043.共和国の聖女認定
数日後の午後。
自宅の居間に来客があった。
案内した侍女のピレとリアは、緊張でガタガタと震えながらも、必死に笑顔を貼り付け給仕していた。
やってきたのは、この共和国の補佐官でもあるディミウル親方。
そして、この国の元首であるエフリステ=ディ=アレキサンダー大統領であった。
エフリステ大統領は、ドワーフ族の中でも一段と分厚い胸板を持ち、鍛え上げられた丸太のような腕を誇る大男だ。
固く編み込まれた白銀の髭が胸元まで綺麗に伸びており、権威を示す朱色のマントを羽織っているが、その下は無骨な鍛冶着のままであった。 ディミウルも同様なので、それがこの国の正装なのだろう。
彼の青い瞳は、好奇心を宿し私をじっと見つめている。 大統領、つまりはこの国の最高権力だ。 そう思うと思わず緊張してしまう。
「カナ殿。 ディミウルから話は聞いた。 これを受け取ってほしい!」
語尾強めなエフリステは、厳重に施錠された木箱から、一つの美しい装飾品を取り出した。
それは、かつてのパチスロコインと思っていた神銀を、ディミウルが加工したであろう、勾玉のような美しい白い結晶であった。
「聖玉だ」
ディミウルからそう言われたそれを手に取る。
観察のスキルを通して視ると、その聖玉には「魔力節約」と「聖魔力向上(大)」という付与効果が宿っていた。
「それに見合うメイスを作らせる。 だからもう少し時間をくれないか?」
大統領からのお願いだが、メイスと言われ戸惑ってしまう。 そして私は愛犬を見た後、二人に事実を伝えるためにゆっくりと口を開く。 これを装備するなら私ではなく愛犬の洋画良いだろう。
「……聖女なのは私じゃないの。 そこにいるレイが聖女よ。 私はただの保護者で、レイの能力の一部を代行できるだけだから……」
そんなボカした言い方をした私は擦り寄る愛犬の頭を撫でる。 実際は私も愛犬も、双方がその力を十全に使えるのだ。
私の言葉に、二人は大きく目を見開いた。
愛犬の為に見合う装飾品を作ると息巻く二人により、私の生活は、新たな局面を迎えることとなったことを、今はまだ気づいていなかった。
――― 数週間の収支
市場での買い物など -3,982,500ダル
ドライヤー購入 -18,800ダル
販売利益 700,000,000ダル
残高 2,401,566,434ダル
◆◇◆◇◆
数週間前。
テクトンティア共和国宮殿内、大統領執務室。
重厚な灰色の石壁に囲まれ、随所にドワーフ族の過去の偉人が作り上げたという伝統的な彫刻が施された室内で、二人の男が深刻な顔で対峙していた。
部屋の主である大統領エフリステは、白銀の髭を震わせながら、机の上の資料に目を落としている。
その向かいに立っているのは、赤褐色の長い髭を持つ筆頭補佐官ディミウルであった。
彼は仕事中ということもあり、煤と油の染みついた頑丈な革の作業着の上に、補佐官の証である黒い紋章入りの肩掛けを斜めに羽織っていた。
「例の、髪を乾かす魔道具だが……あの構造は驚異的だな」
エフリステの言葉に、ディミウルは小さく頷いた。
「さようですね。 我が国の技術でも、あれほど高効率かつ小型のものは再現できません。 中身には板の上に魔法陣とも違う複雑な何かが張り付き、それらがあの強い風を安定して送っていると思われます。 あの女は、何者なのでしょう……」
エフリステはディミウルの疑問に答えるように、隣国であるキフォスニケ王国から入ってきた密偵の報告書を差し出した。
「魔人退治を行った黒髪の少女と白い獣。 王国は否定しているが、あの少女こそが、王国にドライヤーを持ち込んだカナという娘だ。 つまり、あれは彼女が何らかのルートから仕入れることができ、かつ、本物の聖女なのだ。 異世界よりの召喚者、とみて間違いないだろう」
その言葉に、ディミウルは「あの少女が聖女……」とつぶやく。
このテクトンティア共和国への魔人の出現予告は、すでに神殿の神託によってもたらされている。
アレクストラトス帝国に現れるという「槌の魔人」という忌まわしき存在。 それに対抗するには、聖女と勇者の力が必要不可欠なのだと言い伝えられている。 だが、勇者に関する情報は未だにどこからも聞こえてこない。
「彼女には、高度な技術を持つ協力者が背後にいるのかもしれんな……それこそ勇者と呼ばれる異世界人のような仲間も……」
ディミウルの推測に、エフリステも瞳を輝かせる。
「いずれにせよ、彼女の力が必要になる。 近く、その少女を宮殿へと呼び出す算段を整えよう」
鉄と石の香りが漂う執務室で、二人は静かに次の計画を練り始めていた。
◆◇◆◇◆
カナの屋敷。
来客を告げるベルにいち早く反応し、来客なんて珍しいなと思いながらも出迎えたピレは、初めて間近で大統領という存在を見て思考停止を起こした。
数分後、緊張で足がガクガクと震えるのを堪え、同じく固まってしまったリアと一緒に給仕に専念する。
そして、自分たちの雇い主であるカナお嬢様が聖女であることを知った。
まだ頭の混乱は収まらない。
えっ? レイ様が聖女? もはや理解不能だ。
だが、大統領と補佐官が、人族であるカナに深く頭を下げているのだ。 冗談などではないことは一目瞭然だった。
さらに、カナお嬢様が魔道具を一つ差し出すと、見たこともない白金貨の山がテーブルの上に現れた。 カナお嬢様は顔色一つ変えることなく、それを腰の袋に納めてみせた。
これが、カナお嬢様の本来の姿なのだろう。
ピレは、できることなら一生カナお嬢様に仕えたいと思った。 隣で呆けているリアも、きっと同じことを考えたはずだ。
嵐のような光景が終わると、ピレとリアはそれぞれの実家から特別なルートで仕入れられる限界の、最高級品の仕入れ値を確認すべく動き出した。 金額次第でカナお嬢様に相談しなければならない。
本物の価値を知るカナお嬢様ならば、良い品には惜しみなくお金を出してくれるに違いない。
あれだけの白金貨を、平然と取り扱っているのだから。
次回、カナはさらに暇を持て余し……
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