んだよ。

    ありがとう。

   └――――――――――――┘ 3:11


 と、いうことは……。

 ブレイブの何人かは、あの部屋で……死んだ……のね……。


   ┌――――――――――――┐

織瀬  ただ、佐藤さんたちが先に

    やられるとは……

    未然に防げなくて、申し訳

    なかった。

 

    オレは、次の計画を進める

    よ。

    佐藤さんは、身体を治す事

    だけ考えてくれな?

    また、連絡するよ

   └――――――――――――┘ 3:15


 リッセー……。

 あの時言っていた、ひとつ目の計画……。

 

 証拠隠滅作業をするだろう、ブレイブの篠原をあの部屋で殺害する。

 だから、監査に入る日に、窓の鍵を開けたまま帰って欲しい。そんな話だった。

 ……だから、私はその通りにした。


 天井を……見詰めた。


 白い、天井……。


 私は、白峰たちから、逃げたかったんだろうか。

 それとも、許せなかったんだろうか……。


 リッセーの、役に立ちたいとは、思った。

 でも、こうして殺されかけてすら……自分の手で、人を殺めるだなんて……。

 リッセーは、どうしてそこまで……。

 役に立つ、とは……つまりは、こういうこと……。

 これも、ある意味、私が望んだ……こと……。


 ――視界が、歪んだ。

 

 温かい雫が……こめかみを伝っていった。

 

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― 新着の感想 ―
共犯ではないはずの佐藤が、気づけば“加担してしまった側”に立たされている、その白さの中の取り返しのつかなさが、すごく痛い。
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